大黒屋での個展は今回で5回目、現在サロン展示中の山本雄基さんによるアートを語る会が行われました。プロジェクターで作品のイメージを見ながら制作について説明があり、独自の絵画論を熱く語っていただきました。
最初に、〇が特徴的な作品の制作過程について説明がありました。見える〇と見えない〇の層を積み重ねて構築される作品は「見えないけど感じる」ことを強く意識して制作されるそうです。見えるけど見えない、裏と表、明と暗、対立する要素をいかに「融和」させていくかが制作のポイントだといいます。シンプルな〇を使っていますがプロセスは奥深いなと感じました。
次に大黒屋という場を考えた今回の展示についてお話がありました。板室には自然の風景がパノラマのように広がっていて大黒屋は横の力が強い場所だそうで、過去3回の展示では横構図の作品をメインに展示していました。それに対して縦の力は人間が2本足で大地に立ったり塔やビルが建っているように人工的な要素を持っていて、今回はメインの作品を縦構図にしてどのように大黒屋の場と「融和」させていくか考えたそうです。
山本さんは現代美術作家として作品制作していることを強く自覚しているそうです。現代美術は一見するとどうやって見たらいいのか分からない要素を持っています。しかし、その「分からない」ことが「おもしろい」のだといいます。美術の歴史を勉強するうちに絵画特有のおもしろさを発見してその世界観に惹き付けられたそうで、絵画の表現手法の可能性を信じて今まで制作を続けてきたとお話しました。
実際の絵画制作をプロジェクターに映したイメージで実演しながら説明していただきました。絵の中で空間をコントロールしながら奥にあるものを手前に見せたり、見えている形と空間の矛盾を生み出す作品の仕組みの説明では、お客様から「おぉ~」と驚きの声も聞こえてきました。メインの作品についても説明があり、〇の配置で縦や横のラインが見えるように意識して制作されたそうです。
山本さんの作品は人工(=縦)と自然(=横)の存在を一つの画面に存在させ、人の目の錯覚を利用して矛盾が生じる画面構成になっています。しかし、絵を見ていると心が落ち着くような爽やかな気持ちになります。知性で捉えきれない矛盾ですが、感性によるバランス感覚では心地よさを生み出しています。これが山本さんのいう「融和」を目指した絵画の魅力ではないかと思いました。合理的な仕組みで成り立っている現代社会を感性の目で見つめてみたらどうだろうか、というメッセージを受け取ったようにも感じられたアートを語る会でした。
山本雄基さんの展示は8月30日(木)まで行われます。どうぞお運びくださいませ。