9月の音を楽しむ会はソプラノ 西田真以さんとピアノ 中ノ森めぐみさんによる演奏会が行われました。今回で3回目の出演、西田さんがイタリア留学時代によく歌っていたオペラ作曲家ドニゼッティとイタリア歌曲の作曲家トスティの2人に焦点を当てて1800年代のイタリアロマン派音楽の世界を披露していただきました。
ドニゼッティは「ドン・パスクアーレ」や「愛の妙薬」など、喜劇オペラをいくつか書いた一方で当時有名だった小説や歴史的な出来事を題材とした悲劇的なオペラも多く作曲して、あまりの悲しさにヒロインの精神が錯乱する様子を技巧的に表現した狂乱の場は彼の得意とするもののひとつでした。
「ドン・パスクアーレ」より “あの眼差しに騎士は”
陽気なオペラ「ドン・パスクアーレ」の第1幕で若い未亡人のヒロイン ノリーナが、恋愛小説を読みながら、自分もその物語の女性のようにどんな男性の心も操れるのよ、といたずらっぽく歌う独唱。西田さんの歌声が作る世界は迫真的で美しいもので表現力の素晴らしさを感じました。
「アンナ・ボレーナ」より“私の生まれたあのお城....邪悪な夫婦よ”
イギリスのヘンリー8世に着せられ、死刑を待つロンドン塔から最終幕のこの場面が始まり、この独唱は語りのレチタティーヴォ、心情を語ったアリア、怒りの最終節のカヴァレッタと三部構成になっています。雷鳴のように甲高く切り裂くような悲しみを帯びた歌声から物語の場面が頭の中に連想されて、会場の雰囲気も物語の世界に入っていくようでした。
中ノ森さんのピアノソロはレスピーギ作曲「6つの小品」より 第3曲 “ノクターン”。ピアノの旋律が月の弧を描くように、綺羅星が鏤められた夜空の美しさを語っているようで、夜想曲の煌びやかな世界が繰り広げられました、感動しました。
後半は近代イタリア歌曲の創始者と言われる作曲家トスティの歌曲カンツォーネを披露。トスティは歌詞となる詩をとても大切にしていて、イタリア語の語感はもちろん曲のメロディ自体がまるで詩を読み上げるかのようにとても自然に作られています。
「夢」あなたが愛に溢れた眼差しで私を見つめ跪く夢を見た。固い決意も虚しく心は奪われ、手を伸ばしたその時、貴方は夢とともに消えてしまった、というロマンチックな歌。
「薔薇」本に挟まった野ばらの押し花を見つけ遠い昔のあっという間に去ってしまったひと時の恋を懐かしく、愛おしく思い出すそんな甘酸っぱい歌。
「アナタをもう愛さない」別れたばかりの恋人にまだあふれんばかりの愛情とそして憎しみを激しく伝えていて、歌詞の中で繰り返される、まだ君は覚えている?というフレーズにまだ癒えない心の傷と冷めない思いを感じます。ひしひしと伝わってくる感情が鮮明に響いてきました。
「理想の人」もう2度と会えないであろう愛する人との楽しかった日々を思い出し、その人を讃え、もう一度会いたいと強く願うとても温かい曲。
「暁は 光と闇とを分かつ」イタリアの最も有名な詩人の1人である、ダンヌンツィオの詩によるもので夜が明ける瞬間を詩的に描いた一曲です。闇にとどまりたい思いと、永遠の太陽を待ち望んでいた気持ちの両方が見事に描かれていて、演奏会の終曲として壮大に会場に響き渡りました。
アンコールは「落葉松」。お二人の歌声と音色が心にじーんと沁みてくるようで、言葉一つ一つ、メロディの一音一音が心地よく伝わってきた素晴らしい演奏でした、感動しました。
秋の雰囲気に包まれた板室にてお二人の美しい音楽の世界を披露していただいた音を楽しむ会となりました、お越しいただいた皆様ありがとうございました。
次回の音を楽しむ会は10月26日(土)、チェロの黒川正三さんです。
どうぞお楽しみに!
2019年9月30日月曜日
2019年9月6日金曜日
矢野洋輔 展 「寝ている木、踊っている木」
9月1日より大黒屋サロンにて、第13回大黒屋現代アート公募展大賞受賞者の矢野洋輔さんによる個展「寝ている木、踊っている木」が開催されております。
矢野さんは、京都生まれ、2014年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業後、同大学院を2016年に修了。在学中から木の素材に魅了され、木の素地のみで作品を作るようになりました。桂、楠木、欅、栗、檜、銀杏、栃など、様々な木を使用し、年輪、木目、ふし穴や割れなど、木の素材本来の要素を活かしながら、木彫作品を制作しています。
使用する道具は主に彫刻刀やノミで、木を削るとシャープな断面から滑らかでツヤのある表情と心地よい木の香りが出てきます、矢野さん曰く「刃物の跡が木をより自然に際立たせる」そうです。植物や花の要素を抽出した小さいパーツが点在する繊細な作品ではパーツ全てに真鍮の芯が入っており押しピンのようになっていて、作って貼ってを繰り返し行い制作されます。木本来の形に近しい大胆な作品では自然素材と自分のせめぎ合い、木の硬さによる抵抗感や元々のサイズ感を大事に制作しているといいます。
木を彫って量を減らしてできる作品をパンのように膨らんでできた柔らかいものに見せたり、逆に石のような固いものに見せたり、素材の変換についても関心を持って「木も石と同じように積み上げたい」と話す矢野さんからは表現の可能性を追い求める強い意志を感じました。
自然の素材を用いて人がモノを作ることに関心がある、
作品とは人間が恣意的に与えた形で抽象的にしろ具体的にしろ両方とも人工物である、
本展のタイトルの意味として、「寝ている」とは「静、自然に在ったもの」、「踊っている」とは「動、自分が木を加工すること」で、自然と人工のせめぎ合いをテーマにしている矢野さんの思いが込められています。
観ることが作ること、日々の観察から生まれるモノについての情緒や感覚が自ずと作品に出てきたらベスト、だと語る矢野さんの制作スタイルから生まれる今後の作品の発展が楽しみです。
本展示では、新作を中心に旧作も合わせておよそ20点の作品を展示いたします、「言葉にできないが絶対に感じられるもの、景色が語るものがある」と話す矢野さんが心に残るものを書き起こすように真摯に制作した作品群をこの機会にご高覧いただけましたら幸いです。
展示は9月29日(日)まで開催、ぜひ板室温泉大黒屋までお越しくださいませ。
また、今回はリーフレットに、横浜市民ギャラリーあざみ野の主席学芸員、天野太郎氏に寄稿文をいただきましたので、こちらも合わせてご一読頂けますと幸いです。
矢野さんは、京都生まれ、2014年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業後、同大学院を2016年に修了。在学中から木の素材に魅了され、木の素地のみで作品を作るようになりました。桂、楠木、欅、栗、檜、銀杏、栃など、様々な木を使用し、年輪、木目、ふし穴や割れなど、木の素材本来の要素を活かしながら、木彫作品を制作しています。
制作行程として木の硬さ、色、木目などの性質に合わせて感覚的に彫り進めていきます。表れる形は普段何気なく見ているもの(動物の肉体や無機物、日常や自然の風景)が微妙に融合されたもので、作品の見え方を限定しているわけではないそうです。パンや植物、人の顔や動物に見えるものなど鑑賞者によって作品から多様な表情を感じ取ることができます。
実際にご覧になっているお客様から予想外の感想をいただくことができ、見る人によってこんなにも違って見えるのかと驚くと同時に大変面白いことだと感じました。
実際にご覧になっているお客様から予想外の感想をいただくことができ、見る人によってこんなにも違って見えるのかと驚くと同時に大変面白いことだと感じました。
使用する道具は主に彫刻刀やノミで、木を削るとシャープな断面から滑らかでツヤのある表情と心地よい木の香りが出てきます、矢野さん曰く「刃物の跡が木をより自然に際立たせる」そうです。植物や花の要素を抽出した小さいパーツが点在する繊細な作品ではパーツ全てに真鍮の芯が入っており押しピンのようになっていて、作って貼ってを繰り返し行い制作されます。木本来の形に近しい大胆な作品では自然素材と自分のせめぎ合い、木の硬さによる抵抗感や元々のサイズ感を大事に制作しているといいます。
木を彫って量を減らしてできる作品をパンのように膨らんでできた柔らかいものに見せたり、逆に石のような固いものに見せたり、素材の変換についても関心を持って「木も石と同じように積み上げたい」と話す矢野さんからは表現の可能性を追い求める強い意志を感じました。
自然の素材を用いて人がモノを作ることに関心がある、
作品とは人間が恣意的に与えた形で抽象的にしろ具体的にしろ両方とも人工物である、
本展のタイトルの意味として、「寝ている」とは「静、自然に在ったもの」、「踊っている」とは「動、自分が木を加工すること」で、自然と人工のせめぎ合いをテーマにしている矢野さんの思いが込められています。
観ることが作ること、日々の観察から生まれるモノについての情緒や感覚が自ずと作品に出てきたらベスト、だと語る矢野さんの制作スタイルから生まれる今後の作品の発展が楽しみです。
本展示では、新作を中心に旧作も合わせておよそ20点の作品を展示いたします、「言葉にできないが絶対に感じられるもの、景色が語るものがある」と話す矢野さんが心に残るものを書き起こすように真摯に制作した作品群をこの機会にご高覧いただけましたら幸いです。
展示は9月29日(日)まで開催、ぜひ板室温泉大黒屋までお越しくださいませ。
また、今回はリーフレットに、横浜市民ギャラリーあざみ野の主席学芸員、天野太郎氏に寄稿文をいただきましたので、こちらも合わせてご一読頂けますと幸いです。