2019年9月6日金曜日

矢野洋輔 展 「寝ている木、踊っている木」

9月1日より大黒屋サロンにて、第13回大黒屋現代アート公募展大賞受賞者の矢野洋輔さんによる個展「寝ている木、踊っている木」が開催されております。


矢野さんは、京都生まれ、2014年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業後、同大学院を2016年に修了。在学中から木の素材に魅了され、木の素地のみで作品を作るようになりました。桂、楠木、欅、栗、檜、銀杏、栃など、様々な木を使用し、年輪、木目、ふし穴や割れなど、木の素材本来の要素を活かしながら、木彫作品を制作しています。


制作行程として木の硬さ、色、木目などの性質に合わせて感覚的に彫り進めていきます。表れる形は普段何気なく見ているもの(動物の肉体や無機物、日常や自然の風景)が微妙に融合されたもので、作品の見え方を限定しているわけではないそうです。パンや植物、人の顔や動物に見えるものなど鑑賞者によって作品から多様な表情を感じ取ることができます。
実際にご覧になっているお客様から予想外の感想をいただくことができ、見る人によってこんなにも違って見えるのかと驚くと同時に大変面白いことだと感じました。


使用する道具は主に彫刻刀やノミで、木を削るとシャープな断面から滑らかでツヤのある表情と心地よい木の香りが出てきます、矢野さん曰く「刃物の跡が木をより自然に際立たせる」そうです。植物や花の要素を抽出した小さいパーツが点在する繊細な作品ではパーツ全てに真鍮の芯が入っており押しピンのようになっていて、作って貼ってを繰り返し行い制作されます。木本来の形に近しい大胆な作品では自然素材と自分のせめぎ合い、木の硬さによる抵抗感や元々のサイズ感を大事に制作しているといいます。
木を彫って量を減らしてできる作品をパンのように膨らんでできた柔らかいものに見せたり、逆に石のような固いものに見せたり、素材の変換についても関心を持って「木も石と同じように積み上げたい」と話す矢野さんからは表現の可能性を追い求める強い意志を感じました。


自然の素材を用いて人がモノを作ることに関心がある、
作品とは人間が恣意的に与えた形で抽象的にしろ具体的にしろ両方とも人工物である、
本展のタイトルの意味として、「寝ている」とは「静、自然に在ったもの」、「踊っている」とは「動、自分が木を加工すること」で、自然と人工のせめぎ合いをテーマにしている矢野さんの思いが込められています。
観ることが作ること、日々の観察から生まれるモノについての情緒や感覚が自ずと作品に出てきたらベスト、だと語る矢野さんの制作スタイルから生まれる今後の作品の発展が楽しみです。


本展示では、新作を中心に旧作も合わせておよそ20点の作品を展示いたします、「言葉にできないが絶対に感じられるもの、景色が語るものがある」と話す矢野さんが心に残るものを書き起こすように真摯に制作した作品群をこの機会にご高覧いただけましたら幸いです。
展示は9月29日(日)まで開催、ぜひ板室温泉大黒屋までお越しくださいませ。


また、今回はリーフレットに、横浜市民ギャラリーあざみ野の主席学芸員、天野太郎氏に寄稿文をいただきましたので、こちらも合わせてご一読頂けますと幸いです。