板室温泉大黒屋では4月25日より大黒屋サロンにて八木夕菜展「Superposition」を開催しております。
八木さんはニューヨーク・パーソンズ美術大学建築学部卒業。カナダ、ニューヨーク、ベルリンを経て現在は京都を拠点に活動しています。建築事務所での勤務を経て、写真家として建築物を撮影することから「見る」という行為を捉え直し、物事の真理を追求し、視覚と現象を用いたインスタレーション、建築などで使われる素材などを用いた平面と立体の間を行き来する作品など、一貫して「見ることの本質」をテーマに時空の概念を重ねる作品を制作しています。アクリルブロックと写真を組み合わせ光の屈折によって見る角度が異なる景色を映し出す作品。写真にアルゴリズムを当てはめ平面の中で画像を歪ませる作品。写真を金属に印刷し折り曲げた作品など、写真の見せ方によって、視覚できるものの認識の仕方を意図的に意識させ、鑑賞者に多角的な視点を生み出しています。
以下、本展示に向けて作家によるステートメント
あれは夢だったのか、さだかではない。目覚ましが鳴り、時計を見ると9時。もうこんな時間だと慌てて支度を始める。すると、また同じ音の目覚まし時計が鳴り、もうひとりの自分が目を覚ました。時計を見ると針は7時を指していた。見間違えたわけではない。確かに最初に起きたのは9時だった。少し先の時間を生きている「私」と現在の「私」。現在とはいえ、今が既に過去にすら感じる不思議な体験。どちらも「リアル」な感覚があり、何人もの「自分」が多重の時間を過ごしているように感じられた。
近年、私が夢で体験した「時間」「存在」「空間」の多重性を紐解き、写真におけるSTILL LIFE(静止画)を探求している。今回はそれらのテーマに沿った2つの作品を新たに発表する。
ひとつは、それぞれの時間軸を持った花や石、乾燥した植物、種、鉱石、金属、ガラス、樹脂たちが同時に複数の時間軸で存在しているという事と夢の感覚を重ねる試み。ふたつ目は、AIによって生成された時間の概念と人間の感覚や経験に基づく時間の経過を可視化した二つの視点を合わせること。私にとってそれらは、我々が日常的に受け入れる「時間の流れ」とは異なる、時間の断片化と再構築がもたらす存在の複層性に自己を確認する行為なのかもしれない。
限りあるものが偏在する。
この世界は出来事の集まりなのである。
板室温泉大黒屋では、初めての個展となる「Superposition」。言葉をヒントに作品作りをするという八木さんは、カルロ・ロヴェッリの著書「時間は存在しない」を読んだ経験から時間の認識、幻想性について思慮し自身の表現を深化させています。本展ではこれまで実践してきた作品群と新作を組み合わせて約15点を展示いたします。この機会にぜひご高覧いただけたら幸いです。
会期 : 2024 年 4月 25 日 (金) - 5月 27 日 (月) 9:00 - 17:00
会期中の休館日:5月 14日,15日,16日
*展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。
*4月25日,5月17日のみ13時から開館