益子町で主に急須を作られている陶芸家です。
大黒屋では、梅の館で急須を使わせていただいております。
益子の土を長年使い続けてきた若杉さん。どんなことを語られるのでしょうか。
益子で急須をつくる
今から40年前に職人になりたいと益子を訪れた若杉さん。最初に行ったところは粘土をつくっているところだったそうです。
そこで粘土を精製している実際の現場や、職人の方から益子の現状を見聞きしている内に益子の土に強く惹かれたそうです。
当時の益子は大転換の時期にあり、自身のイメージとは違った益子がありました。粘土は、機械精製によって作られる粘土と、手漉し職人の方が手作業によって作られる粘土の2種類の製法がありました。経済バブルの影響下で大量生産大量消費の時代に、手間暇のかかる手作業の仕事よりも機械精製の量産性が優先され、次第に「土に関わる職人の方々が減りつつある」「益子の粘土が手に入らなくなる」といった益子の現状がありました。そのことを強く感じた先生は「益子の土を活かした丁寧な仕事をしたい」「益子の土で付加価値のあるものを作りたい」とそんな思いからつくり始めたのが焼き締めの急須だったそうです。
急須をつくるには良質な粘土が必要で、きめ細かく、ろくろで薄くひくことのできる土でなければなりません。また素材の吟味、技術、道具、時間がかかり、多くをつくることができません。
益子の土でいいものをつくるために、若杉さんは益子中を歩き自ら土を掘り、研究し、試行錯誤を続けた結果できたのが、現在もなお作り続けている焼締の急須なのです。
「益子の土でこういうことができる」
益子というと「民藝の産地」「健やかな美」「浜田庄司」というイメージがあり、若杉さんの仕事からは、なかなか「益子焼き」というイメージが湧きにくいかもしれません。ただ、若杉さんの仕事は益子の土を100%つかったものです。益子の土では繊細な仕事はできないというイメージを払拭し、益子の新たな可能性を見出したのが若杉さんの仕事です。
「鋭さ」と「やわらかさ」
ここ最近つくられているのは「真球」という作品。それまで日常生活で使うものを中心に作られてきましたが、今回の展示に出している「真球」は用途がありません。きっかけは、益子で行われた「土祭」という行事だったそうです。
「益子の原土を使って新しいことをしよう」という若杉さんの提案から、益子に関わる様々な作家の方に益子の原土を渡し、新たな可能性を見出そうとしたイベントでした。そこで「手が切れるようなやわらかさ」をコンセプトにこの「真球」を作られたそうです。
若杉さんといえば、繊細で洗練されたシャープな急須を作る作家というイメージですが、そのイメージを一転するような「真球」という作品。
そこには、若杉さんの深い考えがありました。「自分の思いを果たそうと思った時には自身の背中を見たほうがいい」という考えから生まれたものだそうです。「鋭さ」の対義に「やわらかさ」がある、その「やわらかさ」を極限にまで突き詰めていくと鋭いものになるという、逆説的に自身の作品を見つめ直した作品です。
「真球」は、まだ研究段階で非売のものですが、是非大黒屋にお出かけください。
若杉集さんの個展は1月30日までです。