2017年10月13日金曜日

對木裕里インタビュー 第1回

ただいま大黒屋サロンにて個展を行っている對木裕里さんのインタビューを全3回で掲載いたします。

第8回、第9回の入選を経て第11回大黒屋現代アート公募展大賞を受賞した對木さんはその後も第4回新鋭作家展優秀賞(川口アートギャラリー・アトリア)の受賞や群馬青年ビエンナーレ2017への出品など注目を集めています。
 一見ふしぎなかたちをもつ彫刻の数々。その創作の方法や原点、考え方についてお聞きしました。第1回は石膏型取りで制作される作品が生まれるまでの過程についてです。




―作品の作り方について教えてください。今回は石膏の型取りをした作品が中心ですが、どのように制作されているんでしょう

原型の入った状態の型(右)と抜いた型(左)
 まず水粘土で原形を作って石膏をかけ、粘土を抜いて作った型に新たに石膏を張り込んで、型を割ります。型と本体は石鹸の離型剤を塗っているので、本体と型はぽろっと取れるんです。流し込まずに張り込んでいるのでで、できた石膏の彫刻本体は空洞になります。



-石膏型取りでつくると粘土の原型は高い精度で再現されるんでしょうか

されます。ただ、あまり原型に時間をかけないので、そもそもの形が甘いです。手からそのままでてきたような、粘土を丸めて置いただけみたいな感じで。
形を決めるのはドローイングとか頭の中とかで、自分の中にある程度リアリティのある手触りとか形、量、速度ができてくるまで触らないようにしています。頭の中である程度つくってから外に出すので、実際に触りながらあまり悩まずスピーディーに決められるよう気を付けています。
もちろん粘土の原形の状態で形をあれこれするのも重要だと思いますが、原形を作るという事も制作の行程のひとつとしてそこだけに比重をかけすぎず、ものを「置く」という行為性を強く見せたいと思っています。だからあまり造形を気にしすぎない。「置く」という感じでとめようと思っています。



-では、型からでてきたときにかたちが「違うな」と思う事はありますか

アトリエに貼ってあるドローイング
ちょっと都合がいいのかもしれませんが、一回忘れているんですよ。石膏をかけて一回原形から離れてしまっているし、型が出来た時点で粘土の原形をこわしてしまうし。大きさを変えるわけでもなく、粘土を石膏に移行するだけの行為のために必要な工程が多すぎるので、忘れるというか失うというか。ポンって型からでてきたときには「できた!」というよりは「ある!」っていう感じです。
だから平気で置き方を変えたりします。例えばこっちを下にしていたけれど、こっちが上かなということが出来る形に対しては、型から出した後からいじる事が多々あります。


制作の順番としては形が自分の中でできあがって、それを粘土にして、型から出てきた石膏の状態からまた「わたし」と「これ」の関係性が次の局面へ変化していくと。
その局面は着彩や、置き方、ほかの素材との組み合わせ方というもので、そういう別の次元に転換するためのスイッチとして型取りをしています。



―對木さんの作品は明るい色彩も特徴の1つですが、色はどの段階で決まるのでしょうか



形を作り始めるときに自分の中でイメージの色はあるので、ほとんどが石膏自体に色を混ぜて作ります。色と形ってそんなに別々なモノじゃないと思うので作業でいろいろ動くときも、いっしょに付き合っていきたいなあと思います。
型を抜いてからの着彩は油絵具、クレヨン、水彩、アクリル絵の具も使います。かたちができた時に、筆でぺたぺた塗るのかクレヨンでゴリゴリ塗るのか、出来あがった形に対して次にする動作はどういった速度の運動が必要かなと考えて決めています。画材によってスピード感も違うので、かたちや物や量に対して、どういった速度で自分が形と向き合うか。そういった観点で素材や画材を選んでいます。



-石膏以外の素材がつく(ミクストメディア)作品もありますが、じゃがいもやチューブをつけようと思うのは石膏が型から現れてからの段階ですか?


 現れてからですね。素材は気になるものをちょこちょこ集めるようにしています。すぐは使わないけれどもいつか反応できるかもしれないので。原型はある意味でなんでもないかたちなのに型取りの労働をすると同じ形のものがでてくるだけという、間抜けさというか、不思議があって。それは作品に隙があるということで、そこに異素材を組み合わせることで隙が際立ってくる。ですので異素材をくっつけることに抵抗感はありません。


最後はなにがゴールかというと、私はそれをバランスだと思っていています。
丸ければいいのか、左右対称ならバランスがいいのかという事ではなくて、ひとつの塊の中にはいろいろな素材・時間・作業・私の関わり方とか、すごくいろいろなものが入っている。そういったもののバランスや重力って、見た目左右対称であってもひずんでいると思うんです。その一方で一見すごく変なバランスのものでも、ある部分のもつスピードと違う部分のスピードが違えばいいバランスに見える。それは見えたままのバランスではないと思います。
いろいろな要素でものを見ているので、最後石膏の形が出てきたときに針金が太い方がいいのか細い方がいいのか、この空洞の形に対して、じゃがいもっていう塊をいれてみたらどうかとか、そういう最終的に完璧なバランスへ転がしながら調整しています。



―重いものと軽いもの、人工物と自然物という対象的なものを作品の中で共存させることは意識して行っているのでしょうか



 意識してやっています。例えばやわらかい素材があったとき、見た人の中に正反対への力、つまり固いものが想起されていると思うんです。ですので、逆方向への力はすでにあるものですが、それを実際に目に前に置くことで、その場所で力の反発を起こしたい。
 何かつくるっていうのは、何かつくらなかったっていうことで、どんな行動にも行ったことと真反対の可能性が自然と起き上がるものだと思います。そもそも石膏の型取りが作ることに向かっているはずなのに丁寧に作った型を壊すし、原型はなくなる。ものが存在するということと同時にないってことがあって、真逆のことが同時に起きているということです。そういうことを強く感じながら石膏の型取りの作業をしていますし、色々な素材を扱っています。



-石膏の型取りではない作品もありますね?

ALL NIGHT HAPS 2016「私がしゃべりすぎるから/私がしゃべりすぎないために」展示風景
頭の整理が大きいと思っています。石膏の作品は型取りというイベントがあるので、行為が自然と転がっていきますが、それのない作品は自力で転がす必要があるので自分の中で理論や構造をある程度意識する必要があるからです。HAPS(※)での展示の時の作品は金網があって、枠に対してちょっと傾けて張ってあって、そこに色彩がついた布がいくつか掛けてある。その時の展示空間はガラスの1面からしか見られない制限された空間だったので、奥行きが丸見えの絵画のような空間を作ろうと思いました。空間設定が明確だったので自分のテーマも掲げやすかったです
石膏みたいに1回見えなくなったり。1回場面が転換するということがなく、こういう力があってじゃあ逆にこういう力を入れましょうとシンプルに組み立て直せるので、ときどき制作しています。どちらがメインというわけではないんですが、石膏の方が自然と労働させられるのでエンジンがかけやすく、型取りではない作業の方がなかなか決められずに長く抱えてずっとアトリエにあったりします。いつも難しい本と同時並行で小説を読むんですが、小説で文字を読む体みたいなものをつくって、難しい方にいくというその状況に似ています。



-作品や展示ができる瞬間、もしくは完成した瞬間、というのはどのような状態なのでしょうか。

自分の中で制作過程には3つのステージがあると思っています。
自分の心の中や体のなかのアトリエ。それは他者には閉じられたもので、どこいっても考えられるから持ち運べるものですよね。それが一番ベースにあって、その上の2番目の普段生活している現実世界の場があります。通勤する道とか、自分の布団のある床とか。そして3番目は彫刻を置くためのあるべき場所、理想の空間。それは実際の展示場所だったり、そうでなければ山の中にあったらどうだろうなとか、草むらではどうだろうなと、このかたちがあるべき理想の場所みたいなものです。
そういう3つの想像するステージがあって。それを行ったり来たりしています。



それも3つのステージを階層として行き来するのではなくて、ごろごろ転がりながらつくったり考えたりしているような感覚です。たとえば自分の中でかたちがあって、それを持ちながら新宿の街を歩くのは楽しい。それは2番目にいながら1番目も持ち、転がしているという事です。また、それをどこに置こうかと想像しているときは1番目から3番目を行き来している状態。そうやって自分の中でころころ転がって。3つのステージを行き来しています。
そのあと実際の作業に入るのでまた振出しに戻って現実世界の第2ステージに戻ってくる。そうして同じ所をぐるぐるぐるぐる回るような、作業と思考を交互にやっています。


(※)HAPS 東山アーティスツ・プレイスメント・サービス
京都市の「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」事業のプランの実施期間として設立された、各分野の専門家による組織。京都在住の芸術家の居住・制作・発表を支援するレジデンス事業や企画展示、相談窓口の設置など京都市と芸術家を結ぶ様々な活動を展開している。
HAPS公式サイト:http://haps-kyoto.com/

ALL NIGHT HAPS 2016「私がしゃべりすぎるから/私がしゃべりすぎないために」展公式ページ:http://haps-kyoto.com/allnight-haps-2016-atsuchi/



明日は第2回。對木さんが彫刻の制作をはじめるきっかけ、また現在の制作に至るまでの変化について掲載いたします。