2024年12月20日金曜日

2024年12月 瀬沼健太郎展

 板室温泉大黒屋では12月20日より大黒屋サロンにて「瀬沼健太郎展」を開催いたします。


瀬沼さんは東京都生まれ。多摩美術大学デザイン科を卒業後、 ガラス工房での勤務や非常勤講師を経て、2010 年に東京で独立。現在は秋田公立美術大学准教授として後進の育成に力を注ぎつつ、自身の制作活動にも精力的に取り組み、国内外での展覧会を通じて幅広い支持を集めています。 瀬沼さんの作品は、古陶磁が持つ普遍的な美しさをガラスという現代の素材に写し取り、現代にふさわしい形で再解釈しています。そのテーマの中心には「水」があり、ガラスの透明感や瑞々しさを通じて「水の存在」を問いかけるような表現を追求しています。さらに、制作において自然や偶然性を取り込むことを大切にしており、ガラスの表面や内側を特殊な技法で溶かすことで、陶芸の薪窯での釉薬変化のような予測不可能な質感や表情を生み出しています。こうしたアプローチにより、自然が生む美しい偶然を作品に宿らせる試みがなされています。制作では、ガラスの透明感を活かした作品、曇りのような質感を加えた作品、ダイヤモンド研磨材を使ってざらざらとした白い表情を引き出した作品など、独自の技法が用いられています。これらの作品には、緻密な手仕事と自然の偶然性を受け入れる柔軟な姿勢が織り込まれ、独特の生命感が与えられています。



彼が作品に込めるのは、 静かで控えめながらも見る者に強く訴えかける力です。その背景には、「物が静かに語る」という視点を重視する瀬沼さんの制作哲学が反映されています。秋田に移住して約 8 年。日々の自然の中で得た感覚を制作に反映しています。特に冬の秋田で目にす る雪、氷、霧、水、つらら、海といった「冬の水の表情」に深く影響を受けています。凍る川原や薄氷に映る光、霜が降りる朝の静寂など、冬の自然が持つ一瞬の美しさをガラスという素材で具現化する試みを続けてきました。瀬沼さんにとってガラスは単なる素材ではなく、自然の持つ儚い美しさを結晶化するための「媒介」として存在しています。また、花を生ける行為にも深く親しみ、器と花の関係性を探求しています。自然の花が持つ静けさや動きに調和する器を作ることを意識し、花と器の融合を追求し、その相互作用によって空間全体を彩る「独特の存在感」を創出しています。偶然性を取り入れた表情豊かな器は、花を生ける者の感性と自然の力を融合させる特別な舞台となっています。 



2020 年の秋以来 3 回目となる本展示では、冬の板室温泉の情景に寄り添う花器を中心に展示を行います。梅瓶、瓶子、鶴首、水壺、曽呂利、鉢、細瓶、掛花など、ガラスの多様な表情が織りなす 作品群は、日常の中で見逃されがちな「美」や「自然とのつながり」を再発見する機会になれば幸いです。 また、ガラスといえば夏を連想する方も多いかもしれませんが、冬だからこそ映えるガラスの美しさをぜひ楽しんでいただければ幸いです。 

会期 : 2024 年12月20日(金) - 1月13日 (日) 10:00 - 17:00

※12月20日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2024年11月26日火曜日

第246回 音を楽しむ会

2024年最後の音を楽しむ会はピアノ 阿部海太郎さん、ヴォーカル 武田カオリさんによる演奏会でした。



今回の演目...


〜BOTANY〜

Le jardin chez M. Elzéard Bouffier

Hiraku

オオバコ

スイフヨウ

ユキモチソウ

ホウライシダ

ナツツバキ

バイカオウレン

スエコザサ

Havanera de la montagne 


〜HOUSE〜

 Mirror

Boots

Blanket

Kaleidoscope

Vase

Globe

Amber


〜アンコール〜

Reflections in a palace lake



今回は阿部さんと武田さんが 10 年以上の歳月をかけて共作したアルバム「HOUSE」をメインに演奏して頂きました。HOUSEの12タイトルに綴られる形あるものと、お二人が紡ぐ形のない音楽が表現するのは、架空の女性の慎ましい生活の痕跡。大黒屋サロンで奏でられるお二人の音色は、どこか暖かく、包容力さえも感じ取ることができました。

HOUSEの前に「BOTANY」をテーマに10曲を演奏。連続テレビ小説「らんまん」の挿入曲にもなっている曲は、それぞれに植物に関する名前が付いており、高知県出身の植物学者である牧野富太郎の人生を表現しています。

「スエコザサ」はモデルになった牧野富太郎の妻である壽衛の名前が付けられた植物。冬に氷点下10度から20度になっても芽を残して生き残る力強さと、葉のしなやかさ、柔らかさ、美しさが壽衛の姿と重なる部分があると植物研究者はいいます。阿部さんの作曲した「スエコザサ」からも清淑で嫋やかな音色を堪能することができました。

これまでのピアノソロから一転、場を引き締めるかのような第一声で始まったアルバム「HOUSE」の演奏。

緊張感もありながら、耳や心に真っ直ぐ入ってくる武田さんの澄み切った歌声は会場にいる聴衆を一気に二人の世界観へと引き込みます。

「Amber」の直訳は琥珀となりますが、石言葉が幸運の象徴、優しさ、愛というお守りにもよく使われる石として知られております。阿部さん、武田さんが表現するAmberは子守唄のように、安らぎ、安心を与えてくれる一曲でした。

アンコールには「Reflections in a palace lake」を演奏。有名な曲なだけあって、曲に集中することができ、生音の奥行き、重さを体感することができました。

クラシカルでありながらじんわりと耳に馴染んでいき、心が温まる阿部さんのピアノの音色と、独特な雰囲気もありながら清澄さも感じられる武田さんの歌声に聞き入った音を楽しむ会となりました。

※今回、より音を楽しめる空間を作るために、音響設備の提供や本番中のオペレーションなど“Little Nap COFFEE ROASTERS”でバリスタも手掛けながら、DJとしても活躍されている濱田大介さんにもご協力頂きました。




次回の音を楽しむ会は2025年1月、三味線 佐藤通弘さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

※2024年12月は休演です。


2024年11月1日金曜日

2024年11月 宮林妃奈子展

板室温泉大黒屋では11月1日より大黒屋サロンにて宮林妃奈子展「うみの背中」を開催いたします。


北海道出身の宮林は幼少の頃から絵画教室に通い絵を描くことが常に生活の一部でした。絵を通じて感性を育み独自の世界観を形成する中で、自然と絵画への情熱を深めていきます。その後、多摩美術大学を卒業し、東京藝術大学大学院に進学。さらにベルリン芸術大学でも学び、2023年にマイスターシューラーを取得しました。現在も東京藝術大学大学院絵画科に所属し、国内外での経験を通じて表現を深化させています。



宮林の作品は、オイルペインティングを中心に、コラージュやさまざまな描画素材を用いて独自の視覚世界を展開しています。彼女は自身の絵画を「レイヤーではなく粒の重なり」として描くアプローチを取り、粒が積み重なる意識で作品に深みとリズムを生み出しています。この粒子は単なる構成要素ではなく、時間と空間を同時に刻むもので、彼女の絵画が固定的なものではなく、常に動的で生きた空間を感じさせる要素となっています。高い抽象性を持ちながらも、純粋な抽象絵画にとどまらず、その根底には確かなリアリズムが流れています。また、常に「風を描く」という意識を持ちながら制作に臨み、自然の微妙な変化や目に見えない力を描き出そうとしています。かつて宮林は「雪が降る様子が、見えない遠くまで層のように広がり、自分の描きたい空間と似ている」と語っており、こうした自然界の現象を多面的に捉え、時間や空間を超えて表現することが創作の核となっています。幼い頃から親しんできた自然や風景を「絵」として描き取る感性と深く結びついているのです。



女の制作では、画面にさまざまな布や和紙を貼り、支持体を重層化させる手法を取り入れることがあり、偶然性や視覚のズレを重要な要素としています。それが作品に独特の緊張感と柔らかさを生み出し、単なるレイヤーとして積み重なるのではなく、異なる時間や動きの中で存在しているように描かれ、画面全体に絶え間ない流動感とリズムをもたらしています。また、支持体にもこだわりを持ち、既成の白いキャンバスではなく、膠や天然素材を使って自ら下地を作成しています。生成りの麻や木製パネル、ジュートなど、素材の質感や肌理にも細心の注意を払っており、支持体自体が作品の一部として強い存在感を放ちます。こうした素材の選定や使用は、表現と素材の関係性を重視し、外部からの影響を受け入れながら新たな視覚体験を作り出す独自のアプローチです。

本展では、主に宮林が2024年に制作した新作約20点を展示いたします。具体的かつ詩的なタイトルと抽象的な表現が絶妙に交差し、画面に流れるリズムが鑑賞者に豊かな感覚体験を提供します。それぞれの作品は、鑑賞者が自由に解釈し、個々の経験を投影できる余白も残されており、時間を超えた深い思索の余地を感じさせます。大黒屋では初めての個展となります。展覧会「うみの背なか」にて、宮林妃奈子が描き出す世界観を晩秋の板室温泉にてご高覧いただけたら幸いです


会期 : 2024 年11月1日(金) - 12月1日 (日) 10:00 - 17:00

※11月1日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2024年10月26日土曜日

第245回 音を楽しむ会

10月の音を楽しむ会は、今回で第19回となる大黒屋オペラ、G.ヴェルディ作曲「アイーダ 第3幕 、第4幕」の公演でした。




~出演者~
            アイーダ:イ・スンジェさん(ソプラノ)
            ラダメス:城宏憲さん(テノール)
            アモナズロ:青山貴(バリトン)
            アムネリス:丸尾有香(メッゾ・ソプラノ)
            ピアノ:中橋健太郎左衛門さん




〜第1幕、第2幕のあらすじ〜
 エチオピア王女アイーダは、エジプトの捕虜となっていたが、身分を偽ってエジプトの王女アムネリスの奴隷として身の回りの世話をしている。敵国エジプトの若き衛兵隊長ラダメスとアイーダは密かに想いを寄せ合っているが、ラダメスはアイーダがエチオピアの王女であることを知らない。エジプト王女アムネリスもまたラダメスを愛しており、二人の王女は対立する運命となる。
 そして、ラダメスはエチオピア討伐の任務を果たし、エジプトに帰国する。その凱旋の場で、アイーダとエジプト王アモナズロが親子であること知る。自分の立場と愛に思い悩むアイーダとラダメス。二人の関係を利用し捲土重来を期すアモナズロ。それぞれの想いが交錯する。


〜第3幕、第4幕〜

夜のナイル川のほとりで一人、愛と祖国を失ったと沈痛な面持ちで想い馳せるアイーダ。

💡アイーダの繊細な感情をイ・スンジェさんの嫋やかな歌声で表現。


そこにアモナズロが現れ、ラダメスからエジプト軍の秘密を探るよう迫る。祖国と愛との間で苦悩するアイーダ。苦渋の決断で、アイーダはエチオピア王女の立場を取ることに。

💡青山さん演じるアモナズロの威厳のある味わい深い歌声は、物語の世界へと更に引き込んでいきます。


アモナズロが隠れた後、ラダメスが現れる。アイーダは二人で暮らす為に、国を捨て一緒に逃げようと促しますが、ラダメスは躊躇する。逃げることに対し、一度は躊躇したラダメスだったが、ともに逃げないなら「アムネリスのもとへいきなさい」と言われ、逃げる決心をする。

💡オペラでは定番の愛二重奏を、イ・スンジェさん、城さんの表現力豊かな高音で味合うことができました。


アイーダは急に冷静になり、エジプト軍が向かう行路を聞き出す。うっかり口を滑らしてしまったラダメス。そこにアモナズロが突然姿を現し、自分がエジプト軍の秘密をバラしてしまったことを知り愕然とする。

💡3人の想いが交錯する三重唱は、その緊迫感を会場にいる観衆にひしひしと感じさせます。


そこにアムネリスが登場し、「裏切り者!」とラダメスを詰る。しかし、アムネリスに襲いかかるアモナズロをラダメスは制し、アイーダとアモナズロを逃がす。

💡ラダメスのアイーダを守りたいという気持ちが強く感じられる名場面。城さんの華麗な歌声はよりラダメスの感情を引き立てます。


アムネリスはラダメスを死罪にすべきか助けるべきか、思い悩んだ末、ラダメスを呼び出し、アイーダを忘れるよう説得する。しかし、ラダメスは「アイーダの為に死ねるなら本望」と何の迷いもなく断る。裁判の判決は死罪となり、生きながら墓に入れられるという残酷な刑を宣告される。

💡アムネリスのラダメスへの愛と、その気持ちに応えてくれないラダメスへのやるせなさなど、繊細な感情表現を丸尾さんの淑やかな歌声で堪能することができました。


墓の中に一人幽閉されたラダメス。アイーダを思い返しているといるはずのないアイーダが暗闇から姿を現す。アイーダはラダメスと共に死のうと先に忍び込んでおり、ようやく二人の愛は成就する。そこへ喪服姿のアムネリスが現れ、鎮魂の祈りを捧げる。やがてラダメスとアイーダの声も途絶えていき、幕が閉じる。

💡これから死を迎える悲壮感、その中に温かく残る愛、相反する感情が混在する複雑のシーン。城さん、イ・スンジェさんの静謐な歌声が会場に溶け込んでいきます。さらに丸尾さんがカンテラを持って静かに登場し、粛粛とした場の空気感を中橋さんのピアノと共に引き立て、終幕となりました。


大黒屋サロンの特性を存分に活かした舞台構成、登場人物の感情を見事に表現していただいた5人の出演者の方々など、大黒屋オペラでしか味わえない、音の世界観を楽しむことができた音を楽しむ会となりました。






次回の音を楽しむ会は11月26日(火)、ピアノ 阿部海太郎さん、ヴォーカル 武田カオリさんのデュオ演奏です。

どうぞお楽しみに!

2024年10月4日金曜日

2024年10月 磯飛節子展

板室温泉大黒屋では10月4日より大黒屋サロンにて「磯飛節子展」を開催いたします。


磯飛さんは栃木県大田原市出身で、国内外から高く評価されている女性竹工芸作家の一人です。彼女は伝統的な竹工芸の技術を受け継ぎながらも、枠にとらわれない独自のスタイルを確立し、竹という自然素材に新たな魅力を引き出し、独自の感性で作品を生み出しています。磯飛の作品は、細く薄く成形された竹を巧みに操り、伝統的な編み技法に革新を加えたものです。ずらしや重ねの技法を駆使して生み出される独特の奥行きが特徴であり、その技術によって、竹の持つ柔らかさと強さが絶妙に調和した、繊細でありながら力強い作品が生まれます。また、竹を丁寧に染め分けることで、作品に微妙な色彩の変化と空気感を与える技術も、彼女の作品にさらなる深みをもたらしています。このような高度な技術と独創性は、竹工芸の分野で広く認められ、彼女の作品は国内外で多くの注目を集めています。



30代で竹工芸の世界に飛び込み、平成15年には日本伝統工芸展に初入選しました。その後、平成21年には栃木県文化奨励賞、平成22年には日本伝統工芸展で日本工芸会総裁賞を受賞するなど、その技術と表現力が高く評価され、数々の受賞歴を誇っています。彼女の作品には、伝統を尊重しつつも常に新たな挑戦を続ける姿勢が表れており、竹工芸の未来を切り拓く存在として大きな期待が寄せられています。



約6年ぶりとなる本展では、日本伝統工芸展に出品された作品をはじめ、花籃や盛籃、ブローチなど、日常で使用できる美しい作品約40点が展示されます。繊細な手仕事と伝統技法、そして独自の美意識が融合した作品群を通じて、竹工芸の新たな可能性と魅力を感じていただけます。また、磯飛が主宰する竹工芸教室の生徒たちによる作品も一部展示され、彼らが培ってきた技術と創造力も併せてご鑑賞いただけます。竹工芸の多様で豊かな表現を通じて、日本の伝統文化に触れる貴重な機会として、皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

 

*会期終了翌日の10月30日(水)には磯飛節子による花籃製作のワークショップを開催いたします。このワークショップは昨年から大黒屋サロンにて不定期で開催しており、毎回好評を博しています。磯飛が直接指導し、竹を編み上げて花籃を完成させる過程を体験できる貴重な機会です。初心者から経験者まで、どなたでも参加いただけます。

竹工芸の魅力を肌で感じ、自らの手で作品を作り上げる楽しさを味わっていただけたら幸いです。参加をご希望の方は、大黒屋までお早めにご連絡ください。

*花籃製作ワークショップ

日程:10月30日(水)13:00-17:00

会場:大黒屋サロン  参加費:8,800円(材料費込) ←定員に達しました。



会期 : 2024 年10月4日(金) - 10月29日 (火) 10:00 - 17:00

※10月4日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。