2026年4月3日金曜日

2026年4月 五月女 哲平 展

板室温泉大黒屋では、2026 年4 月3 日(金)から4 月26 日(日)まで、五月女哲平の個展

「陽が沈む前に」を開催いたします。



当館での個展は、2022 年9 月以来、2 回目となります。

五月女は、栃木県小山市を拠点に活動する作家であり、絵画を軸に立体や写真なども横断しながら制作を続けてきました。画面に像を描くことにとどまらず、支持体のかたちや素材との関係性、そこに生じる出来事そのものを受けとめるようにして、絵画のあり方を探求しています。その制作に一貫しているのは、過剰に語ることを避け、要素を削ぎ落としながら画面の中に残るものに向き合う姿勢です。

いわゆるミニマルな表現を志向しながらも、その絵は閉じることなく、静かな手触りをもって、見る者の感覚にひらかれていきます。そこには完成されたイメージというよりも、まだ定まりきらない状態や、移ろいの途中にある気配がとどめられているようにも感じられます。

近年、五月女は油絵具を用いた制作に取り組んでいます。これまで主に用いてきたアクリル絵具とは異なり、油絵具が持つ時間の重なりや質感、にじみや艶といった表情が画面に新たな奥行きや揺らぎとしてあらわれています。作家自身もまた、年を重ねる中で絵を描くという行為そのものに対して、より自然体で向き合うようになってきているのかもしれません。



五月女の制作の背景には、土地に根ざした時間の積み重ねがあります。栃木県小山市に暮らし、父や祖父も同地で絵を描いていたという環境の中で育ち、現在もなお、身近な風景の中で過ごす時間を大切にしています。とりわけ* 渡良瀬遊水地に足を運び、何をするでもなく、ただその場に身を置く時間。そのような時間の中で感じ取られる光や空気、そこへ向かう時間や、ただ身を置くことで立ち上がる気配が作品の根底に静かに流れているように思われます。かつての出来事に由来する歴史を持ちながらも、現在ではどこか心の落ち着く感覚を伴う点も、この場所の特異性を示しているのかもしれません。



本展では、2026 年に制作された新作を中心に、およそ20 点を展示いたします。今年初めに東京・Kudan House で開催された「CURATION⇄FAIR Tokyo」で発表された作品群も含まれ、現在の制作の流れを感じていただける構成となっております。

展覧会タイトルである「陽が沈む前に」は、光が次第に失われていく、そのわずかな時間を示しています。昼の明るさの中では輪郭を持っていたものが、やがて曖昧になっていく。その移ろいの中で、私たちはふと、いつもとは異なる感覚に触れることがあります。五月女の絵画は、そのような気配に静かに寄り添いながら、かたちとしてあらわれてくるようにも感じられます。

絵の前に立つことは何かを理解することではなく、言葉にならないものにしばらく身を置くことなのかもしれません。本展がそのような時間にふれる機会となれば幸いです。


* 渡良瀬遊水地:栃木・群馬・埼玉・茨城の4 県にまたがる国内最大級の遊水地。明治期の足尾銅山鉱毒事件に伴う治水対策として形成され、現在は広大な湿地と空の広がりを持つ。毎年春にはヨシ焼きが行われる。



本展に寄せて、作家自身の言葉をご紹介します。


外が暗くなってきたのに気がついて、あわてて車を走らせる。

車でおよそ30 分。途中のコンビニでコーヒーを買って、トイレも済ませる。

まるで映画館に来たような、少しソワソワした気持ちになる。

この時間は静かで、美しいから好きだ。

昼間の景色は少し眩し過ぎて、物事がはっきりとし過ぎている。

絵の話に置き換えれば、白昼の具象的な輪郭と、薄暮に見るぼんやりとした抽象性。

世界はきっと、この具象から抽象へのグラデーションを繰り返してきた。

命が生まれて、死んで、また生まれるように、この世で起こるあらゆることは、何度も何度も同じように繰り返されるのかもしれない。

私が出来ることと言えば、その同じように見える景色の中の、ほんの少しのノイズに、正面からゆっくりと向かい合って、ただただ、記録し続けることなんだと思う。

陽が沈んで、何も見えなくなってしまう、その前に。

五月女哲平



会期 : 2026年4月3日(金) - 4月26日 (日) 10:00 - 17:00

※4月3日、17日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。




2026年3月7日土曜日

2026年3月 「Ephemera」

 板室温泉大黒屋では、2026年3月7日(土)から3月30日(月)まで、企画展示「Ephemera」を開催いたします。

Ephemera(エフェメラ)とは、展覧会の案内状やパンフレット、ポスター、DM など、一時的に制作される印刷物の総称です。語源はギリシャ語 ephemeros(儚い)に由来し、本来は短命で消えゆくものを意味します。展覧会が終われば役目を終えるこれらの紙片には、その時代の空気や美意識、デザイン、作家や場所の痕跡が凝縮されています。作品そのものではなく、展覧会という出来事を取り巻く時間や場の記憶を静かに留める存在でもあります。

本展では、アートブックのディストリビューター twelvebooks 代表・濱中敦史 が長年収集してきたエフェメラに加え、印刷物や資料のアーカイブ的実践を行うプロジェクト ens(苑ス)の鈴木貴也の協力のもと、展示と販売を交えながら紹介します。



展示では、1970 年代以降のミニマルアートやコンセプチュアルアートを中心とした展覧会文化に関わるさまざまな印刷物をご覧いただきます。Donald Judd、Sol LeWitt、Carl Andre、Lawrence Weiner、Fred Sandback、Richard Serra、Dan Graham などの作家たちの展覧会案内状やインビテーションカードをはじめ、Agnes Martin、Ellsworth Kelly、Bruce Nauman、

Blinky Palermo、On Kawara などに関わる資料や印刷物が並びます。

これらの多くは、ギャラリーや美術館が展覧会の告知のために制作し、来場者や関係者に配布したものです。本来は一時的な役割を担うものですが、その小さな紙片には、当時の展示空間や流通、出版文化、そしてアーティストたちの活動が交差する痕跡が刻まれています。本展では、展覧会や出版の現場で生まれたこうした印刷物に焦点を当て、エフェメラという視点からアートを取り巻くもうひとつの文化をご紹介します。



日本においてこうした Ephemera(エフェメラ) の価値を考える上で、1990 年に山梨県清里に開館し2014 年に閉館した 清里現代美術館 の存在は重要です。同館は現代美術の作品だけでなく、展覧会の案内状やポストカード、出版物、書簡など、作家や展覧会を取り巻く多様な資料を収集していたことで知られています。閉館後、その膨大な資料は同館の元スタッフである廣瀬友子によるプロジェクト telescope によって整理・公開され、アーカイブ出版などを通じて新たな形で紹介されています。

このアーカイブの整理や出版には twelvebooks 代表・濱中敦史 tata bookshop / gallery の石崎孝多らも関わり、清里現代美術館の資料は現在もさまざまな形で紹介されています。本展では、清里現代美術館のエフェメラを収録したアーカイブブックなどの関連書籍もあわせて紹介・販売します。



本展は、濱中敦史の全面的なご協力のもと開催されます。エフェメラという文化が日本でも広く知られてほしいという思いにも支えられながら、展覧会という出来事の周囲に残された文化の断片をご紹介します。エフェメラという視点から、アートを取り巻く印刷文化に触れる機会となれば幸いです。


会期 : 2026年3月7日(土) - 3月30日 (月) 10:00 - 17:00

※3月7日、20日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。



2026年2月26日木曜日

第256回 音を楽しむ会

2026年最初の音を楽しむ会はテノール 上原正敏さん、ピアノ 北村晶子さんによる演奏会でした。上原さんは2024年2月ぶり、北村さんは2019年5月ぶりのご出演です。
今回は「シェフの気まぐれコンサート 愛の喜び オペラからさだまさしまで」というテーマのもと心温まる名曲の数々を演奏していただきました。



演目は...

Plaisir d'Amour
Ave Maria
La Danza
Sempre libera
Fedora
Moon River
誰も寝てはならぬ
悲しい酒
'O sole mio

など...



幕が開け、最初に演奏されたのは「Plaisir d'Amour」。愛の喜びや儚さを表現した曲で、上原さんの甘い歌声に酔いしれました。


上原さんの「音を楽しむ会」といえば、曲間のMCも人気。会場一体となってブラボーの講習会も行われました。演奏後の「ブラボー!」という声は歌い手のテンションを上げる重要な要素だそうで、ブラボーに限らず、何かしらのお声を掛けていただけるだけでも嬉しいそうです。


ロッシーニ作曲「La Danza」。曲調の速さが特徴的なタランテラの中でも有名な1曲です。北村さんの流麗で正確な演奏から始まり、そこへ上原さんのドラマティックな歌声が重なることで、より曲に力強さを感じることができました。


アンコールで演奏された「悲しい酒」は、オペラアレンジが施されており、登場人物の心情が深く表現されていました。一つの物語を見ているような、新しい感覚に包まれる素晴らしい演奏でした。


幅広いジャンルを歌い上げる上原さん。甘く味わい深いテノールはもちろん、生歌ならではの「グッ」と迫ってくる音圧も体感でき、まさに音を楽しむ会となりました。





次回は3月26日(木)笛 福原寛さんによる演奏会です。
どうぞお楽しみに!

2026年2月6日金曜日

2026年2月 渡辺豊重 展

板室温泉大黒屋では、2026年2月6日(金)から3月2日(月)まで画家・彫刻家 渡辺豊重 の展覧会を開催いたします。渡辺豊重は1931年に生まれ、2023年に逝去するまで、絵画、版画、彫刻など多様な表現を通して、色彩やかたちが立ち上がる感覚そのものを探求し続けた作家です。

渡辺と大黒屋との関わりは古く、1995年、2000年の二度にわたり、ここ板室温泉大黒屋にて個展が開催されました。1995年の個展の際に制作された屋外彫刻《みんなそろってピーヒャラドン》は、現在も大黒屋の裏庭に設置され、毎日出勤するスタッフや宿へ訪れる人々を静かに迎え続けています。自然の中に置かれたその姿は、作品が鑑賞の対象であると同時に、風景の一部として時間を重ねてきたことを物語っています。

大黒屋の前代表・室井俊二(会長)にとって、「保養とアートの宿」として大黒屋が進んでいく過程で出会った作家たちは、単なる展示の対象ではなく、宿の在り方そのものを形づくる存在でした。なかでも、現在の大黒屋にも深くつながり、重要な作家として位置づけられているのが、菅木志雄、村井正誠、そして渡辺豊重です。

1980年代後半から90年代にかけて、現代美術はまだ一般的とは言えず、旅館という場で作品を展示し、作家と継続的に関わることは、決して当たり前の選択ではありませんでした。そのような時代に、室井はこの三者の美術活動に触れ、宿として作家と向き合い、交流を重ねるなかで、空間のつくり方や、時間の積み重ね方、そして「保養」という概念そのものを学んできました。
三人の作品は現在も大黒屋の館内外に点在し、風景や建築、日常の営みとともに静かに息づいています。それらは展示物というよりも、この場所の時間とともに育まれてきた存在であり、われわれの空間そのものを形づくる重要な要素となっています。

若い頃は都市を拠点に活動していた渡辺は、1990年代以降、栃木県那珂川町にアトリエを構え、自然とともにある生活へと身を移しました。都市と地方、社会の矛盾や違和感、日常のなかに生まれる感情の揺らぎは、次第に彼の作品の中で、より自由で、より率直な「色」と「かたち」として立ち上がっていきます。

一見すると明るく、ユーモラスに見える渡辺の作品ですが、その奥には、怒りや戸惑い、社会への問いといった複雑な感情が重なっています。代表的なモチーフである「鬼」の姿にも、恐ろしさよりも人間味が漂い、見る者に軽やかさと同時に、言葉にしがたい余韻を残します。

渡辺にとって制作とは、完成された意味を提示する行為ではなく、色を置き、線を引き、かたちを試すなかで、思考や感情が変化していくプロセスそのものだったのかもしれません。絵画と彫刻、平面と立体のあいだを自在に行き来する表現は、ジャンルの枠を越え、視覚そのものの歓びへとひらかれています。

現在、栃木県立美術館では回顧展が開催され、渡辺豊重の画業全体を見つめ直す機会が設けられています。
本展では、その回顧展の機会にあわせ、あらためて大黒屋と渡辺豊重との関係を見つめ直すことをひとつの軸とし、これまで大黒屋でコレクションされてきた作品を中心に展示いたします。あわせて、1995年に制作された《みんなそろってピーヒャラドン》の版画作品なども紹介します。本展では、版画を中心に、絵画など計14点を展示いたします。2月の板室の静かな時間の中で、渡辺豊重が生涯を通して探し続けた、色とかたちが立ち上がるその気配を、ゆっくりと感じていただければ幸いです。


会期 : 2026年2月6日(金) - 3月2日 (月) 10:00 - 17:00

※2月6日、20日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。

2026年1月30日金曜日

2026年1月 大黒屋コレクション展&掘り出し市

 板室温泉大黒屋では、2026年1月16日(金)から2月2日(月)まで「大黒屋コレクション展&掘り出し市」を開催いたします。大黒屋コレクションの中から菅木志雄、荒木悠、五月女哲平、平井明子、八木夕菜、長沼由梨子、磯谷博史、新里明士、冨田美穂などの作品を展示しております。

右 五月女哲平「Shepe of sound」
左 荒木悠 「Ranald MacDonald looking towards  America from Sabishiro Beach.」
冨田美穂「1180」平井明子「The Moon Jar」

八木夕菜「Vertical 01」

菅木志雄「地場化」
長沼由梨子 「ケルン」
磯谷博史 「そこに内在するストローク 03」
新里明士「光器」


また、サロン内で掘り出し市も開催しておりす。大黒屋で使用していたもの、金継ぎした器、室礼のものなども販売いたします。この機会に、ぜひご高覧いただけたら幸いです。


会期 : 2026年1月16日 (金) - 2月2日 (月) 9:00-17:00 

展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。