2026年1月30日金曜日

2026年1月 大黒屋コレクション展&掘り出し市

 板室温泉大黒屋では、2026年1月16日(金)から2月2日(月)まで「大黒屋コレクション展&掘り出し市」を開催いたします。大黒屋コレクションの中から菅木志雄、荒木悠、五月女哲平、平井明子、八木夕菜、長沼由梨子、磯谷博史、新里明士、冨田美穂などの作品を展示しております。

右 五月女哲平「Shepe of sound」
左 荒木悠 「Ranald MacDonald looking towards  America from Sabishiro Beach.」
冨田美穂「1180」平井明子「The Moon Jar」

八木夕菜「Vertical 01」

菅木志雄「地場化」
長沼由梨子 「ケルン」
磯谷博史 「そこに内在するストローク 03」
新里明士「光器」


また、サロン内で掘り出し市も開催しておりす。大黒屋で使用していたもの、金継ぎした器、室礼のものなども販売いたします。この機会に、ぜひご高覧いただけたら幸いです。


会期 : 2026年1月16日 (金) - 2月2日 (月) 9:00-17:00 

展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。




2025年12月13日土曜日

2025年12月 加山幹子 展

板室温泉大黒屋では、2025年12月13日(土)から2026年1月11日(日)まで書家・加山幹子

による個展「文字と数字 “Characters and Numbers”」を開催いたします。



加山は大学卒業後、建築金物メーカーを経てHIGASHIYAに勤務しました。同社は、日本の伝統文化を現代の生活にふさわしい形で進化させ継承することを理念とするデザイン会社を母体とした和菓子屋であり、その環境のなかで加山は日本人の美意識や、ものに向き合う姿勢、日々の営みの細部に潜む静かな美を深く学んできました。

やがて生活の流れや人との関わりのなかで、心の余白や立ち止まる時間を必要としたとき、自然と「書」と向き合うようになります。そして2019年より書家としての活動を開始しました。

筆を動かすうちに、技術の巧拙よりも線にあらわれるその瞬間の自分の方が正直であると気づいた加山は、「自分に嘘のない文字だけを書く」という姿勢を大切にしてきました。また書かれた文字の意味よりも、そこからこぼれ落ちた部分ににじむ感情に、人の心の奥行きを感じています。



漢字を象形文字=抽象画として捉える彼女の視点から、作品は書く描くの境界を自然に行き来します。ひらがなやカタカナは漢字の意味を削ぎ落とした記号でありながら、逆に自由度の高い表現へと開かれた存在として扱われます。文字を読むための形としてではなく、線が生まれる過程や、その周囲に残る余白の気配に目を向ける姿勢が、加山の作品に一貫して流れています。

本展では、夏目漱石「草枕」、宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」「真空溶媒」、太宰治の書簡など、文学作品を題材とした書を展示します。しかし加山が向き合うのは文章そのものの解釈だけではありません。漱石の言葉が自身を支えた経験、賢治の言葉に宿る切実な力——言葉の背後にある静かな層を、線と余白を通して見つめ直す試みです。文学は引用のための素材ではなく、心に残った言葉に、自身の線で応答する行為に近いものです。



また近年、加山はトポロジー(位相幾何学)にも関心を寄せています。「穴があるかないかで図形を分類する」という考え方との出会いは、余白や“空(エンプティ)”に価値を見出す加山の眼差しと自然に重なりました。線が循環し、途切れ、また別の場所でつながり直す構造は、言葉が生まれる前の感情の移ろいを思わせます。

彼女が「作品作りは、未消化の感情や嫌なことも美しいものへと変換できることに救いがある」と語るように、書くことは日々の揺らぎを静かに受け止める行為でもあります。「そしてその未消化の感情嫌な部分にこそ人間らしさがあって面白くていい」と言います。

加山の書は、文字として読む行為から離れ、静かな気配のように感じられる瞬間があります。線のわずかな動きや余白の深まり、文字や言葉にならなかった部分に残る微かな余韻が、見る人それぞれの記憶や感覚にそっと触れ、言葉が意味からゆっくりと離れていく時間がひらかれます。



本展「文字と数字」では、文学を題材とした作品や、トポロジーに着想を得た作品、そして加山らしいユーモアのある言葉の作品など、約30点を展示いたします。

また会期が年末年始にかかることもあり、その時期に寄り添う作品もあわせてご覧いただけます。初冬の板室温泉にて、ゆっくりとご高覧いただければ幸いです。


会期 : 2025年12月13日(土) - 2026年1月11日 (日) 10:00 - 17:00

※12月13日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。

2025年11月26日水曜日

第255回 音を楽しむ会

2025年最後の音を楽しむ会はピアノ 石田多朗さん、笙 中村華子さんによる演奏会でした。おふたりは今回が初めてのご出演です。



今回の演目...

盤渉調調子
陪臚
平調調子
常世

                                                                   etc...



会のはじめ、石田さんより「雅楽は人から人に向けて演奏されるものではなく、人から自然に向けて演奏されるもの」「音楽から何かメッセージを受け取ろうとするのではなく、余白から自由に感じ取ってほしい」とお話がありました。


静寂の空間の中、ピアノの音色が一音一音鳴り響きます。


会場後方から笙の神秘的で優婉な音色がゆっくりと近づき、雅楽の世界へと引き込まれていきます。


所感や印象といったものを形のない「温度感」でイメージする笙と経験や思い出といったものを形ある「記憶」としてイメージするピアノ。雅楽とクラッシクという、東洋と西洋の和洋折衷の音楽は聴くものを魅了します。


【 陪臚 】
この曲は1300年前からある曲で、戦勝祈願の曲として知られております。様々説はありますが、聖徳太子が戦の前の景気づけに演奏した曲とも言われており、心なしか力漲る曲でした。


【 常世 】
「日本の風景は天国みたいなもの」と仰った折口信夫さん。常世を理想の世界とみなしつつ、人々が現実世界(現世)に留まることの「愚かさ」を論じています。常世という曲は息子さんが幼い頃に書いたメモの文字をそのまま歌詞にした曲で、言葉ではないけれども、ただの音でもなく、心地よく耳に入ってくるその音色は、世の中にある物事の境界をあいまいにさせる感覚さえありました。理想と現実、事実と解釈。現代の言葉の価値や意味を考えさせられる一曲でした。


時代が進めど、変わらず受け継がれていくもの、そこに新たな解釈を組み合わせることにより、独自の世界観が生まれる。お二人が織り成す雅楽の世界観を通して、音楽の温故知新を体感することができた音を楽しむ会となりました。





次回の音を楽しむ会は2026年2月26日(木)テノール 上原正敏さんによる演奏会です。
どうぞお楽しみに!
※2025年12月26日(金)、2026年1月26日(月)は休演です。

2025年11月2日日曜日

2025年11月 磯谷博史 展

板室温泉大黒屋では、2025112日(日)から1130日(日)まで、磯谷博史による個展「パンゲアの破片/Shards of Pangaea」を開催いたします。

本展では、新作《パンゲアの破片》シリーズ14点に、《着彩された額》シリーズから小作品7点を加え発表いたします。




磯谷は、写真や彫刻を用いたインスタレーションを通じて、認識の複層的な構造を探る制作を続けてきました。大黒屋で3年ぶり4回目となる今回の個展では、オーストリア・ニーダーエスターライヒ州(ウィーン北方)に位置するロースドルフ城(Schloss Loosdorf)で撮影された写真作品を中心に構成されます。中世に起源をもつこの城は、近世・近代の改修を経て現在に至り、1834年にフリードリヒ・アウグスト・ピアッティ伯爵の手に渡って以来、ピアッティ家の所有となりました。同家は北イタリアを起源とし、11世紀にまで文献上の言及を遡ることができる旧家です。ザクセン宮廷で要職を務めた時期もあり、かつては陶磁器の交易にも関わっていました。ドレスデンからロースドルフへ居を移す際、陶磁器コレクションもともに運び入れたと考えられています。



ロースドルフ城のコレクションは、17世紀以降にヨーロッパへ渡った東アジアの古伊万里や景徳鎮の陶磁、さらにはマイセンやウィーンなど欧州各地の名窯を含む多様な構成で知られ、「白い金」と呼ばれた陶磁をめぐる東西交流の象徴ともいえるものでした。しかし第二次世界大戦末期、城は旧ソ連軍に接収され、地下に隠された陶磁器の多くが破壊されます。戦後、砕かれた破片は「Scherbenzimmer(陶片の部屋)」に集められ、戦禍の記憶として静かに保管されました。

展示される写真作品は、この「陶片の部屋」に残された破片を、生命の象徴でもあるミルクに浮かべて撮影したものです。ミルクは破壊の痕跡を包み込み、再生を象徴する儀式の場として機能します。乳白の液体は陶片の鋭い輪郭をやわらげ、かつて器であった姿への想像を私たちに促します。



磯谷は、失われた形を物理的に修復するのではなく、分かたれたものの間に新たな関係を見いだし、精神的な側面からの修復を試みます。断絶を抱えながらも、「いま、ここ」において
陶片の歴史と記憶を再び結び合わせようとしています。タイトルの「パンゲア(Pangaea)」は、かつて地球上の大陸が一つであったとされる超大陸を指します。やがて分かたれた大陸を再び結んだ航海や交易の歴史は、東アジアの陶磁がヨーロッパへ渡った道のりとも重なります。ロースドルフ城に残る日本・中国・欧州の陶片は、交流と伝播、そして分断の記憶を静かに語りかけます。砕かれた断片を結び直す本展の試みは、歴史と物質の層を横断し、観る者の想像力を通して「再生」を促すひとつの回復の旅でもあるのです。  
本プロジェクトは、ロースドルフ城を所有するピアッティ家と磯谷によるコラボレーションから始まりました。何世代にもわたって日本を含む東アジアの陶磁器を収集してきたピアッティ家は、「陶片の部屋」に保管されてきた文化遺産(戦争遺産)と、現代美術を交差させる試みを構想しました。陶磁器コレクションの理念に共鳴した磯谷は、時間の層や破片の記憶、再生といった主題を軸に、陶片をめぐる歴史的な物語を現代へと接続することを試みます。彼にとってこの出会いは、異なる時代と場所を媒介する創造の契機でもあったといえるでしょう。
秋の紅葉深まる那須・板室温泉にて、ぜひご高覧いただけましたら幸いです。



会期 : 2025 年11月2日(日) - 11月30日 (日) 10:00 - 17:00

※11月2日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2025年10月26日日曜日

第254回 音を楽しむ会

今月の音を楽しむ会はフルート 森川道代さん、ピアノ 安宅薫さんによる演奏会でした。



今回の演目は...

                                       ♪ R.ギオー マリオン組曲より第一楽章

                                       ♪ A.F.ドップラー 「 3つの小品」より
                                          ・子守唄
                                          ・ マズルカ

                                       ♪ C.A.ドビュッシー
                                          ・小舟にて
                                             ・小さな羊飼い
                                             ・亜麻色の髪の乙女

                                       ♪ ジュナン ヴェニスの謝肉祭(Picc.)

                                       ♪ ダマーズ 演奏会用ソナタ




今回は森川さんの恩師でもあるレイモン・ギオー氏作曲の「マリオン組曲より第一楽章」で開演しました。


音楽の「抽象主義」とも呼ばれているC.A.ドビュッシー。彼の作る曲は「色」を連想させるものがあり、光や水面のきらめきといった視覚的な印象や雰囲気を「音」で表現しています。森川さん、安宅さんの奏でる「亜麻色の髪の乙女」はフルートの音色も相まり、より音が、空間が澄み切って感じられ、木漏れ日が差し込む森林の中に佇む女性を想起させます。中盤以降の曲調は女性の姿をどこか懐かしむような哀愁も感じられました。


曲間のMCでは作曲者や時代背景、楽器の説明など、森川さんの楽しいMCもありました。ジュナン作曲「ヴェニスの謝肉祭」で使用したピッコロは161年前のものなのだとか。歴史好きの森川さんは池田屋事件に触れながら、長い間大切に保管され音を紡いできたことを嬉しそうに説明しておりました。フルートよりも甲高い音色のピッコロ。細かい音の粒が連なる圧巻の演奏に会場からは大きな拍手が起こりました。


アンコールには「カラスなぜ泣くの」でおなじみの童謡「七つの子」を演奏。テレビ番組「8時だョ!全員集合」で志村けんさんが「カラスの勝手でしょ」と替え歌したことにより、幅広い世代に認知されている曲です。替え歌による明るく元気な印象でしたが、フルートとピアノの清らかな音色により、清澄さも感じられ、曲に対する印象が大きく変わった一曲となりました。





次回は11月26日(水)ピアノ 石田多朗さん、笙 中村華子さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!