2026年7月31日金曜日

2026年8月 Daikokua Gallery Show

 板室温泉大黒屋では、2026年7月31日(金)から8月31日(月)まで、「Daikokuya Gallery Show」を開催いたします。大黒屋では、「保養とアートの宿」をコンセプトに、1980年代後半より展覧会活動を続けています。旅館は、日々の暮らしから少し離れ、心と身体を整える場所です。温泉に浸かり、自然を眺め、料理を味わい、静かな時間を過ごす。その穏やかな時間の中で作品と出会うことによって、普段は見過ごしてしまう感覚や、知的な好奇心がゆっくりとひらかれていくことがあります。私たちは、そのような時間もまた「保養」の一つのかたちだと考えています。温泉や自然の中で、ふと作品と向き合い、その背景にある思想や制作への姿勢に触れることで、ものの見方や感じ方が少しだけ変わる。そのような静かな体験を、この宿で育んでいきたいと考えています。



 これまで大黒屋では、現代美術をはじめ、陶芸、漆芸、木工、竹工芸、ガラス、染織、植物など、分野を限定することなく、50名を超える作家・作り手とともに展覧会を企画してきました。作家がどのような眼差しで世界を見つめ、どのような問いを抱きながら制作を続けているのか。その姿勢に惹かれ、対話を重ねながら展覧会を積み重ねてきました。

 私たちが考えるキュレーションとは、作品を通して作家の視点や思考をご紹介し、お客様と作家をつないでいくことだと思います。一度きりの展示ではなく、継続して作品をご紹介すること。その積み重ねによって、作品だけではなく、一人でも多くの方に作家を知っていただくこと。そして、作家の活動を長く見守りながら、その歩みをともにご紹介していくことも、大黒屋の大切な役割だと考えています。本展では、そのような展示活動の中から、これまで大黒屋で個展を開催してきた9名の現代美術作家による作品をご紹介いたします。



 表現はそれぞれ異なりますが、共通しているのは、世界を深く見つめる眼差しです。日常の中にある小さな違和感や美しさ、時間の積み重なり。目には見えない関係性や記憶を、それぞれの方法で作品へと結びつけています。作品は答えを示すものではありません。静かに問いを投げかけながら、私たち自身の見方や感じ方を少しだけ揺らし、新たな風景を見せてくれます。

Daikokuya Gallery Show」というタイトルには、大黒屋が長年続けてきたギャラリー活動 ─ 作家をご紹介し、その視点や作品との出会いを育みながら、人と作品、人と作家をつないできた歩み ─ を表しています。本展が、それぞれの作家を知り、その制作や活動へ興味を持っていただくきっかけとなれば幸いです。



 旅館だからこそ、生まれる作品との出会いがあります。温泉に入り、食事をし、散策をしながら、ふと作品のことを思い返す。翌朝、もう一度作品の前に立ってみる。そんな時間の流れの中で、作家の視点が少しずつ自分の中に残り、作品との関係もゆっくりと深まっていく。そのような作品との出会い方もまた、この場所ならではの体験なのかもしれません。

 夏の板室は、那須の自然が最も豊かな表情を見せる季節です。作品とともに、この土地ならではのゆっくりと流れる時間も味わっていただけましたら幸いです。どうぞご高覧ください。 


出品作家

磯谷博史、上野友幸、加山幹子、菅木志雄、五月女哲平、田幡浩一、手塚愛子、八木夕菜、

山本雄基


会期 : 2026年7月31日(金) - 8月31日(月) 10:00 - 17:00

※7月31のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。







2026年7月3日金曜日

2026年7月 吉田 佳道 展

 板室温泉大黒屋では、202673日(金)から728日(火)まで、竹工家・吉田佳道の個展を開催いたします。当館では初めての個展となります。吉田佳道は、長野県安曇野市を拠点に活動する竹工芸作家です。1988 年に大分県別府にて竹工芸を学び、1993年に安曇野にて独立。以来、「竹の工芸 よしだ」として花籠をはじめ、茶籠、盛器など、日々の暮らしに寄り添う竹の仕事を続けてきました。


 日本の竹工芸には、茶の湯や花の文化とともに育まれてきた歴史があります。吉田の仕事もまた、その確かな技術の上に成り立っています。しかし、その関心は技巧そのものを示すことよりも、日常の中で自然に使われることへと向けられているように思われます。吉田が手掛ける作品は、使うことを前提として生み出されたものです。細く割られた竹ひごは、編まれ、曲げられ、組み合わされることで、軽やかでありながら確かな構造を持つかたちへと立ち上がります。また近年は、編むことを前提としてきた竹工芸の枠にとどまらず、あえて編まない竹の表現にも取り組みながら、素材との向き合い方を広げています。その仕事には、確かな技術に支えられながらも、どこか穏やかで親しみのある空気が漂っています。

 
 吉田の作品には無理のない美しさがあります。それは強い造形性を主張するものではなく、素材の性質や用途に丁寧に向き合うことで生まれる、静かな端正さと言えるかもしれません。作品はあくまで静かにそこにあり、暮らしの風景の中に自然と溶け込んでいきます。

 とりわけ吉田の花籠には、花を活けるための細やかな工夫が込められています。銅製の落としの形状や位置、倒れにくくするために施された見えない重りなど、それらは花が自然に収まり、安心して使うためのものです。そのような工夫は決して目立つものではありません。しかし、使い続ける中で、作品がいかに丁寧につくられているかに気づかされます。見えない部分にまで心を配ること。その静かな美意識もまた、吉田の仕事の大きな魅力と言えるでしょう。また、吉田の花籠には野の花や山野草がよく似合います。道端に咲く草花をひと枝活けるだけで、その場の空気は少し変わり、季節の移ろいが身近なものとして感じられます。



 本展では、花籠を中心に、竹の素材感と構造の美しさを感じていただける作品をご紹介いたします。夏の盛りを迎える頃、竹が生み出す涼やかな陰影と、手仕事の確かさ、そして暮らしの中に息づく静かな美しさに触れていただけましたら幸いです。

どうぞご高覧ください。


会期 : 2026年7月3日(金) - 7月28日(火) 10:00 - 17:00

※7月3のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。



2026年6月26日金曜日

第260回 音を楽しむ会

 6月の音を楽しむ会はヴァイオリニスト・音楽家の新村隆慶さんによる演奏会でした。2023年10月以来、3回目のご出演です。

今回はヴァイオリンのみ。その場の空気を感じ取りながら、即興で音を紡いでいきます。

満席の場内には、梅雨特有の湿度と落とされた照明が相まって、心地よい緊張感と少し重みのある空気が漂っていました。

そんな静寂のなか、まるで暗闇に光が差し込むかのように、ヴァイオリンの音色が一音、また一音と鳴り響きます。

最初は調律のようにも聴こえましたが、次第に音が重なり合い、ひとつの美しいフレーズが形成されていきました。こうして音が積み重なる過程を目の当たりにすることで、私たちは音の奥行きや、そこに広がる情景をより深く感じることができるのかもしれません。

始まりがあり、終わりがある曲ではなく、場の空気を感じながら即興的に演奏することで、音が止んだ後も淡い余韻となって、微かに頭の中でヴァイオリンの音色が響いていました。

ルールや様式が厳格な「クラシック」という、少し固いイメージもあるヴァイオリン。しかし今回は、ルーパーを駆使して音をリアルタイムに重ね合わせたり、さらには楽器を膝に据え、琴のように奏でたりと、その概念を覆す試みが満載でした。ヴァイオリンという楽器のイメージが鮮やかに塗り替えられ、その奥深い可能性に誰もが魅了される、まさに「音を楽しむ」という言葉にふさわしい特別なひとときとなりました。




次回は7月26日(日)ソプラノ 横井香奈さん、ピアノ 北村晶子さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみ!



2026年6月4日木曜日

2026年6月 古美術うまのほね・鎌田奈穂 展

 板室温泉大黒屋では、2026年6月4日(木)から6月29日(月)まで、「古美術うまのほね・鎌田奈穂 展」を開催いたします。本展では、古美術うまのほねを主宰する鎌田充浩と、金工作家・鎌田奈穂による展示を中心に、杉田明彦の漆器、小澄正雄のガラス作品をあわせてご紹介いたします。鎌田充浩と鎌田奈穂は兄妹であり、古美術と金工という異なる立場から、長年ものづくりや古いものに向き合ってきました。


うまのほねは、店舗を持たず、展覧会や企画展を中心に活動する古美術店です。オリエント美術を軸に、エジプトから中国北方に至る考古美術や古美術を扱いながら、長年にわたり「手のひらに載る小さなもの」「密度の高いもの」に眼差しを向けてきました。本展に並ぶものの多くもまた、小さなものたちです。ガラス器、壺、器、香炉、装身具、祈りのための道具、時代も地域も異なりながら、それらは本来、人の手の中で使われ、愛でられ、受け継がれてきたものたちです。小さなものの中に凝縮された技術や時間、そして長い年月を経てもなお失われない存在感は、うまのほねが一貫して見つめ続けてきたものでもあります。


 一方、鎌田奈穂からは、銀や銅を用いた作品に加え、西洋のブリキ缶を写した函や、ヘレニズム時代の銀器を写した杯などが出品されます。また、スプーン、フォーク、マドラー、茶漉し、小皿といった日々の道具も並びます。鎌田奈穂の作品にもまた、古いものへの深い関心が流れています。それは単なる再現や引用ではなく、長い時間を生き残ってきた形や佇まいに学びながら、その魅力を現在の暮らしへと受け渡そうとする仕事のようにも見えます。


さらに本展では、うまのほね:鎌田充浩の依頼により、鎌田奈穂(金工)、杉田明彦(漆)、小澄正雄(ガラス)の三名が制作した作品群もあわせてご紹介いたします。今回のお題となったのは、卓上を愉しむための道具でした。銀メッキ洋函や純銀酒盃の組作品、銀メッキ盆、円筒形の漆器、扁平グラスや古物写しのコップ、ガラス徳利など、それぞれの素材や技法を通して生まれた作品には、古いものを見つめ続ける中で育まれた眼差しが静かに息づいています。異なる作り手による仕事でありながら、それらがひとつの卓を囲むように並ぶ姿も、本展の見どころのひとつです。


古代の器物をつくった人々の手。それを見つめ、受け継いできた人々の眼。
そして現代の作り手たちの手。遠く離れた時代や土地のものでありながら、それぞれはどこかで静かにつながっているようにも思えます。
本展では、考古美術と現代工芸、そして日々の道具が並びます。
古いものと新しいもの。使われてきたものと、これから使われるもの。
そのあいだを行き来しながら、ものが宿す時間や、人の手が生み出してきた仕事の豊かさに触れていただけましたら幸いです。どうぞご高覧ください。

会期 : 2026年6月4日(木) - 6月29日(月) 10:00 - 17:00

※6月4日、19日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。



2026年5月26日火曜日

第259回 音を楽しむ会

5月の音を楽しむ会はチェロ 黒川正三さん、ピアノ 黒川文子さんによる演奏会でした。





今回の演目は...

                                                   エルガー                      愛の挨拶
                                                   フォーレ                      夢のあとに
                                                   ドビュッシー              美しき夕べ
                                                   ラフマニノフ              ソナタ ト短調 作品19





心落ち着く曲調が印象的なエルガー作曲の「愛の挨拶」で幕を開けました。


続いては、文子さんの素敵な詩の語りとともに、フォーレ作曲『夢のあとに』、そしてドビュッシー作曲『美しき夕べ』が演奏されました。それぞれの曲に添えられた詩の朗読が、音楽の叙情的な世界観を引き立て、おふたりが奏でる美しい音色をより深く堪能することができました。


プログラムのメイン曲とも言えるラフマニノフ作曲「ソナタ ト短調 作品19」は、全4楽章からなる約35分の超大作です。怪しげでどこか寂しげな序奏から始まり、曲は少しずつテンポを速めていきます。弦を指で弾く特殊奏法「ピチカート」が曲に鮮やかなメリハリを与え、ピアノが細かく紡ぐメロディーと相まって、
聴き手を情熱的で高揚感あふれる世界へと引き込みます。クライマックスに向けて華やかに世界が広がっていくような力強い演奏が響き渡ると、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。


アンコールでは「ダニー・ボーイ」と「アメイジング・グレイス」の2曲が演奏されました。誰もが耳馴染みのある名曲だからこそ、おふたりの息の合った素晴らしい演奏に、会場のお客様も深く聞き入っておりました。





次回は6月26日(金)ヴァイオリン 新村隆慶さんによる演奏会です。
どうぞお楽しみに!