板室温泉 大黒屋
保養とアートの宿
2026年2月26日木曜日
第256回 音を楽しむ会
2026年2月6日金曜日
2026年2月 渡辺豊重 展
板室温泉大黒屋では、2026年2月6日(金)から3月2日(月)まで画家・彫刻家 渡辺豊重 の展覧会を開催いたします。渡辺豊重は1931年に生まれ、2023年に逝去するまで、絵画、版画、彫刻など多様な表現を通して、色彩やかたちが立ち上がる感覚そのものを探求し続けた作家です。
渡辺と大黒屋との関わりは古く、1995年、2000年の二度にわたり、ここ板室温泉大黒屋にて個展が開催されました。1995年の個展の際に制作された屋外彫刻《みんなそろってピーヒャラドン》は、現在も大黒屋の裏庭に設置され、毎日出勤するスタッフや宿へ訪れる人々を静かに迎え続けています。自然の中に置かれたその姿は、作品が鑑賞の対象であると同時に、風景の一部として時間を重ねてきたことを物語っています。
大黒屋の前代表・室井俊二(会長)にとって、「保養とアートの宿」として大黒屋が進んでいく過程で出会った作家たちは、単なる展示の対象ではなく、宿の在り方そのものを形づくる存在でした。なかでも、現在の大黒屋にも深くつながり、重要な作家として位置づけられているのが、菅木志雄、村井正誠、そして渡辺豊重です。
1980年代後半から90年代にかけて、現代美術はまだ一般的とは言えず、旅館という場で作品を展示し、作家と継続的に関わることは、決して当たり前の選択ではありませんでした。そのような時代に、室井はこの三者の美術活動に触れ、宿として作家と向き合い、交流を重ねるなかで、空間のつくり方や、時間の積み重ね方、そして「保養」という概念そのものを学んできました。
三人の作品は現在も大黒屋の館内外に点在し、風景や建築、日常の営みとともに静かに息づいています。それらは展示物というよりも、この場所の時間とともに育まれてきた存在であり、われわれの空間そのものを形づくる重要な要素となっています。
若い頃は都市を拠点に活動していた渡辺は、1990年代以降、栃木県那珂川町にアトリエを構え、自然とともにある生活へと身を移しました。都市と地方、社会の矛盾や違和感、日常のなかに生まれる感情の揺らぎは、次第に彼の作品の中で、より自由で、より率直な「色」と「かたち」として立ち上がっていきます。
一見すると明るく、ユーモラスに見える渡辺の作品ですが、その奥には、怒りや戸惑い、社会への問いといった複雑な感情が重なっています。代表的なモチーフである「鬼」の姿にも、恐ろしさよりも人間味が漂い、見る者に軽やかさと同時に、言葉にしがたい余韻を残します。
渡辺にとって制作とは、完成された意味を提示する行為ではなく、色を置き、線を引き、かたちを試すなかで、思考や感情が変化していくプロセスそのものだったのかもしれません。絵画と彫刻、平面と立体のあいだを自在に行き来する表現は、ジャンルの枠を越え、視覚そのものの歓びへとひらかれています。
現在、栃木県立美術館では回顧展が開催され、渡辺豊重の画業全体を見つめ直す機会が設けられています。
本展では、その回顧展の機会にあわせ、あらためて大黒屋と渡辺豊重との関係を見つめ直すことをひとつの軸とし、これまで大黒屋でコレクションされてきた作品を中心に展示いたします。あわせて、1995年に制作された《みんなそろってピーヒャラドン》の版画作品なども紹介します。本展では、版画を中心に、絵画など計14点を展示いたします。2月の板室の静かな時間の中で、渡辺豊重が生涯を通して探し続けた、色とかたちが立ち上がるその気配を、ゆっくりと感じていただければ幸いです。
会期 : 2026年2月6日(金) - 3月2日 (月) 10:00 - 17:00
2026年1月30日金曜日
2026年1月 大黒屋コレクション展&掘り出し市
板室温泉大黒屋では、2026年1月16日(金)から2月2日(月)まで「大黒屋コレクション展&掘り出し市」を開催いたします。大黒屋コレクションの中から菅木志雄、荒木悠、五月女哲平、平井明子、八木夕菜、長沼由梨子、磯谷博史、新里明士、冨田美穂などの作品を展示しております。
八木夕菜「Vertical 01」
また、サロン内で掘り出し市も開催しておりす。大黒屋で使用していたもの、金継ぎした器、室礼のものなども販売いたします。この機会に、ぜひご高覧いただけたら幸いです。
会期 : 2026年1月16日 (金) - 2月2日 (月) 9:00-17:00
※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。
2025年12月13日土曜日
2025年12月 加山幹子 展
板室温泉大黒屋では、2025年12月13日(土)から2026年1月11日(日)まで書家・加山幹子
による個展「文字と数字 “Characters and Numbers”」を開催いたします。
加山は大学卒業後、建築金物メーカーを経てHIGASHIYAに勤務しました。同社は、日本の伝統文化を現代の生活にふさわしい形で進化させ継承することを理念とするデザイン会社を母体とした和菓子屋であり、その環境のなかで加山は日本人の美意識や、ものに向き合う姿勢、日々の営みの細部に潜む静かな美を深く学んできました。
やがて生活の流れや人との関わりのなかで、心の余白や立ち止まる時間を必要としたとき、自然と「書」と向き合うようになります。そして2019年より書家としての活動を開始しました。
筆を動かすうちに、技術の巧拙よりも線にあらわれる“その瞬間の自分”の方が正直であると気づいた加山は、「自分に嘘のない文字だけを書く」という姿勢を大切にしてきました。また書かれた文字の意味よりも、そこから“こぼれ落ちた部分”ににじむ感情に、人の心の奥行きを感じています。
本展では、夏目漱石「草枕」、宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」「真空溶媒」、太宰治の書簡など、文学作品を題材とした書を展示します。しかし加山が向き合うのは文章そのものの解釈だけではありません。漱石の言葉が自身を支えた経験、賢治の言葉に宿る切実な力——言葉の背後にある静かな層を、線と余白を通して見つめ直す試みです。文学は引用のための素材ではなく、心に残った言葉に、自身の線で応答する行為に近いものです。
また近年、加山はトポロジー(位相幾何学)にも関心を寄せています。「穴があるかないかで図形を分類する」という考え方との出会いは、余白や“空(エンプティ)”に価値を見出す加山の眼差しと自然に重なりました。線が循環し、途切れ、また別の場所でつながり直す構造は、言葉が生まれる前の感情の移ろいを思わせます。
彼女が「作品作りは、未消化の感情や嫌なことも美しいものへと変換できることに救いがある」と語るように、書くことは日々の揺らぎを静かに受け止める行為でもあります。「そしてその未消化の感情嫌な部分にこそ人間らしさがあって面白くていい」と言います。
加山の書は、文字として読む行為から離れ、静かな気配のように感じられる瞬間があります。線のわずかな動きや余白の深まり、文字や言葉にならなかった部分に残る微かな余韻が、見る人それぞれの記憶や感覚にそっと触れ、言葉が意味からゆっくりと離れていく時間がひらかれます。
また会期が年末年始にかかることもあり、その時期に寄り添う作品もあわせてご覧いただけます。初冬の板室温泉にて、ゆっくりとご高覧いただければ幸いです。
会期 : 2025年12月13日(土) - 2026年1月11日 (日) 10:00 - 17:00











