板室温泉大黒屋では、英国・ロンドンを拠点に活動する陶芸家・平井明子の、日本では初となる個展を開催いたします。平井は日本で認知心理学を学んだ後に渡英。ウェストミンスター大学、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズで陶芸を学び、2003 年よりロンドンを拠点に制作を続けています。本展では代表作「Moon Jar」を中心に植物の種の莢から着想した「Poppy Pod」、ジョルジョ・モランディの静物画を出発点とする「Morandi Bottles」の3 つのシリーズ、およそ70 点をご紹介します。



その考えは、自身の「Moon Jar」にもつながっています。窯の中で高温によって柔らかくなった土は、重力や上部の重みによって沈み、傾き、歪み、ときには完全に潰れてしまいます。平井は長年の制作を通して、土や釉薬が起こす化学的、物理的な変化をある程度予測しながらも、すべてを意図通りに制御するのではなく、素材が環境に応答することで生まれる変化を受け入れています。
焼成という環境をくぐり抜け、最終的に残った形や表情そのものを作品として受け入れる。そのため、一つひとつの「Moon Jar」には異なる傾きや歪み、表面の変化が現れます。
平井にとって「Moon Jar」は、古典的な月壺の形を再現するものではありません。制作の過程で壺が経験した出来事と、そこに残された痕跡そのものが、作品の見どころとなっています。


複数のボトルを並べることで、その配置によって形と形の間に異なる空間が生まれます。制作を続けるうちに、ボトルは次第に人間の身体を思わせる存在へと変化していきました。平井が暮らすロンドン・ハックニーは、さまざまな文化的背景を持つ人々が生活する地域です。街を歩く人々には、背の高さや体型だけでは説明できない多様なプロポーションがあり、そこに姿勢や動き、それぞれの個性が加わります。
平井はボトルをつくることを、「ろくろの上でハックニーの人々をさらっとデッサンしている感覚」に近いと語ります。一つひとつの形だけでなく、その組み合わせによって生まれる空間や影、そして人のような気配も、このシリーズを構成する要素となっています。


このたび、日本では初となる個展として作品を一堂にご紹介できることを嬉しく思います。
長年ロンドンで制作を続けてきた平井にとって、日本で作品を発表することは、海外での展示とはまた異なる特別な機会でもあります。私たちもこの展覧会を楽しみに準備してきました。
ぜひ作品を前に、それぞれの形や表情をゆっくりとご覧いただけましたら幸いです。








