2025年3月7日金曜日

2025年3月 上野雄次展

 板室温泉大黒屋では3月7日より大黒屋サロンにて上野雄次展「花」を開催いたします。


上野雄次は自然との対話をテーマに、花そのものが持つ生命力や空間との関係性を探求する「花いけ」で知られています。彼の花いけは、単なる装飾としての花ではなく、自然の摂理や存在の本質に迫る試みであり、その美学は国内外で高く評価されています。

上野氏は、京都府生まれ鹿児島県出身。独学で花道を学び、国内外でのインスタレーションやパフォーマンス、個展を通じて独自の花いけ表現を確立してきました。伝統的な花道の枠にとらわれず、自然と人間の関係性、空間における花の存在意義を問い続け、現代的な感覚で花の美を再解釈しています。これまでに日本各地のギャラリーや文化施設での展示に加え、海外でも数々のプロジェクトを展開しています。



彼の花いけの哲学は、次のような言葉に集約されます。

「実に単純で限りなく美しい天地森羅万象の理にしたがい、 時に澄み渡る空のように晴れやかで真っ直ぐな、 時に暗く淀んだ淵に沈み込む、 実に厄介で曖昧な人の心に寄り添い続け、 その他全てのことから自由であることをここに宣言致します。」

この言葉は、彼の花いけが自然と人間の内面、そして宇宙の理(ことわり)と密接に結びついていることを物語っています。花をいけることは、自然との対話であり、人間の内面との対話でもあります。上野氏は、野に咲く花を探し、土地の生命力を感じさせる素材を用いて生命の上昇を表現し、破壊的で爆発的な創作物を通じて生命の力強い生の状態をトレースしてきました。植物から出発し、同じ自然界の存在である人間とつながる、そんな基本に忠実な花の哲学を、花いけでは大切にしています。



今回の展覧会では、大黒屋が所蔵する花器を中心に、上野氏ならではの花いけインスタレーションが展開されます。本展は、単なる静的な展示ではなく、会期中に定期的に展示構成を変え、訪れるたびに新たな発見があります。主に金曜日に構成が変わり、花や空間が生きていることを実感できる展示となるでしょう。特に、春の訪れがまだ遠い3月の板室で開催されることにより、花の持つ儚さと力強さ、そして空間に生まれる緊張感が一層際立ちます。本展は大黒屋にとっても初めての「花いけ」の展覧会となります。通常、花いけは短期間の展示や一時的なインスタレーションとして行われることが多い中、本展のように約3週間にわたる長期展示は非常に珍しい試みです。季節の移ろいとともに変化する花の表情、空間との対話をじっくりとご堪能いただける特別な機会となるでしょう。

また会期中の毎週日曜日には、上野氏自身によるデモンストレーション(公開花いけ)を開催いたします。このデモンストレーションは、花がいけられる瞬間そのものをみることができる貴重な機会です。上野氏が花を手に取り、素材の表情や空間のバランスを直感的に捉えながら、花が新たな命を得る瞬間を共有します。その瞬間、花のエネルギーと空間の息づかいを感じられます。会期中は上野氏自身も板室に在廊予定であり、直接その感性や花いけに対する哲学に触れる貴重な機会となります。展示は宿泊されながらご覧いただくことをお勧めしますが、宿泊されなくても展示はご覧いただけます。「花」と対話するひとときをぜひお楽しみいただけたら幸いです。


会期 : 2025年3月7日(金) - 3月30日 (日) 10:00 - 17:00

※会期中の毎日曜日10:00〜11:00にデモンストレーション(公開花いけ)を行います。

※3月7日、22日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2025年2月1日土曜日

2025年2月 村井正誠 版画展

板室温泉大黒屋では2月1日より大黒屋サロンにて「村井正誠 版画展」を開催いたします。



村井正誠(1905-1999)は、日本の抽象絵画の先駆者のひとりとして知られ、戦後の美術界において重要な役割を果たしました。モダンアート協会の創立メンバーとして活動しながら、独自の表現を追求し続けた村井は、特に「人」というテーマに深い関心を寄せ、その内面的なエネルギーを抽象的な形や色彩へと昇華させました。彼の作品は、鮮やかな色彩と大胆なフォルムが特徴であり、そこには静かな情熱と研ぎ澄まされた感性が宿っています。



板室温泉大黒屋の前代表である室井(現会長)が、約40年前に現代アートに関心を抱き始めた頃、最初に手にした作品が村井の版画でした。それは、大黒屋が「保養とアートの宿」として歩み始める契機のひとつとも言える出会いでした。それゆえに、当館にとっても村井正誠は特別な作家のひとりです。現在も、館内の通路や一部の客室には村井の版画が飾られ、日々の空間の中でその作品が息づいています。宿泊されたお客様がふと目を向けた時、村井の色彩がもたらす静かなエネルギーを感じ取っていただけることでしょう。2020年に一度村井正誠の版画展を開催し、その際に作品に合わせた新たなフレームを制作しました。今回は、その展示とは異なる作品群で、新たにフレームを製作し直しより洗練された形で村井の版画作品をお届けいたします。



村井は油彩画の制作と並行して、版画の世界にも積極的に取り組み、生涯で200点以上の版画作品を手がけました。しかし、長らくその全体像が体系的にまとめられることはありませんでした。昨年、阿部出版社より刊行された『村井正誠 版画作品集』により、ようやく村井の版画作品が網羅的に紹介され、その表現の多様性が明らかになりました。彼の版画作品は、単なる複製技術にとどまらず、色彩と構成の実験の場でもあり、絵画と並ぶ創造の軌跡が刻まれています。本展では、1950年代から1990年代にかけて制作された版画19点と、貴重なドローイング1点を展示いたします。半世紀以上前に生み出された作品でありながら、村井の表現は時代を超えて響き続け、令和の今もなお新鮮な魅力を放っています。この機会にぜひご高覧ください。


会期 : 2025年2月1日(土) - 2月24日 (月) 10:00 - 17:00

※2月1日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2025年1月26日日曜日

第247回 音を楽しむ会

2025年1月の音を楽しむ会は津軽三味線 佐藤通弘さん、佐藤通芳さん、箏 海寶幸子さんによる演奏会を行いました。



今回の演目は...


津軽じょんから節 即興かけ合い

津軽音頭

鳥のように

津軽じょんから節

みだれ

弘前城桜吹雪

嘉瀬の奴踊り

三味線ポルカ

荷方節

ドダレバチ





通弘さん、通芳さんによる「津軽じょんから節 即興かけ合い」で始まった新年最初の音を楽しむ会。お互いの呼吸を読んでいるかのように、息のあった演奏は「流石」の一言。これから始まる演奏にまだかまだかと期待感を抱かせます。

名前のように緩急があり、音程もある「みだれ」。箏の雅な音色もあいまり、優雅に自由に舞うかの如く、景色が紡がれていく一曲でした。

御三方の楽しそうな演奏姿に見ている方も楽しくなり、すっかり魅了された「弘前城桜吹雪」、演奏終盤の極限状態に気持ち昴揚した「三味線ポルカ」など、後半も興奮冷めやらず。

アンコールには「荷方節」と「ドダレバチ」を披露。荷方節のお互いの技を見せつけ合うような、荒々しくも一糸乱れぬ演奏に圧倒され、しばし拍手が鳴り止みませんでした。


勢いのある演奏から一転、リズミカルな曲調の「ドダレバチ」。通弘さんの太鼓と唄、子供たちの踊りも入り、縁日に来ているかのような、めでたさも感じる一曲で幕を閉じました。

津軽三味線と箏が織りなす静と動の音色を堪能できた音を楽しむ会となりました。




次回の音を楽しむ会は3月26日(水)、

テノール 猪村浩之さん、ピアノ 大坪由里さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

※2025年2月は「休演」です。


2025年1月18日土曜日

2025年1月 大黒屋コレクション展

 1月18日より大黒屋サロンにて「大黒屋コレクション展」を開催しております。

菅木志雄「景深」
野田祐一郎「ft-007」
安永正臣「Empty Creature」
加山幹子 「○△□」
染谷悠子「リッカの季節-トリ-」
上田亜矢子「ここに射す光」
山本雄基 「Parallel Circles(from2&2)」
上野友幸「Ikebana Collage-Hydrangea」
新里明士「光器」

大黒屋コレクションの中から菅木志雄、山本雄基、加山幹子、安永正臣、上田亜矢子、野田祐一郎、染谷悠子、新里明士、上野友幸の作品を展示しております。

会期 : 2025 年 1 月 18 日 ( 土) - 1 月 27 日 (月) 9:00 - 17:00
※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。



2024年12月20日金曜日

2024年12月 瀬沼健太郎展

 板室温泉大黒屋では12月20日より大黒屋サロンにて「瀬沼健太郎展」を開催いたします。


瀬沼さんは東京都生まれ。多摩美術大学デザイン科を卒業後、 ガラス工房での勤務や非常勤講師を経て、2010 年に東京で独立。現在は秋田公立美術大学准教授として後進の育成に力を注ぎつつ、自身の制作活動にも精力的に取り組み、国内外での展覧会を通じて幅広い支持を集めています。 瀬沼さんの作品は、古陶磁が持つ普遍的な美しさをガラスという現代の素材に写し取り、現代にふさわしい形で再解釈しています。そのテーマの中心には「水」があり、ガラスの透明感や瑞々しさを通じて「水の存在」を問いかけるような表現を追求しています。さらに、制作において自然や偶然性を取り込むことを大切にしており、ガラスの表面や内側を特殊な技法で溶かすことで、陶芸の薪窯での釉薬変化のような予測不可能な質感や表情を生み出しています。こうしたアプローチにより、自然が生む美しい偶然を作品に宿らせる試みがなされています。制作では、ガラスの透明感を活かした作品、曇りのような質感を加えた作品、ダイヤモンド研磨材を使ってざらざらとした白い表情を引き出した作品など、独自の技法が用いられています。これらの作品には、緻密な手仕事と自然の偶然性を受け入れる柔軟な姿勢が織り込まれ、独特の生命感が与えられています。



彼が作品に込めるのは、 静かで控えめながらも見る者に強く訴えかける力です。その背景には、「物が静かに語る」という視点を重視する瀬沼さんの制作哲学が反映されています。秋田に移住して約 8 年。日々の自然の中で得た感覚を制作に反映しています。特に冬の秋田で目にす る雪、氷、霧、水、つらら、海といった「冬の水の表情」に深く影響を受けています。凍る川原や薄氷に映る光、霜が降りる朝の静寂など、冬の自然が持つ一瞬の美しさをガラスという素材で具現化する試みを続けてきました。瀬沼さんにとってガラスは単なる素材ではなく、自然の持つ儚い美しさを結晶化するための「媒介」として存在しています。また、花を生ける行為にも深く親しみ、器と花の関係性を探求しています。自然の花が持つ静けさや動きに調和する器を作ることを意識し、花と器の融合を追求し、その相互作用によって空間全体を彩る「独特の存在感」を創出しています。偶然性を取り入れた表情豊かな器は、花を生ける者の感性と自然の力を融合させる特別な舞台となっています。 



2020 年の秋以来 3 回目となる本展示では、冬の板室温泉の情景に寄り添う花器を中心に展示を行います。梅瓶、瓶子、鶴首、水壺、曽呂利、鉢、細瓶、掛花など、ガラスの多様な表情が織りなす 作品群は、日常の中で見逃されがちな「美」や「自然とのつながり」を再発見する機会になれば幸いです。 また、ガラスといえば夏を連想する方も多いかもしれませんが、冬だからこそ映えるガラスの美しさをぜひ楽しんでいただければ幸いです。 

会期 : 2024 年12月20日(金) - 1月13日 (日) 10:00 - 17:00

※12月20日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。