2024年11月1日金曜日

2024年11月 宮林妃奈子展

板室温泉大黒屋では11月1日より大黒屋サロンにて宮林妃奈子展「うみの背中」を開催いたします。


北海道出身の宮林は幼少の頃から絵画教室に通い絵を描くことが常に生活の一部でした。絵を通じて感性を育み独自の世界観を形成する中で、自然と絵画への情熱を深めていきます。その後、多摩美術大学を卒業し、東京藝術大学大学院に進学。さらにベルリン芸術大学でも学び、2023年にマイスターシューラーを取得しました。現在も東京藝術大学大学院絵画科に所属し、国内外での経験を通じて表現を深化させています。



宮林の作品は、オイルペインティングを中心に、コラージュやさまざまな描画素材を用いて独自の視覚世界を展開しています。彼女は自身の絵画を「レイヤーではなく粒の重なり」として描くアプローチを取り、粒が積み重なる意識で作品に深みとリズムを生み出しています。この粒子は単なる構成要素ではなく、時間と空間を同時に刻むもので、彼女の絵画が固定的なものではなく、常に動的で生きた空間を感じさせる要素となっています。高い抽象性を持ちながらも、純粋な抽象絵画にとどまらず、その根底には確かなリアリズムが流れています。また、常に「風を描く」という意識を持ちながら制作に臨み、自然の微妙な変化や目に見えない力を描き出そうとしています。かつて宮林は「雪が降る様子が、見えない遠くまで層のように広がり、自分の描きたい空間と似ている」と語っており、こうした自然界の現象を多面的に捉え、時間や空間を超えて表現することが創作の核となっています。幼い頃から親しんできた自然や風景を「絵」として描き取る感性と深く結びついているのです。



女の制作では、画面にさまざまな布や和紙を貼り、支持体を重層化させる手法を取り入れることがあり、偶然性や視覚のズレを重要な要素としています。それが作品に独特の緊張感と柔らかさを生み出し、単なるレイヤーとして積み重なるのではなく、異なる時間や動きの中で存在しているように描かれ、画面全体に絶え間ない流動感とリズムをもたらしています。また、支持体にもこだわりを持ち、既成の白いキャンバスではなく、膠や天然素材を使って自ら下地を作成しています。生成りの麻や木製パネル、ジュートなど、素材の質感や肌理にも細心の注意を払っており、支持体自体が作品の一部として強い存在感を放ちます。こうした素材の選定や使用は、表現と素材の関係性を重視し、外部からの影響を受け入れながら新たな視覚体験を作り出す独自のアプローチです。

本展では、主に宮林が2024年に制作した新作約20点を展示いたします。具体的かつ詩的なタイトルと抽象的な表現が絶妙に交差し、画面に流れるリズムが鑑賞者に豊かな感覚体験を提供します。それぞれの作品は、鑑賞者が自由に解釈し、個々の経験を投影できる余白も残されており、時間を超えた深い思索の余地を感じさせます。大黒屋では初めての個展となります。展覧会「うみの背なか」にて、宮林妃奈子が描き出す世界観を晩秋の板室温泉にてご高覧いただけたら幸いです


会期 : 2024 年11月1日(金) - 12月1日 (日) 10:00 - 17:00

※11月1日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2024年10月26日土曜日

第245回 音を楽しむ会

10月の音を楽しむ会は、今回で第19回となる大黒屋オペラ、G.ヴェルディ作曲「アイーダ 第3幕 、第4幕」の公演でした。




~出演者~
            アイーダ:イ・スンジェさん(ソプラノ)
            ラダメス:城宏憲さん(テノール)
            アモナズロ:青山貴(バリトン)
            アムネリス:丸尾有香(メッゾ・ソプラノ)
            ピアノ:中橋健太郎左衛門さん




〜第1幕、第2幕のあらすじ〜
 エチオピア王女アイーダは、エジプトの捕虜となっていたが、身分を偽ってエジプトの王女アムネリスの奴隷として身の回りの世話をしている。敵国エジプトの若き衛兵隊長ラダメスとアイーダは密かに想いを寄せ合っているが、ラダメスはアイーダがエチオピアの王女であることを知らない。エジプト王女アムネリスもまたラダメスを愛しており、二人の王女は対立する運命となる。
 そして、ラダメスはエチオピア討伐の任務を果たし、エジプトに帰国する。その凱旋の場で、アイーダとエジプト王アモナズロが親子であること知る。自分の立場と愛に思い悩むアイーダとラダメス。二人の関係を利用し捲土重来を期すアモナズロ。それぞれの想いが交錯する。


〜第3幕、第4幕〜

夜のナイル川のほとりで一人、愛と祖国を失ったと沈痛な面持ちで想い馳せるアイーダ。

💡アイーダの繊細な感情をイ・スンジェさんの嫋やかな歌声で表現。


そこにアモナズロが現れ、ラダメスからエジプト軍の秘密を探るよう迫る。祖国と愛との間で苦悩するアイーダ。苦渋の決断で、アイーダはエチオピア王女の立場を取ることに。

💡青山さん演じるアモナズロの威厳のある味わい深い歌声は、物語の世界へと更に引き込んでいきます。


アモナズロが隠れた後、ラダメスが現れる。アイーダは二人で暮らす為に、国を捨て一緒に逃げようと促しますが、ラダメスは躊躇する。逃げることに対し、一度は躊躇したラダメスだったが、ともに逃げないなら「アムネリスのもとへいきなさい」と言われ、逃げる決心をする。

💡オペラでは定番の愛二重奏を、イ・スンジェさん、城さんの表現力豊かな高音で味合うことができました。


アイーダは急に冷静になり、エジプト軍が向かう行路を聞き出す。うっかり口を滑らしてしまったラダメス。そこにアモナズロが突然姿を現し、自分がエジプト軍の秘密をバラしてしまったことを知り愕然とする。

💡3人の想いが交錯する三重唱は、その緊迫感を会場にいる観衆にひしひしと感じさせます。


そこにアムネリスが登場し、「裏切り者!」とラダメスを詰る。しかし、アムネリスに襲いかかるアモナズロをラダメスは制し、アイーダとアモナズロを逃がす。

💡ラダメスのアイーダを守りたいという気持ちが強く感じられる名場面。城さんの華麗な歌声はよりラダメスの感情を引き立てます。


アムネリスはラダメスを死罪にすべきか助けるべきか、思い悩んだ末、ラダメスを呼び出し、アイーダを忘れるよう説得する。しかし、ラダメスは「アイーダの為に死ねるなら本望」と何の迷いもなく断る。裁判の判決は死罪となり、生きながら墓に入れられるという残酷な刑を宣告される。

💡アムネリスのラダメスへの愛と、その気持ちに応えてくれないラダメスへのやるせなさなど、繊細な感情表現を丸尾さんの淑やかな歌声で堪能することができました。


墓の中に一人幽閉されたラダメス。アイーダを思い返しているといるはずのないアイーダが暗闇から姿を現す。アイーダはラダメスと共に死のうと先に忍び込んでおり、ようやく二人の愛は成就する。そこへ喪服姿のアムネリスが現れ、鎮魂の祈りを捧げる。やがてラダメスとアイーダの声も途絶えていき、幕が閉じる。

💡これから死を迎える悲壮感、その中に温かく残る愛、相反する感情が混在する複雑のシーン。城さん、イ・スンジェさんの静謐な歌声が会場に溶け込んでいきます。さらに丸尾さんがカンテラを持って静かに登場し、粛粛とした場の空気感を中橋さんのピアノと共に引き立て、終幕となりました。


大黒屋サロンの特性を存分に活かした舞台構成、登場人物の感情を見事に表現していただいた5人の出演者の方々など、大黒屋オペラでしか味わえない、音の世界観を楽しむことができた音を楽しむ会となりました。






次回の音を楽しむ会は11月26日(火)、ピアノ 阿部海太郎さん、ヴォーカル 武田カオリさんのデュオ演奏です。

どうぞお楽しみに!

2024年10月4日金曜日

2024年10月 磯飛節子展

板室温泉大黒屋では10月4日より大黒屋サロンにて「磯飛節子展」を開催いたします。


磯飛さんは栃木県大田原市出身で、国内外から高く評価されている女性竹工芸作家の一人です。彼女は伝統的な竹工芸の技術を受け継ぎながらも、枠にとらわれない独自のスタイルを確立し、竹という自然素材に新たな魅力を引き出し、独自の感性で作品を生み出しています。磯飛の作品は、細く薄く成形された竹を巧みに操り、伝統的な編み技法に革新を加えたものです。ずらしや重ねの技法を駆使して生み出される独特の奥行きが特徴であり、その技術によって、竹の持つ柔らかさと強さが絶妙に調和した、繊細でありながら力強い作品が生まれます。また、竹を丁寧に染め分けることで、作品に微妙な色彩の変化と空気感を与える技術も、彼女の作品にさらなる深みをもたらしています。このような高度な技術と独創性は、竹工芸の分野で広く認められ、彼女の作品は国内外で多くの注目を集めています。



30代で竹工芸の世界に飛び込み、平成15年には日本伝統工芸展に初入選しました。その後、平成21年には栃木県文化奨励賞、平成22年には日本伝統工芸展で日本工芸会総裁賞を受賞するなど、その技術と表現力が高く評価され、数々の受賞歴を誇っています。彼女の作品には、伝統を尊重しつつも常に新たな挑戦を続ける姿勢が表れており、竹工芸の未来を切り拓く存在として大きな期待が寄せられています。



約6年ぶりとなる本展では、日本伝統工芸展に出品された作品をはじめ、花籃や盛籃、ブローチなど、日常で使用できる美しい作品約40点が展示されます。繊細な手仕事と伝統技法、そして独自の美意識が融合した作品群を通じて、竹工芸の新たな可能性と魅力を感じていただけます。また、磯飛が主宰する竹工芸教室の生徒たちによる作品も一部展示され、彼らが培ってきた技術と創造力も併せてご鑑賞いただけます。竹工芸の多様で豊かな表現を通じて、日本の伝統文化に触れる貴重な機会として、皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

 

*会期終了翌日の10月30日(水)には磯飛節子による花籃製作のワークショップを開催いたします。このワークショップは昨年から大黒屋サロンにて不定期で開催しており、毎回好評を博しています。磯飛が直接指導し、竹を編み上げて花籃を完成させる過程を体験できる貴重な機会です。初心者から経験者まで、どなたでも参加いただけます。

竹工芸の魅力を肌で感じ、自らの手で作品を作り上げる楽しさを味わっていただけたら幸いです。参加をご希望の方は、大黒屋までお早めにご連絡ください。

*花籃製作ワークショップ

日程:10月30日(水)13:00-17:00

会場:大黒屋サロン  参加費:8,800円(材料費込) ←定員に達しました。



会期 : 2024 年10月4日(金) - 10月29日 (火) 10:00 - 17:00

※10月4日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。


2024年9月26日木曜日

第244回 音を楽しむ会

9月の音を楽しむ会はピアノ 菅野潤さんによる演奏会でした。



今回の演目は...

                                     

○ ヨハン・セバスティアン・バッハ 
〜コラール前奏曲「主イエス・キリスト、我御身を呼ぶ」BWV639〜

○ ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 
〜ピアノソナタ第12番ヘ長調 KV332〜
I  アレグロ
II  アダージョ
III  アレグロ・アッサイ

○ ルードヴィヒ・ファン・ベートーヴェン
〜ピアノソナタ第31番変イ長調作品110〜
I  モデラート・カンタービレ・モルト・エスプレッシーヴォ
II アレグロ・モルト
III  アダージョ・マ・ノン・トロッポフーガ、アレグロ・マ・ノン・トロッポ

○ フランツ・リスト
〜二つの伝説〜
I   小鳥たちに説教するアッシジの聖フランチェスコ
II  波の上を歩むパオラの聖フランチェスコ

     ◇ クロード・ドビュッシー
     〜亜麻色の髪の乙女〜



元旦の能登半島沖地震から始まった令和6年。世界中で起こる戦争や自然災害など、一日でも早く平和な世の中になってほしいという祈りを込めたプログラムを組んで頂きました。

フランツ・リス卜作曲「小鳥たちに説教するアッシジの聖フランチェスコ」「波の上を歩むパオラの聖フランチェスコ」では、それぞれのストーリーをピアノの音色で表現。小鳥のさえずりのように、細かく弾き出されるピアノの音色や、波の上を渡るように低音から高音へ流れる音色は、菅野さんの表現力の高さを物語ります。

アンコールではクロード・ドビュッシー作曲「亜麻色の髪の乙女」を演奏。それまでの曲とは異なり、落ち着いた雰囲気の曲調は今回の音を楽しむ会の閉会を名残惜しく感じさせます。


菅野さんの繊細かつ躍動感のある演奏に聞き入った音を楽しむ会となりました。







次回の音を楽しむ会は10月26日(土)、大黒屋オペラによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!



2024年8月30日金曜日

2024年9月 若杉集展

板室温泉大黒屋では8月30日より大黒屋サロンにて「若杉集 展」を開催しております。


若杉さんは、益子の原土を用いて制作される急須でその名を広く知られ、今回の個展は大黒屋での展示としては約8年ぶり、4回目の開催となります。1977年、栃木県益子町にて独立・築窯し、1987年頃から焼締め急須を中心とした制作活動を本格的に開始しました。彼の作品は、益子の陶土に対する深いこだわりと探求心によって生まれたものです。自らの足で原土を探し、職人から土作りの技術を学びながら益子産の粘土を100パーセント使用して、緻密で美しい焼締め急須を作り上げてきました。益子の陶土は、砂が多く肌理が粗いため粘りが少なく、焼締め急須には最も不向きであるとされてきました。しかし、若杉さんはその挑戦を恐れず、益子の土の新たな可能性を切り拓くべく尽力してきました。その功績は高く評価され、第5回益子国際陶芸展では大賞にあたる濱田庄司賞を受賞されています。



代表的な作品である急須は、異なる種類の益子の原土を用いて制作されています。原土の特性はもちろん、土作りの工程によっても作品の肌合いに独特の表情が生まれます。急須には、一つ一つ異なる創意工夫が込められており、益子の粘土が持つ特徴の砂目で鉄分を含む二級品とされるものを巧みに活かしています。原土を自ら手堀りし、水簸(すいひ)を繰り返して土の欠点を克服し、優れた質の粘土を精製しています。その結果、釉薬を一切使用せずに焼き締められた作品は、若杉さんの卓越した技術が際立つ仕上がりとなっています。

現在、益子焼といえども、益子の土を100%使用した陶器は非常に稀少です。若杉さんの作品名に「日陰○○土」、「川又○○土」、「吉沢水簸土」など職人さんや固有名が必ず記載されています。それには粘土を作る職人さんへの敬意の表現だと言います。



今展覧会では、益子の原土のこだわりについても紹介できるよう、長年にわたり若杉さんの作品をコレクションし続けてきた齋藤史則さんのご協力のもと、益子の原土とこれまでの代表作も合わせて展示いたします。急須をはじめ、酒器や茶器など約100点にわたる作品が展示される予定です。この展覧会を通じて、若杉集さんが手掛ける益子の土への深い魅力と、彼の技術の粋を存分にご堪能いただけたら幸いです。


会期 : 2024 年 8 月 30 日 (金) - 9月 30 日 (月) 9:00 - 17:00
※8月30日のみ13時から開館いたします。
※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。