2015年7月13日月曜日

木城圭美インタビュー 第2回「大黒屋と木城圭美」


―大黒屋の公募展に応募したきっかけは何ですか?

大学の最後の年に公募展の作品募集のカラーのチラシがきていました。
大きな「天の点景」の写真が載っていて、そのときのキャッチフレーズが
「ギャラリーとも美術館とも一線を画した、日常の空間で作品を展示してみませんか」
という感じで、それに惹かれました。私の作品は美術館に展示するというより、
お茶を飲みながら見る、そういう絵が理想だったので。

旅館で公募展というのは珍しかったのですが、「天の点景」の写真にはとても説得力が
ありました。これは本物だと思ったので、応募しました。

 『天の点景』菅木志雄 1991 大黒屋に菅木志雄が初めて制作した庭


美術の業界でどうということではなく、「大黒屋」に魅かれたんでしょうね。
宿泊したことはなかったんですが、愛知県から足を運ぶ、そんな冒険心は
あったと思います。

―どうして大黒屋で働くようになったんですか?

入賞の副賞として大黒屋に泊まりに行ったんですが、そのとき社会勉強のために
1回就職することを決めていました。社会を知ってから絵描きになりたいと代表に
お話ししたら、働いてみませんか、とお話しをいただきました。
その時点ですごく大黒屋を気に入っていたので、「行きます!」と。
親は遠いし、美大にいってなぜ旅館?ということで反対しましたけど、押し切って、
「絶対いく!3年だけだから!」と言って決めました。

―大黒屋を気に入った理由は?

旅館なのに、今まで体験したことのなかった気品の高さと、
洗練された美しさみたいなものを感じました。高飛車な気品ではなく。
あと、今でも大黒屋は一種のパワースポットだと思います。
自然もそうだし、あそこに流れている気の流れというのが好き。

大黒屋の存在が気に入って、恋しちゃったわけです。
働いている人も好きになっちゃった。

開催中の「木城圭美展」会場風景

―大黒屋で得た一番大きなことは?

1番大きかったのは、「お客さん」と「ギャラリスト」が作品を売り買いする現場を
みることができたこと。お客さんがどのような作品を求めているのかということを
直接聞けましたし、ギャラリストが「売れる」と思う作品もわかる。
値段と作品のつりあいとか、お客さんはこの「色」は好かないとか。
絵だけではなく、器でもここが気に入らないから買わないとか、ここは気に入って
買うとかがよくわかる。常連さんも多いので、仲良くなって素の意見を聞くことが
できました。

―それらの経験によって作品に変化はありましたか?

根本的には変わっていないんですが・・・
色の使い方はかえました。夜の絵など黒をつかったり、どろどろした絵も好きだった
んですが、気持ち悪いんだったら描かなくてもいいかな、と。
見る人に楽しく明るく、元気が出るようにというのは考えるようになりました。
絵が人の役に立つにはどうしたらいいかと考えたときに、
「負」の印象を与えるよりは明るいほうがいい。

大学にいるときは「この3色しか使わない!」とか決まりを作ってみたりして
自分の固執した考えのみ(笑)で描いている感じでしたけど。
大黒屋は保養の宿なので、どこかが痛いとか、「負」の気持ちでいらっしゃる方も
多くいらっしゃいます。そういった人の役に立てばいいのではないか、と。
それは大黒屋にこなければ考えなかったと思います。


 鮮やかな色彩の大作 『じんぴ』油彩 2015 部分


―描くときに「他者」を意識するようになった?

「人のために描く」、ということを学んだんだと思います。
自分のためだけじゃなくて、自分を含めてほかの人のために書くということ。
私は「玄人向け」というか、「玄人受け」するものは考えていません。
私が目指すのは「ふつうの人」に向けたもの。「ふつうの人」というのは
大黒屋に来るアートをあまり知らなかったり、絵を買ったことがない人や、
子供や、本当に一般の人。
美術館で飾るだけでなく、作品をおうちにおいてもらったり
カフェにおいてもらったり、そういうことが理想になりました。

―他にも、大黒屋で楽しかったことはありますか?

働くこと自体が楽しかったです。
絵描きとして生きていくためのノウハウを知るためにいちど「正社員」として
しっかり働こうと思っていたので。
また、いろいろな作家さんが出入りするのでそれが楽しかったです。
矢部さん(※1)、鈴木さん(※2)とはよくおしゃべりしました。
吉村昌也先生(※3)にもお世話になりました。ご飯に連れて行ってもらったり。

ものづくりで生きている人と直接触れ合えるというのは、
勇気をもらえるし、自信になりました。



―現在の木城さんにとって大黒屋とはどのような場所ですか?

パワースポット。100%私のアンテナを通した感覚ですが。
大黒屋に行くと、エネルギーがもらえる。山があって川があって緑があって、
陰陽の・・・光と影とか、男と女とか、その陰と陽のバランスが非常にいい。

あとは、2番目の実家です(笑)。両親みたいに無条件で助けてくれる場所ですが、
頼ってはいけないと思う。自分ががんばれば助けてくれるところだけど、
自分ががんばらないで他力本願ではいけない、と後を押してくれるところです。

(※1)大黒屋第1回公募展 大賞受賞者 矢部裕輔
(※2)大黒屋第4回公募展 大賞受賞者 鈴木孝幸
(※3)陶芸家 吉村昌也

第3回は「木城圭美の描くもの」をお送りします。