2024年11月26日火曜日

第246回 音を楽しむ会

2024年最後の音を楽しむ会はピアノ 阿部海太郎さん、ヴォーカル 武田カオリさんによる演奏会でした。



今回の演目...


〜BOTANY〜

Le jardin chez M. Elzéard Bouffier

Hiraku

オオバコ

スイフヨウ

ユキモチソウ

ホウライシダ

ナツツバキ

バイカオウレン

スエコザサ

Havanera de la montagne 


〜HOUSE〜

 Mirror

Boots

Blanket

Kaleidoscope

Vase

Globe

Amber


〜アンコール〜

Reflections in a palace lake



今回は阿部さんと武田さんが 10 年以上の歳月をかけて共作したアルバム「HOUSE」をメインに演奏して頂きました。HOUSEの12タイトルに綴られる形あるものと、お二人が紡ぐ形のない音楽が表現するのは、架空の女性の慎ましい生活の痕跡。大黒屋サロンで奏でられるお二人の音色は、どこか暖かく、包容力さえも感じ取ることができました。

HOUSEの前に「BOTANY」をテーマに10曲を演奏。連続テレビ小説「らんまん」の挿入曲にもなっている曲は、それぞれに植物に関する名前が付いており、高知県出身の植物学者である牧野富太郎の人生を表現しています。

「スエコザサ」はモデルになった牧野富太郎の妻である壽衛の名前が付けられた植物。冬に氷点下10度から20度になっても芽を残して生き残る力強さと、葉のしなやかさ、柔らかさ、美しさが壽衛の姿と重なる部分があると植物研究者はいいます。阿部さんの作曲した「スエコザサ」からも清淑で嫋やかな音色を堪能することができました。

これまでのピアノソロから一転、場を引き締めるかのような第一声で始まったアルバム「HOUSE」の演奏。

緊張感もありながら、耳や心に真っ直ぐ入ってくる武田さんの澄み切った歌声は会場にいる聴衆を一気に二人の世界観へと引き込みます。

「Amber」の直訳は琥珀となりますが、石言葉が幸運の象徴、優しさ、愛というお守りにもよく使われる石として知られております。阿部さん、武田さんが表現するAmberは子守唄のように、安らぎ、安心を与えてくれる一曲でした。

アンコールには「Reflections in a palace lake」を演奏。有名な曲なだけあって、曲に集中することができ、生音の奥行き、重さを体感することができました。

クラシカルでありながらじんわりと耳に馴染んでいき、心が温まる阿部さんのピアノの音色と、独特な雰囲気もありながら清澄さも感じられる武田さんの歌声に聞き入った音を楽しむ会となりました。

※今回、より音を楽しめる空間を作るために、音響設備の提供や本番中のオペレーションなど“Little Nap COFFEE ROASTERS”でバリスタも手掛けながら、DJとしても活躍されている濱田大介さんにもご協力頂きました。




次回の音を楽しむ会は2025年1月、三味線 佐藤通弘さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

※2024年12月は休演です。


2024年11月1日金曜日

2024年11月 宮林妃奈子展

板室温泉大黒屋では11月1日より大黒屋サロンにて宮林妃奈子展「うみの背中」を開催いたします。


北海道出身の宮林は幼少の頃から絵画教室に通い絵を描くことが常に生活の一部でした。絵を通じて感性を育み独自の世界観を形成する中で、自然と絵画への情熱を深めていきます。その後、多摩美術大学を卒業し、東京藝術大学大学院に進学。さらにベルリン芸術大学でも学び、2023年にマイスターシューラーを取得しました。現在も東京藝術大学大学院絵画科に所属し、国内外での経験を通じて表現を深化させています。



宮林の作品は、オイルペインティングを中心に、コラージュやさまざまな描画素材を用いて独自の視覚世界を展開しています。彼女は自身の絵画を「レイヤーではなく粒の重なり」として描くアプローチを取り、粒が積み重なる意識で作品に深みとリズムを生み出しています。この粒子は単なる構成要素ではなく、時間と空間を同時に刻むもので、彼女の絵画が固定的なものではなく、常に動的で生きた空間を感じさせる要素となっています。高い抽象性を持ちながらも、純粋な抽象絵画にとどまらず、その根底には確かなリアリズムが流れています。また、常に「風を描く」という意識を持ちながら制作に臨み、自然の微妙な変化や目に見えない力を描き出そうとしています。かつて宮林は「雪が降る様子が、見えない遠くまで層のように広がり、自分の描きたい空間と似ている」と語っており、こうした自然界の現象を多面的に捉え、時間や空間を超えて表現することが創作の核となっています。幼い頃から親しんできた自然や風景を「絵」として描き取る感性と深く結びついているのです。



女の制作では、画面にさまざまな布や和紙を貼り、支持体を重層化させる手法を取り入れることがあり、偶然性や視覚のズレを重要な要素としています。それが作品に独特の緊張感と柔らかさを生み出し、単なるレイヤーとして積み重なるのではなく、異なる時間や動きの中で存在しているように描かれ、画面全体に絶え間ない流動感とリズムをもたらしています。また、支持体にもこだわりを持ち、既成の白いキャンバスではなく、膠や天然素材を使って自ら下地を作成しています。生成りの麻や木製パネル、ジュートなど、素材の質感や肌理にも細心の注意を払っており、支持体自体が作品の一部として強い存在感を放ちます。こうした素材の選定や使用は、表現と素材の関係性を重視し、外部からの影響を受け入れながら新たな視覚体験を作り出す独自のアプローチです。

本展では、主に宮林が2024年に制作した新作約20点を展示いたします。具体的かつ詩的なタイトルと抽象的な表現が絶妙に交差し、画面に流れるリズムが鑑賞者に豊かな感覚体験を提供します。それぞれの作品は、鑑賞者が自由に解釈し、個々の経験を投影できる余白も残されており、時間を超えた深い思索の余地を感じさせます。大黒屋では初めての個展となります。展覧会「うみの背なか」にて、宮林妃奈子が描き出す世界観を晩秋の板室温泉にてご高覧いただけたら幸いです


会期 : 2024 年11月1日(金) - 12月1日 (日) 10:00 - 17:00

※11月1日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。