2025年9月26日金曜日

第253回 音を楽しむ会

今月の音を楽しむ会は初出演のチェロ 徳澤青弦さん、ピアノ 林正樹さんによる演奏会でした。



今回の演目はデュオアルバム『Drift』より...

「Elect」

「Einstein Effect」

「Quarter」

                   「Keichitsu」                   etc...



「世の中にある“そおしたらこおなるよね”という法則みたいなものを曲に込めた」と仰っていた「Einstein Effect」。普段何気なく行っていた習慣が法則として認知され、驚きや感動といった知的興奮へと繋がる様をチェロとピアノで表現。美しいメロディーの中に、心地好い「違和感」も感じられ、次に何が起こるのか心躍らされる1曲でした。

アンコールには映画「すばらしき世界」のエンディング曲で林さん作曲曲の「Under the Open Sky」を。曇り空に一筋の光が差し込むような、心穏やかになる素敵な演奏でした。


曲間のMC中に「相性が良いから良い曲ができるのではなく、合わないからこそ立体的に聞こえ、それもまた良いなと思える」と仰っていた林さん。クラシックとジャズを基盤にジャンルを越えて活動するお二人が紡ぐ音楽は、無意識のうちに耳に入り込み、聞く人の心の琴線に触れるものがあるのではないかと思います。


会場には椅子に立って「何が起こっているのか?」と好奇心を止められない様子のお子様も。初めての聴くのかもしれないチェロとピアノの音色に興味津々で、音に対して純粋に向き合う姿は、考えさせられるものがありました。




次回は10月26日(日) フルート 森川道代さん、ピアノ 安宅薫さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!




2025年9月5日金曜日

2025年9月 細井美裕展

 板室温泉大黒屋では9月5日より大黒屋サロンにて細井美裕展「無いに聞く」を開催いたします。



細井美裕は東京を拠点に、音の力によって空間や時間の知覚を変容させる可能性を探求してきました。多重録音作品のほか、マルチチャンネル音響を用いたサウンドインスタレーションや舞台作品など、音を通じて空間認識や状況を変化させる幅広い表現を展開し、近年では立体作品の制作にも取り組んでいます。国内外で精力的に活動し、ロンドンのバービカン・センターやフランス国立音響研究所(IRCAM)など世界各地で作品を発表してきました。大黒屋では2022年、毎月26日に開催している「音を楽しむ会」において、一日限りのサウンドインスタレーションを発表していただきました。今回の展覧会は、それ以来初めてとなる本格的な個展です。



本展覧会タイトル「無いに聞く」は英題 “Trusted Silence” に由来し、沈黙に耳を澄ますという姿勢を示しています。音が供給されるのをただ待つのではなく、音が鳴る直前の緊張や、鳴っていない状態に潜む気配を信頼し受け入れること。細井はその意識を日常の中で保つための装置としてサウンドオブジェクトを制作してきました。素材には鈴や時計、金属板など、誰もが知る日常的なものを用いています。なかでも鈴は、鳴っていなくても音を想起させる世界共通の存在であり、匿名性を保ったまま音に実体と場所を与えることができる特別な素材です。細井は「音が立ち上がる寸前の静寂を聞きたい。鳴るのは今ではないことを受け入れ、それ以上を求めず、頭の中で補完する。それで満足できる人になりたい」と語ります。その探求は単なるサウンドアートの枠を超えて「ないこと」や「聞こえないこと」の価値を表現し、「時間認識という錯覚」への問いかけをも内包しています。作品はオブジェクトとして時間を伴いながら、鑑賞者に実時間とは異なる体験を促します。本展では、新作《無いに聞く》《時間解放運動》《滝》《渇望》をはじめ、フィリピンでのリサーチをきっかけに制作されたHuman Archive Centerシリーズより《バタアン・テクノロジー・パーク》《大きい山》、さらに細井のサウンドオブジェクト制作の契機となった代表的な作品《Fixation 5》《モモ》など、約20点を展示予定です。



本展は、昨年東京のGallery 38で開催された個展「ステイン」の延長線上に位置づけられます。「ステイン」では都市的な環境音や社会的記録を扱ったサウンドインスタレーションを中心に据えながら、さまざまなサウンドオブジェクトも展開されました。これらの関心をさらにサウンドオブジェクトに特化させ、旅館という滞在の場において、訪れる人々の足音やざわめきと、ふと訪れる静けさが交錯する空間を背景に、「静けさの多様性」を多角的に探る展示構成となります。また、大黒屋別館「北の館」1階では、福島県大熊町で本年発表された《轍》を特別展示いたします。本館サロンでの展示とは異なり、地域や歴史と響き合う社会的背景を持つ作品として、少し離れた場所に展示しております。大黒屋本館から少し足を延ばすことでご覧いただけます。細井美裕が紡ぎ出す静けさと時間の世界を、初秋の板室温泉にてぜひご高覧ください。


会期 : 2025 年9月5日(金) - 9月29日 (月) 10:00 - 17:00

※9月5日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。