2026年6月26日金曜日

第260回 音を楽しむ会

 6月の音を楽しむ会はヴァイオリニスト・音楽家の新村隆慶さんによる演奏会でした。2023年10月以来、3回目のご出演です。

今回はヴァイオリンのみ。その場の空気を感じ取りながら、即興で音を紡いでいきます。

満席の場内には、梅雨特有の湿度と落とされた照明が相まって、心地よい緊張感と少し重みのある空気が漂っていました。

そんな静寂のなか、まるで暗闇に光が差し込むかのように、ヴァイオリンの音色が一音、また一音と鳴り響きます。

最初は調律のようにも聴こえましたが、次第に音が重なり合い、ひとつの美しいフレーズが形成されていきました。こうして音が積み重なる過程を目の当たりにすることで、私たちは音の奥行きや、そこに広がる情景をより深く感じることができるのかもしれません。

始まりがあり、終わりがある曲ではなく、場の空気を感じながら即興的に演奏することで、音が止んだ後も淡い余韻となって、微かに頭の中でヴァイオリンの音色が響いていました。

ルールや様式が厳格な「クラシック」という、少し固いイメージもあるヴァイオリン。しかし今回は、ルーパーを駆使して音をリアルタイムに重ね合わせたり、さらには楽器を膝に据え、琴のように奏でたりと、その概念を覆す試みが満載でした。ヴァイオリンという楽器のイメージが鮮やかに塗り替えられ、その奥深い可能性に誰もが魅了される、まさに「音を楽しむ」という言葉にふさわしい特別なひとときとなりました。




次回は7月26日(日)ソプラノ 横井香奈さん、ピアノ 北村晶子さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみ!



2026年6月4日木曜日

2026年6月 古美術うまのほね・鎌田奈穂 展

 板室温泉大黒屋では、2026年6月4日(木)から6月29日(月)まで、「古美術うまのほね・鎌田奈穂 展」を開催いたします。本展では、古美術うまのほねを主宰する鎌田充浩と、金工作家・鎌田奈穂による展示を中心に、杉田明彦の漆器、小澄正雄のガラス作品をあわせてご紹介いたします。鎌田充浩と鎌田奈穂は兄妹であり、古美術と金工という異なる立場から、長年ものづくりや古いものに向き合ってきました。


うまのほねは、店舗を持たず、展覧会や企画展を中心に活動する古美術店です。オリエント美術を軸に、エジプトから中国北方に至る考古美術や古美術を扱いながら、長年にわたり「手のひらに載る小さなもの」「密度の高いもの」に眼差しを向けてきました。本展に並ぶものの多くもまた、小さなものたちです。ガラス器、壺、器、香炉、装身具、祈りのための道具、時代も地域も異なりながら、それらは本来、人の手の中で使われ、愛でられ、受け継がれてきたものたちです。小さなものの中に凝縮された技術や時間、そして長い年月を経てもなお失われない存在感は、うまのほねが一貫して見つめ続けてきたものでもあります。


 一方、鎌田奈穂からは、銀や銅を用いた作品に加え、西洋のブリキ缶を写した函や、ヘレニズム時代の銀器を写した杯などが出品されます。また、スプーン、フォーク、マドラー、茶漉し、小皿といった日々の道具も並びます。鎌田奈穂の作品にもまた、古いものへの深い関心が流れています。それは単なる再現や引用ではなく、長い時間を生き残ってきた形や佇まいに学びながら、その魅力を現在の暮らしへと受け渡そうとする仕事のようにも見えます。


さらに本展では、うまのほね:鎌田充浩の依頼により、鎌田奈穂(金工)、杉田明彦(漆)、小澄正雄(ガラス)の三名が制作した作品群もあわせてご紹介いたします。今回のお題となったのは、卓上を愉しむための道具でした。銀メッキ洋函や純銀酒盃の組作品、銀メッキ盆、円筒形の漆器、扁平グラスや古物写しのコップ、ガラス徳利など、それぞれの素材や技法を通して生まれた作品には、古いものを見つめ続ける中で育まれた眼差しが静かに息づいています。異なる作り手による仕事でありながら、それらがひとつの卓を囲むように並ぶ姿も、本展の見どころのひとつです。


古代の器物をつくった人々の手。それを見つめ、受け継いできた人々の眼。
そして現代の作り手たちの手。遠く離れた時代や土地のものでありながら、それぞれはどこかで静かにつながっているようにも思えます。
本展では、考古美術と現代工芸、そして日々の道具が並びます。
古いものと新しいもの。使われてきたものと、これから使われるもの。
そのあいだを行き来しながら、ものが宿す時間や、人の手が生み出してきた仕事の豊かさに触れていただけましたら幸いです。どうぞご高覧ください。

会期 : 2026年6月4日(木) - 6月29日(月) 10:00 - 17:00

※6月4日、19日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。