2019年11月30日土曜日

第200回 音を楽しむ会

毎月26日開催している「音を楽しむ会」11月26日の今回で200回目となる記念の会は、音楽家の蓮沼執太さんによるサウンドパフォーマンス。大黒屋サロンで開催されている磯谷博史さんの個展「物音」とのコラボレーション企画を開催しました。

磯谷さんの作品1点1点について解釈を紐解いていくような形式で全26作品一つ一つに行為を重ねていくというパフォーマンス。

開演に先立って、まず磯谷さん(写真右)から「写真に隠された音を蓮沼さんに表現していただく機会が実現できて良かったです。音と音楽の間、ふとした物音が音楽に変わったり、音楽が物音に戻ったり、モノと楽器の間、モノが楽器になったり、また戻ったり、その変化の様子が楽しみです」とお話をいただきました。

蓮沼さん(写真左)はこれから行うパフォーマンスに対して「磯谷さんの作品に関連した行為を重ねたい、イメージやタイトルの言葉から音を抽出して、何か行為を起こせば音が生まれる、音楽という形式ではなく、行為だけで受け取ったとしてもそこには空間があるので必ず音はある、耳を傾けて見ていただきたい」とお話されました。


重なった木と葉と紙の上から水が滴った音、金物を硬いスティックで叩いたり、柔らかいモノで叩いて出た音、ビニールのパッキング容器に紅茶を淹れる音。かすかな物音が会場にひっそりと響きわたります。
事のもつれ
今回展示されている磯谷さんの作品「事のもつれ」シリーズは大黒屋という場との関係性を強く意識した作品で、蓮沼さんは(大黒屋サロンにずっと存在しているモノとして)ピアノを扱ったアプローチで「事のもつれ」を創作独奏で表現。


作品に内包された意味を音に変換して表現、内部奏法も織り交ぜながら、内部にモノを挟み込んだりして、美しい音が旋律に変わる様子なども窺えました。


ワイパーで窓を拭う音。弧を描くようにして床に足を滑らせる音。反射板に光をリフレクションさせて水の様子を映し出す行為。銅の器に紅葉を入れて棒を使って磨り潰す音。
白いタンバリンにテンションいっぱいに貝殻を押し付ける音。イメージのイメージという作品の解釈に対してはカセットテープでピアノの音を再生、タイトル「色の淹れ方」という作品については音を入れるということでレコードプレーヤーで音楽を再生。
蓮沼さんの行為から音が生まれ、そこから磯谷さんの作品が具象化されていくような独特な時間が紡がれていきます。

水に空気を入れて泡を出す音。蜂蜜の作品に対してシンセサイザーの変動した音。

2つのリンゴを手に持って比べてどちらが重いか測る行為、作品のテントウ虫にインスパイアされてドットという意味合いでベルを並べて鳴らす音。
パフォーマンスの後半になるしたがって、それまでの行為で残していたいくつかの音が重なりあっていき、独特の雰囲気となっていきました。
「物音」
最後にスピーカーに繋げたマイクを引き摺る行為と引き摺られた音。蓮沼さんの行為をみんなで追いかけながら音とイメージを再認識していき、最後は玄関からマイクの引きづり音に導かれ、音が重なり合っているサロン会場にゆっくり戻っていきます。


蓮沼さんが重ねた行為と音は、磯谷さんの作品全26点に対して解釈の補助となるようでありながらも、新たな知見をも示唆したもので、パフォーマンスをする意味、型ではなく、大黒屋という場にあてはめて表現された空間でとても貴重な一体感が共有できたと感じました。
まさに“音”を楽しむ会です。記念の200回目にふさわしい素敵な会となりました!ご参加いただいた皆様ありがとうございました。
これからも様々な「音を楽しむ会」をどうぞよろしくお願いいたします。

※磯谷博史展「物音」についての詳細の展覧会ブログはこちらからぜひご覧ください。http://itamuro-daikokuya.blogspot.com/2019/11/11-hirofumi-isoya-with-hidden-noise.html

次回の「音を楽しむ会」は12月26日(木)、生田流箏曲 日高さとみ さんです。
どうぞお楽しみに!

2019年11月12日火曜日

11月 磯谷博史展 「物音」  Hirofumi Isoya 「With Hidden Noises」

11月1日より大黒屋サロンにて磯谷博史さんによる個展「物音」が開催されております。


磯谷さんは身のまわりで出会う事物をきっかけに、私たちが持つ出来事への認識や時間の捉え方について思考しています。大黒屋での個展が2回目となる本展示では新作を含む写真作品を中心に、被写体に付随していたであろう「音」を意識し展示構成を決めていきました。
棚の上にある写真「事のもつれ」は、まさにその棚から額が落下する様子が撮影され、私たちの時間感覚にひとつの違和感を投げかける作品です。過去、現在、未来、人が時間という概念をどういう風に認識しているのか、物事を判断する手順の見直しを示唆し、作品制作の技術や形式に対して考え方を挟み込む意図があります。
「事のもつれ」
セピア色のモノトーン作品は、カラーで撮影された写真から色彩を奪い、かつてその画像の中にあった特徴的な色を額に着彩するシリーズ。一枚の画像を形と色に振り分けることによって、写真が捉える「過去」と、着彩された物としての額の「現在」を関連づけます。

人間が元々持っていたある種の繊細さを取り戻すことに意味があるのではないか、といった思いで日常のディテールを瞬間の出会いとして写真に収め、モノの関係性や状況性、物理的現象を見つけた時の視野でトリミング、その後撮り貯めた写真を整理する中で作品を制作するそうです。

大きなボトルに約50ℓの蜂蜜と集魚灯を入れた作品「花と蜂、透過する履歴」は、人が光源を見つめる機会として、蜂蜜のとろりとした物質性が周囲の空間へ影響しゆっくりとした時間を感じる装置として、花の蜜が蜂や人を通して蜂蜜となる過程を内包した作品となっています。

現代美術とは「人間について」問いかけることだと語る磯谷さんの作品には、現代のコミュニケーションツールとしての役割があります。
展示タイトル「物音」について磯谷さんは「被写体にかつてあった音を想像すると、静止した画像から出来事や物の振る舞いへと意識が広がる。作品は出来事で、プロセスであることが強調される。」と話しています。写真には撮影しきれなかった固有の「音」があり、そこにあった「音」が隠されていると捉えることもできるでしょう。


展覧会は空間のメディア。磯谷さんが鑑賞者の体験を意識し展示設計した大黒屋サロン空間を、是非この機会にご高覧いただければ幸いです。

毎月26日に開催している「音を楽しむ会」。11月26日(火)は、音楽家の蓮沼執太さんによる、本展「物音」に関連する特別パフォーマンスを行います。

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会期:2019111日(金)- 1129日(金)
会場:板室温泉大黒屋サロン  展覧会はご宿泊以外の方もご覧頂けます。
協力:青山|目黒


♫音楽家 蓮沼執太によるパフォーマンス:1126日(火)16:00 -17:30 
※音楽会の参加は宿泊、要予約(電話予約またはHPのみ)



2019年10月29日火曜日

第199回 音を楽しむ会

10月の音を楽しむ会はチェロ黒川正三さんとピアノ黒川文子さんによる演奏会が行われました。


バッハ 無伴奏チェロ組曲第一番よりプレリュード、クラント、メヌエット。黒川正三さんのチェロソロ演奏、秋の宵に向かう板室にゆっくりと静謐な音色が響き渡り、会場のお客様を音楽世界に惹き込んでいくようでした。


黒川文子さんのピアノソロ演奏、ショパン 幻想即興曲。会場を舞踏するように旋律がぱっと煌びやかに鳴り渡り、二人の音色を一緒に聴いたら素晴らしいだろうな、と次から始まる演奏が楽しなる予感がしました。


お二人の演奏によるグリーグ チェロソナタ。ノルウェーの自然を想起させるような3楽章からなる楽曲の中には、森の木々の隙間に吹く風や琥珀色の草原の上を飛んでいるかのような景色など音楽からイメージが感じられる部分と、お二人の演奏する凛とした姿が目に映って鋭い弦と鍵盤の音が心にグッと響く部分とがありました。最終盤では曲のイメージとお二人の姿が同時に目に映るようなドラマティックで美しい音楽世界が展開されました、素晴らしく感動しました。


アンコールは演奏会の余韻を残すように爽やかできりっとした「白鳥」と、じっくりと味わうように濃醇な「ヴォカリーズ」を披露していただきました。
お二人の音楽の魅力を存分に堪能できた素晴らしい音を楽しむ会でした、ご来場いただいた皆様ありがとうございました。




次回の音を楽しむ会は11月26日(火)、蓮沼執太さんです。
どうぞお楽しみに!

2019年10月14日月曜日

10月 小山厚子 展

10月1日より大黒屋サロンにて「小山厚子 展」が開催されております。


小山厚子さんは、岡山県、備前焼の中心地・伊部に工房を構え、父、小山末廣氏と共に作陶されています。生まれ育った備前の土の魅力を引き出すことに向き合い、土と対話するかのような独特の轆轤使いによって歪んで見えるようでバランスの取れた、微笑ましくもあり渋い佇まいは唯一無二の存在感です。近年は、備前の土を活用した色絵、粉引、志野など様々な作品を発表し注目を集めています。


今年で作陶20年目、「作ることが好き」だと語る小山さん。釉薬を使わず焼き方によって変化をつける備前焼は焼きによる生地の”ぬけ”(器を重ねて焼いた時に出る表情)が綺麗かどうかなど素材の土の自然な味わいを引き出すことが大切だと言います。


轆轤制作は「ひきながら良い形、面白い形を見つける」、手の感覚を辿りながら直感的に悩み探究する作業を繰り返す様は問答のようなもので学びの結果として形が表れることは制作の喜びにも繋がっているそうです。


先に手が動いて作られた形に後で名前をつけたという動物シリーズは今年の夏500体制作したそうで、新しい仕事は短時間で行い一瞬の感覚を見ること、”今”に反応することを常に意識していると言います。


本展では、今までの作品を掘り出して時間が経って見るとまた違う見方ができて新しいものを作りたくなる、という小山さんの創作活力に満ちた作品群、緋襷、窯変をはじめ、人気の銀彩や粉引色絵、紅志野など、10年以上前に制作したものや最新作など合わせておよそ130点を展示いたします。備前の文化と小山さんの独創性が融合した器をぜひ会場で手にとってご覧いただければ幸いです。

会期:2019年10月1日(火)− 10月30日(水) 9:00 - 17:00

2019年9月30日月曜日

第198回 音を楽しむ会

9月の音を楽しむ会はソプラノ 西田真以さんとピアノ 中ノ森めぐみさんによる演奏会が行われました。今回で3回目の出演、西田さんがイタリア留学時代によく歌っていたオペラ作曲家ドニゼッティとイタリア歌曲の作曲家トスティの2人に焦点を当てて1800年代のイタリアロマン派音楽の世界を披露していただきました。



ドニゼッティは「ドン・パスクアーレ」や「愛の妙薬」など、喜劇オペラをいくつか書いた一方で当時有名だった小説や歴史的な出来事を題材とした悲劇的なオペラも多く作曲して、あまりの悲しさにヒロインの精神が錯乱する様子を技巧的に表現した狂乱の場は彼の得意とするもののひとつでした。


「ドン・パスクアーレ」より “あの眼差しに騎士は”
陽気なオペラ「ドン・パスクアーレ」の第1幕で若い未亡人のヒロイン ノリーナが、恋愛小説を読みながら、自分もその物語の女性のようにどんな男性の心も操れるのよ、といたずらっぽく歌う独唱。西田さんの歌声が作る世界は迫真的で美しいもので表現力の素晴らしさを感じました。


「アンナ・ボレーナ」より“私の生まれたあのお城....邪悪な夫婦よ”
イギリスのヘンリー8世に着せられ、死刑を待つロンドン塔から最終幕のこの場面が始まり、この独唱は語りのレチタティーヴォ、心情を語ったアリア、怒りの最終節のカヴァレッタと三部構成になっています。雷鳴のように甲高く切り裂くような悲しみを帯びた歌声から物語の場面が頭の中に連想されて、会場の雰囲気も物語の世界に入っていくようでした。


中ノ森さんのピアノソロはレスピーギ作曲「6つの小品」より 第3曲  “ノクターン”。ピアノの旋律が月の弧を描くように、綺羅星が鏤められた夜空の美しさを語っているようで、夜想曲の煌びやかな世界が繰り広げられました、感動しました。


後半は近代イタリア歌曲の創始者と言われる作曲家トスティの歌曲カンツォーネを披露。トスティは歌詞となる詩をとても大切にしていて、イタリア語の語感はもちろん曲のメロディ自体がまるで詩を読み上げるかのようにとても自然に作られています。

「夢」あなたが愛に溢れた眼差しで私を見つめ跪く夢を見た。固い決意も虚しく心は奪われ、手を伸ばしたその時、貴方は夢とともに消えてしまった、というロマンチックな歌。

「薔薇」本に挟まった野ばらの押し花を見つけ遠い昔のあっという間に去ってしまったひと時の恋を懐かしく、愛おしく思い出すそんな甘酸っぱい歌。


「アナタをもう愛さない」別れたばかりの恋人にまだあふれんばかりの愛情とそして憎しみを激しく伝えていて、歌詞の中で繰り返される、まだ君は覚えている?というフレーズにまだ癒えない心の傷と冷めない思いを感じます。ひしひしと伝わってくる感情が鮮明に響いてきました。

「理想の人」もう2度と会えないであろう愛する人との楽しかった日々を思い出し、その人を讃え、もう一度会いたいと強く願うとても温かい曲。

「暁は 光と闇とを分かつ」イタリアの最も有名な詩人の1人である、ダンヌンツィオの詩によるもので夜が明ける瞬間を詩的に描いた一曲です。闇にとどまりたい思いと、永遠の太陽を待ち望んでいた気持ちの両方が見事に描かれていて、演奏会の終曲として壮大に会場に響き渡りました。


アンコールは「落葉松」。お二人の歌声と音色が心にじーんと沁みてくるようで、言葉一つ一つ、メロディの一音一音が心地よく伝わってきた素晴らしい演奏でした、感動しました。
秋の雰囲気に包まれた板室にてお二人の美しい音楽の世界を披露していただいた音を楽しむ会となりました、お越しいただいた皆様ありがとうございました。




次回の音を楽しむ会は10月26日(土)、チェロの黒川正三さんです。
どうぞお楽しみに!

2019年9月6日金曜日

矢野洋輔 展 「寝ている木、踊っている木」

9月1日より大黒屋サロンにて、第13回大黒屋現代アート公募展大賞受賞者の矢野洋輔さんによる個展「寝ている木、踊っている木」が開催されております。


矢野さんは、京都生まれ、2014年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業後、同大学院を2016年に修了。在学中から木の素材に魅了され、木の素地のみで作品を作るようになりました。桂、楠木、欅、栗、檜、銀杏、栃など、様々な木を使用し、年輪、木目、ふし穴や割れなど、木の素材本来の要素を活かしながら、木彫作品を制作しています。


制作行程として木の硬さ、色、木目などの性質に合わせて感覚的に彫り進めていきます。表れる形は普段何気なく見ているもの(動物の肉体や無機物、日常や自然の風景)が微妙に融合されたもので、作品の見え方を限定しているわけではないそうです。パンや植物、人の顔や動物に見えるものなど鑑賞者によって作品から多様な表情を感じ取ることができます。
実際にご覧になっているお客様から予想外の感想をいただくことができ、見る人によってこんなにも違って見えるのかと驚くと同時に大変面白いことだと感じました。


使用する道具は主に彫刻刀やノミで、木を削るとシャープな断面から滑らかでツヤのある表情と心地よい木の香りが出てきます、矢野さん曰く「刃物の跡が木をより自然に際立たせる」そうです。植物や花の要素を抽出した小さいパーツが点在する繊細な作品ではパーツ全てに真鍮の芯が入っており押しピンのようになっていて、作って貼ってを繰り返し行い制作されます。木本来の形に近しい大胆な作品では自然素材と自分のせめぎ合い、木の硬さによる抵抗感や元々のサイズ感を大事に制作しているといいます。
木を彫って量を減らしてできる作品をパンのように膨らんでできた柔らかいものに見せたり、逆に石のような固いものに見せたり、素材の変換についても関心を持って「木も石と同じように積み上げたい」と話す矢野さんからは表現の可能性を追い求める強い意志を感じました。


自然の素材を用いて人がモノを作ることに関心がある、
作品とは人間が恣意的に与えた形で抽象的にしろ具体的にしろ両方とも人工物である、
本展のタイトルの意味として、「寝ている」とは「静、自然に在ったもの」、「踊っている」とは「動、自分が木を加工すること」で、自然と人工のせめぎ合いをテーマにしている矢野さんの思いが込められています。
観ることが作ること、日々の観察から生まれるモノについての情緒や感覚が自ずと作品に出てきたらベスト、だと語る矢野さんの制作スタイルから生まれる今後の作品の発展が楽しみです。


本展示では、新作を中心に旧作も合わせておよそ20点の作品を展示いたします、「言葉にできないが絶対に感じられるもの、景色が語るものがある」と話す矢野さんが心に残るものを書き起こすように真摯に制作した作品群をこの機会にご高覧いただけましたら幸いです。
展示は9月29日(日)まで開催、ぜひ板室温泉大黒屋までお越しくださいませ。


また、今回はリーフレットに、横浜市民ギャラリーあざみ野の主席学芸員、天野太郎氏に寄稿文をいただきましたので、こちらも合わせてご一読頂けますと幸いです。