2019年2月2日土曜日

2月 今井貴広+宮澤有斗展

2月1日より大黒屋サロンにて今井貴広+宮澤有斗展が始まりました。



今井さんは神奈川県出身、東京造形大学造形学部卒、大黒屋で3年勤めた後、現在は農業を営みながら美術作家として活動しています。

宮澤さんは栃木県益子町出身、岩手大学教育学部卒、大黒屋で4年間勤めた後、生まれ育った益子にもどり作陶しています。


今井さんは都市近郊(都市部と地方の間の環境)で生まれ育ち、文明と自然の関係性についてこれまで考えてきたといいます。作品は文明的な材料を用いて自然のコントロールできないことや意識できないものをモノに置き換えて表現しているといいます。



窓などに使われる文明的な素材としてのガラスを用いたこの作品は大黒屋の特徴的な黄土の壁を見せるために作ったとのこと、作品を観て外の庭(自然)へ意識を流す役目があるそうです。文明的なガラスを意図的に割ることで自然のコントロールできない現象を起こして文明の領域にあるガラスを自然の領域へ移したといいます。ガラスの割れ目に貼られているテープをよく見ると真っ直ぐな部分(目的に見合った合理的要素)とビリビリに破れている部分(目的を無くした野生的要素)があります。


宮澤さんは陶芸と染色をされているご両親のもと、自然の素材が身の回りに多くある環境で生まれ育ちました。今回の展示では素の色、素の形、素の自分を表現し、自分を見つめる場にしたいと考え作陶してきたといいます。


手捻りと轆轤成形を使い分けながら白磁や銀彩、鉄釉を使った黒の器、磁器と陶器の間の絶妙なバランス感覚の白器、父宮澤章の技法を受け継いだ刻陶シリーズなど多様な器があります。またこれまでの展覧会などで見せてこなかったオブジェ作品も今回の展示で観ることができます。



大黒屋という場でお互い切磋琢磨してきた二人の展示は心がほっとするような優しい空間になっており、それぞれに自然との向き合い方が表現されています。

両作家によるアーティストトークは2月18日(月) 20:00-21:00。
展示は2月27日(水)まで開催、両作家在廊日は1,17,18,27日です。
板室ならではの冬景色もお楽しみいただけます。ぜひ大黒屋までお運びください。

会期中の休館日:2月5,6,7, 19,20,21日

2019年1月27日日曜日

第190回 音を楽しむ会

1月の音を楽しむ会は国際的に活躍している菅野潤さんによる演奏会が行われました。


1曲目モーツァルト作曲「ピアノソナタヘ長調 KV332」は菅野さんがずっと弾き続けている楽曲だそうです。軽やかなステップと美しいメロディーライン、哀愁を感じる情緒性、そして華やかなリズムなど多様な構成の楽曲で、大黒屋の静かな雪景色に刻まれる旋律を聴くと心が安らぐようでした。


2曲目シューマン作曲「アラベスク」。2つの大きな旋律が時には交差してぶつかり弾け合い、時には融和して溶けていくような躍動的な楽曲でした。


3曲目ショパン作曲「夜想曲嬰ハ短調」「夜想曲変ニ長調」。日が落ち夜の暗闇に溶けていく板室の景色の中、旋律が朧げな気配を纏いつつ徐々にその美しい音が浮き彫りになり最後は綺麗な夜空の星々のように煌めくようでした。音を聴いて幻想的な世界がはっきりと見えたことに感動しました。



4曲目ラヴェル「なき王女のためのパヴァーヌ」は菅野さんの思いが織り込まれていくように音が紡がれていく淡く温かい楽曲でした。庭をふと見ると暗闇に沈んでいく青白い景色が美しく映え、音から強い精神性を感じました。


5曲目ドビュッシー作曲「版画」は音が質感と立体感を持ち物質的に存在しているかのような楽曲でした。一音一音が雫のように一滴一滴精神に沁み入るようで、心をグッと鷲掴みにする世界観が表現されていました。

ピアノの音だけで圧倒的な世界観を表現した菅野さん、板室の雪景色を見ながら美しく温かい旋律を堪能できた音を楽しむ会となりました。



次回の音を楽しむ会は2月26日(火)、テノールの猪村浩之さんです。
どうぞお楽しみに!

2018年12月28日金曜日

第189回 音を楽しむ会

12月の音を楽しむ会はピアノ中橋健太郎左衛門さん、ソプラノ今野絵理香さん、バリトン勝村大城さん、テノール佐々木洋平さんによる大黒屋オペラ第9回公演が行われました。大黒屋オペラとは中橋さんが2015年の音を楽しむ会出演の際に結成したもので、板室と東京での上演合わせて今回で9回目となります。



演目はエーリッヒ ヴォルフガング コルンゴルト作曲「死の都」です。「死の都」とは直接的にはベルギーの古都ブルージュの事で、主人公パウルの亡き妻への想い、第一次世界大戦後のヨーロッパに満ちていた古き時代への懐古の感情なども意味しています。



最愛の妻マリーを亡くして落ち込んでいたパウルだがある日彼女と瓜二つの劇場ダンサーマリエッタと出会い自宅に招く。亡き妻に思いを馳せ一人自分の世界に入るパウルと訝しがるマリエッタ。お互いの想いはすれ違うが音楽的には華やかで美しい曲でした。


主人公パウル役佐々木洋平さん。大黒屋オペラのキーパーソンである彼の爽やかで真っすぐな歌声は聴いていてとても心地よいものでした。


マリー(パウルの亡き妻、貞節で美しいパウルの理想の女性)とマリエッタ(劇場のダンサーでマリーに外見は瓜二つで魅力的だが内面は正反対、奔放で気まぐれ)役の今野絵理香さん。二人の女性を歌い分け声色で人間性が見えてくる表現力は素晴らしいなと感じました。

マリエッタが出ていくとパウルは精神に変調をきたし亡き妻マリーの声が響く。夢うつつの中のパウルは親しい友人達にも見放されマリエッタに翻弄されている。マリエッタの同僚のピエロが美しいアリアに彼女を捧げる。



フランク(パウルの友人)とフリッツ(パウルの夢に出てくるピエロ)役の勝村大城さん。響き渡る深い歌声で会場のムードをより一層際立たせていました。

独りマリエッタは亡き妻の想い出の詰まったパウル宅へ。マリーの遺影に語りかける。子供達の聖歌隊の歌声(は佐々木さんが口笛で表現していました、多様な表現力に感動しました)も街から聞こえる。そこへパウルが戻って来るが亡き妻の想い出には触れられたくない。

パウルをからかい、誘惑し亡き妻を愚弄するマリエッタ。言い争いの中で彼は次第に錯乱する。パウルにとって最も大切な、妻の遺髪をもて遊び、嘲るように踊るマリエッタ。遂に激昂したパウルはマリエッタの首を絞めて殺してしまう。


大黒屋オペラ産みの親、ピアノ中橋健太郎左衛門さん。ノンストップの劇中で歌い手たちと一緒に洗練された旋律を奏でていました。


パウルがはっと我に帰ると時間もさほど経っていない。幻の中で殺したはずのマリエッタは意味ありげに微笑んでパウル宅を後に。そこへ友人のフリッツが訪ねて来てマリエッタとすれ違う。フリッツはマリエッタがマリーとそっくりで驚く。パウルは亡き妻への愛を昇華し未来に向けて生きていこうと決心し想い出の詰まった古都ブルージュを後にする。


劇中の展開に合わせて照明を効果的に使い演奏者4名の白熱した音楽によってドラマチックなオペラの世界が表現された素晴らしい音を楽しむ会となりました。もっと演奏を観て聴いて楽しみたいと思わせる大黒屋オペラこれからの発展に期待したいと感じました。



次回の音を楽しむ会は年が明けて2019年1月26日(土)、ピアノの菅野潤さんです。
どうぞお楽しみに!皆様よいお年を!

2018年11月26日月曜日

第188回 音を楽しむ会

11月の音を楽しむ会はソプラノの西田真以さんとバスのパオロアンドレア・ディピエトロさん、ピアノの中ノ森めぐみさんによる演奏会が開かれました。西田さんは昨年11月にも出演され今年はご主人のパオロさんが初出演です。今回はオペラとカンツォーネを披露していただきました。


1曲目カタラーニ作曲「ワリー」より”さようなら、ふるさとの家よ”。西田さんの美しい歌声が会場に響き渡り開幕から一気にお客様をオペラの世界へ誘うような演奏でした。

2曲目モーツァルト作曲「フィガロの結婚」より”もう飛ぶまいぞ、この蝶々”。フィガロの独唱をパオロさんが熱唱し、リズミカルな低音と軽やかな表情が特徴的でした。


3曲目ヴェルディ作曲「運命の力」より”神よ、平和を与えたまえ”。序盤の清らかなメロディーは静謐を讃えるようで、中盤からはピアノとの協奏で鮮烈な展開が繰り広げられました。

4曲目モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」より”手を取り合って”。西田さんとパオロさんの掛け合いが晴れやかで心温まる印象でした。


5曲目小林秀雄作曲「落葉松」。パオロさんの力強さと優しさのある声で歌い上げられた落葉松は今まで聴いたことのないような新感覚の秋を表現したように感じました。

6曲目マスカーニ作曲「アヴェ・マリア」は西田さんが祈りを込めるように歌い上げ、7曲目ロータ作曲「もっと静かに囁いて」は中ノ森さんの哀愁ある旋律と共にパオロさんの歌声が響き渡りました。


8曲目ララ作曲「グラナダ」は音で壮大な世界を表現した1曲だと感じました。華やかなメロディーが足取り軽くステップを踏むように会場を盛り上げていきました。

9曲目モドゥーニョ作曲「ヴォラーレ」はイタリアの美しい”青い空”を表現した聴きなじみのある有名な1曲。パオロさんの歌声がゆっくりと会場に広がり、揺り籠で揺れるような安らぎを感じました。お客様もリズムをとって横に揺れながら聴き入っていました。


10曲目ディ・カプア作曲「オー・ソレ・ミオ」は西田さんの高く鮮やかな歌声とパオロさんの低く艶のある歌声が融合した素晴らしい1曲でした。ゆっくりと歩幅を合わせて進んでいくように演奏する3人の絆を強く感じ、演奏後は会場から「BRAVO!」と歓声が上がりました。


アンコールはレハール作曲オペレッタ「メリーウィドウ」より”唇は黙して”。西田さんとパオロさんがダンスをして朗らかな雰囲気で歌い上げました。
3人の個性が表現された迫真のステージを披露していただきました。晴れやかな曲目が印象的で心温まる素晴らしい音を楽しむ会となりました。



次回の音を楽しむ会は12月26日(水)、中橋健太郎左衛門さんによるオペラです。
どうぞお楽しみに!

2018年11月3日土曜日

11月 新里 明士展

11月1日より大黒屋サロンにて新里 明士展が始まりました。
「光器」
新里さんは岐阜県土岐市を拠点に制作を行っており、国内外で展覧会を開催し、最も注目されている作家の一人です。本展では代表作でもある蛍手(ほたるで)の技法を使った「光器」の作品と、青と緑の壁掛けの作品など34点展示しています。



白いうつわ「光器」は透光性の高い白い磁器土を使って無数の穴を穿ち釉薬をかけて制作されています。精緻で技巧的な仕事によって生まれる光の表情は豊かで美しく器自体がほんのりと光っているようです。
青と緑の作品は白い土にコバルトなど金属を混ぜた土を使って制作されており彫刻的な表現になっています。イタリアで滞在制作中に強い色を使いたいと思うようになり日本に戻り作り始めたそうで、新里さんが好きな色でもあるそうです。

緑の形
新里さんは普段は陶芸のギャラリースペースで器を展示することが多いのですが、今回の大黒屋での展示では、新たな展開として彫刻的な作品も含め空間をより意識した展示をしたいという気持ちが強くあり、うつわという用途のあるものづくりや、技巧的な技術だけに頼らない作品としての表現を自身の制作の中に取り入れていきたいと考えておりました。


表現的な焼き物を目指して初めて制作されたという壁掛けの作品がサロン正面にあります。自動筆記のように身体や手の成るがままに作っていくそうで、左から順番に制作過程が追えるように展示されています。偶然性が伴うフォルムは土の質感、色、制作にかかった時間も含め、光る器の対比として見てもとてもおもしろい構成です。

また信楽滞在中に制作した作品「シガラキ」。
大黒屋の空間全体を大胆に使い庭にも置かれた風景はとても新鮮です。
シガラキ
丁寧で美しく理性的な作品や身体全身を使ったアクティブで感覚的な作品など幅広い内容のある本展、新里さん自身曰く「チャレンジした仕事による展示」は見所満載となっています。


作家によるアーティストトークは11月19日(月) 20:00-21:00。
展示は11月29日(木)まで開催しております。紅葉が美しい日が続いております。
ぜひ大黒屋までお運びください。






2018年10月27日土曜日

第187回 音を楽しむ会

10月の音を楽しむ会は森田真生さんによる数学の演奏会が開かれました。昨年に引き続き2回目のご出演です。数学の言葉による表現を白板に書きながらお話をしていただきました。


大きな綱は短い糸が寄り集まってできているように数学も古代ギリシャ、中世、近代、中国、南米など様々な時代と場所のものが寄り集まってできており、日本の数学は明治時代に入ってきたヨーロッパの数学が元になっているそうです。

バスケットボールに夢中になっていた中・高時代に強くなるために武術家の方に江戸時代の体の使い方を教えてもらい、そこから身体を使って変容していく大きな世界とひとつになっていくことを学んだそうです。


帝釈天の網の話では、網の結節点にある宝珠は相互に照らし合って輝き、世界が円環になって論理的に説明できない全体の様相を表しているといいます。そして網を切ると樹の構造になって原因と結果が分かるようになり論理的説明と時間の概念ができるそうです。


「reason」とは「理由を説明できることが理性を持った証」の意で、語源の「ratio」は「比」という意味です。比べること、例えば単位(時間や距離)を決めて相対的に物事を決めること、これは網をちぎって物事を筋道立てて考えるということ、すなわち世界の一部を理解するということ。対して大きな網とは論理的に分からないが身体を使ってこの世界と一つになり感じるものだといいます。
一部と全体のお話が森田さんが一貫して伝えたいテーマであることを実感しました。一部を知って全体を感じること、全体を感じながら一部を知ること、理性と感性という人間が持っている両方が大事なんだということを伝えたいのだなと思いました。


数学者岡潔についてのお話では、目に見えない、耳で聞こえないものでも関心を集め続けると姿形を帯びてくる、心の内側と外側を感じることができ、また「情緒」という言葉の「情」とは「大きな自他を越えて通い合う心(全体)」で「緒」とは「情の糸口、具体的な個々人の心(一部)」だといいます。


人工言語、人工知能、人工生命についての話では、人工言語がコンピュータの基となる考え方で、人工知能は規則に従って働くもの、そして最新の人工生命とは流れに寄り添うもの。人工生命はmessyでnoisyな(=散らかっていて騒々しい)環境に対応できるものだそうで、大きな世界の変容に寄り添う考え方が海外でも増えてきているといいます。


「無常」という言葉がありますが、人生の中で自分の予想はなかなか当たらないもの。
「現実は予測不可能な出来事がたくさんあってmessyでnoisyなもの、遊び心を持った距離感で変わりゆく社会に接することで人間は豊かで幸せに生きることができるのではないでしょうか」と最後にお話をしていただきました。
全体と一部、社会と組織、世界と自分、大きなものの感じ方と部分的な考え方双方を大切にすること、人生を楽しく考えながら生きる方法を教えてもらったように感じた数学の演奏会でした。


次回の音を楽しむ会は11月26日(月)、ソプラノの西田真以さんです。
どうぞお楽しみに!

2018年10月21日日曜日

八木史記 アートを語る会

現在サロン展示中の八木史記さんによるアートを語る会が行われました。これまでの生い立ちと作品制作の関わりについてお話していただきました。


岩手県盛岡市出身、宮城県仙台市在住の八木さんは小さい頃から漫画など絵を描くことが好きだったそうです。宮城教育大学では彫刻研究室に入り石膏型取りでの人体塑像を制作していました。大学院まで制作を続けましたが石膏での制作に限界を感じ、様々な素材を使って試す中でセメント、コンクリートが自分に合うと思ったそうです。


少年時代、盛岡の住宅地に住んでいた八木さん。日が暮れた暗闇の中、学校の近くにある東北新幹線の橋脚が連なる風景を見て自分がとても小さい存在だと不安感、絶望感を感じたそうです。冷たく無機質で巨大なコンクリートの塊に圧倒された原体験がセメントを素材にした制作の基になっているといいます。



最初の頃は動物や花を造形しており器好きということで徐々に器の形も制作していきました。次に近年多発している自然災害をテーマに自然や大地の形である樹木を作り始めました。制作の構造として自然と自分が対比される関係性があるといいます。最新の制作として蔦が建築物を覆っている様子を形に変換したものがあります。人間が作ったものを自然が侵食していくようなイメージの壁掛けの作品は本展のために新しく生み出したスタイルです。



人間が作ったコンクリート、無機質で冷たくぶっきらぼうで無生物、意思を持たない存在に得体の知れない不気味感を以前は感じていましたが、年を経るごとにその印象や考え方が変わっていき、あえてその冷たい素材を使って安らぐ雰囲気を作りたいと思うようになったといいます。不気味な感覚を安らぎに変えたい。「感じ方は生まれた年代や育つ環境によって変わるもので自分のリアルな感覚で制作をしていきたい」とお話しました。人工と自然、相対する要素の間で感覚を磨いてきた八木さん独自の感性による考えを聞くことができたアートを語る会でした。


「アートは自分にとってなくてはならないもの」と語る八木さん、最後に○△□に言葉を入れて表現していただきました。
○=間
△=バランス
□=緊張
緊張感のあるモノの構成で作品を制作し、空気感、雰囲気のある場でを生み出し、全体のバランスを大事にしていきたいです」



八木史記さんの展示は10月30日(火)まで行われます。どうぞお運びくださいませ。