2016年10月15日土曜日

青木悠太朗インタビュー 第1回 作品ができあがるまで

現在大黒屋サロンで個展を開催している大黒屋第10回現代アート公募展
大賞受賞者、青木悠太朗さんのインタビューを3回にわたって掲載いたします。

青木さんは2015年3月に大賞を受賞されたのち2回の個展を経験していらっしゃいますが
まとまったお話をお聞きするのは初めてです。
多くの方が疑問に思う「どうやって作っているの?」というお話から
青木さんの空間との出会いまで細かくお話をお聞きしました。



―とても多い質問だと思いますが、どのような手順で制作されるのか教えてください


模型の段階の「Abstract frame 10-3

最初に模型を作ります。紙を細く切って、ホチキスで止めて、その輪っかを作って
いっぱい置いておく。それらをどんどんつなげていって、最終的に一個のつながった
輪っかになっていくという手順でやっています。僕はあまりスケッチとかを描かない
ので、基本的に作品の作りはじめは机に座って、おもむろに紙をいじりだすという
感じです。
僕の中では一つの空間を、一つの枠、輪っかという考え方でつくっているところが
あります。その枠は、最初は紙の模型なので折って角をつけたりとか、広げたりとか
曲げてみたりすることができる。その空間同士がつながって、つながって、一個の枠が
できていく。
その枠を自分の中で、納得できるところでとめて。こういう空間みたいなものを
みせたいなあという感じの模型でできたら、それを作品の状態に進めていきます。
一貫しているのはその丸い枠だったり四角い枠だったりが組み合わさって作られて
いるという作品のシリーズであるということです。



―模型ができたあと、どのように完成させるのでしょう

制作途中の「Abstract frame 10-3」、面を出していく作業

 作った模型をもとに、拡大した大きさをはかって、木に墨で線を書きます。木は丸い
ので、まず面を出さないと作れないんです。切っていく距離とかもわからないので、
まずある程度チェーンソーで面を出して角材みたいにして、そこから彫っていきます。
 細かい穴の部分などはチェーンソーと、ドリルとかを使っています。細かい穴のところを
抜くときは角と線のところにドリルで穴をあけて、のこぎりとかチェーンソーとかで
その穴と穴との間を切って抜いていく。細くなったらのみとかを使って手で彫ったり
する場合もあります。自分の求める細さまでは、そうやって削っていきますね。



制作中のアトリエ



―模型を作っていて、自分が納得できる枠-かたちができる瞬間。すなわち見せたい空間、というのはどのようなものでしょう

 うーん、どうでしょう。やはり、動きがあるとか、空間が見えるとか、そういうところ
なのだろうと思います。簡単に言うと、前に出ているように見えるとか。奥まって見える
とか。そういうことが自分の中でパシッと入ったときに、これはいけるかな、と感じ
ます。 
 例えば、今回一番早くかたちが決まった作品は「Abstract frame 2-1」です。この作品は
模型を作らないで、スケッチを描いているだけで決まりました。いつも模型から入って
しまうので、ドローイングみたいなものはないんですが。ちょうどたまたま描いたとき
に、こういうのいいな、と思って。それはもうそのままでいきなり木から掘り出して
作品にしていきました。


Abstract frame 2-1


Abstract frame 2-1」のようになるべくシンプルにしたいなという思いはずっとあります。
枠の数を少なくしたいんです。だんだん増えてくると、空間みたいなものが見えてこない
のかな、と。枠が多くなりすぎるとごちゃごちゃしてしまう。シンプルなほうが、伝わり
やすいのかなと思っています。
 ですのでその形が何かを意味しているとか動物に見えるとかそういうことではなく、
輪っかをつなげたり曲げたり、置いてみたりして「自分の気に入った形」だったらよい
ということなんです。ただ、僕が具体的に作品が何をモチーフにしているというのでは
ないんですがそれが魚に見えるとかそういった側面は見る方にゆだねるようになって
いると思っています。何らかの形でこの「もの」と、「ものの周りの空間」みたいなもの
が見えてくるのであればいいということでしょうか。



―受賞作品などは単純に輪がつながるだけでなく尖っているところもありますね。流線型のような複雑な形も現れてきたようですが


10回大黒屋現代アート公募展 大賞受賞作品「Abstract frame 12-4

 「Abstract frame 12-4」は、偶然できた形なんです。模型をいっぱい作って置いておく
んですが、この作品の模型は壁にかけていました。掛けておくと、紙なので時間が
たつと下がってきて伸びた状態になる。それを見た時に面白いなと思って。さらに作品
にするときには横にしていたんですが、そうするとちょっと上にティッシュを引っ張った
 感じの動きみたいなところが良くなってきた。なので受賞展の時は横にしていましたが
今回は模型を掛けていた時のように吊っています。


Abstract frame 6-1

 「Abstract frame 6-1」のように流線型をしているものは、輪っかと輪っかの先をまとめて
くっつけると、その位置によって紙の引っ張られる具合が違ってきて形が微妙に変わり、
できる形です。1か所を留めるのと2か所を留めるのだと、引っ張られる方向が微妙に
変わったりする。つまり、力で引っ張ったことで生まれた形とか空間ができたときに、
こっちのほうがいいかな?と思って最近はやってやってみています。有機的な形と
いうのでしょうか。



―モチーフがあるときもたまにある?

Abstract frame 3-4

 そうですね、たまにあります。散歩したり、ふらふら歩いていて気になったものとか、
ヒントみたいな感じでモチーフになったりしているものもあります、今回の出ているもの
でいうと「Abstract frame 3-4」は壁に着けてある作品ですが、これはお風呂場で見つけ
ました。タオルをかける棒があるじゃないですか、そこに布がかかっていたんです。
それの形が目に入って。そんな感じでものすごく唐突にいいな、と思ってしまうんですね。



―模型から木彫へ作っていく段階で、模型から形がまったく変わったりすることはあるのでしょうか?

 

 実は、模型の段階で、もう考えるということは終わっているんです。木を切って彫っていく
ときはけっこうもう作業みたいな感じが強いですね。多少の変更はあったりするときも
ありますが、基本はエスキース(模型)をもとにがっちりやる感じなので。



―紙で模型をつくってそれをもとに作品を作るという事ですが、紙のままでなく木で完成させるのはなぜでしょう?また、鉄や石ではなく木を選んだ理由はありますか?

 まず、紙のままだと残すことができませんよね。
 また、塊から彫っているのは、枠を組み合わせるような制作―付け足す作業でやって
いくとうまく立体感がある感じにつくることができないからなんです。模型があったと
しても、掘り出していく中でラインみたいなものを出していく感覚なので、実際に掘ら
ないとできない。たぶんフレームみたいな木をつなげていってもできるとは思うんです
が、微妙なラインとかがあったり、自分のやり方としてたぶんそれは合わない。体の感覚
みたいなところだと思いますが、実際に掘り出していったほうが自分に合っている、
表現しやすいのかな、と。



 昔は石彫もやっていたんですが、その制作するスピードがすごく時間がかかると感じ
たんです。実は、制作するうえで「模型のスピード」がいる。スピードというか、鮮度が
大事という言い方をするんですが。
 模型をずっと置いておくとぺったんこになってしまう。鮮度がなくなってしまう。
だからその鮮度があるうちに形にしておかないとだめになってしまうんです。せっかく
自分が気に入っていたものがあって、やろうと思っていても、模型がだめになってしま
って1回作りなおしたとしても納得できなかったりする。そのあたりを僕は鮮度と
言っています。木を彫るときの速度とかをすごく急がなきゃみたいなことは思っていない
んですが、なるべくその最初の考えみたいなものを大事にする、フレッシュな考えだった
ものを残しておくというか。だんだんやっぱりごちゃごちゃしてきてしまうので。



―作品において、最も大事にしていることはなんですか?

 形だけではなく、周りの空間というものを形と同じくらい感じてもらえるような作品に
したい。そういうことを意識させることができるような作品を考えています。
 例えばの話でいうと、お茶碗があった場合その中の空いている空間や周りの空間が
ある。僕はものだけではなく、置かれたことによって現れる空間にも目が行くような
作品作りをしたかったんです。
 見えないようで見えてくるような感じ。ちょっと抽象的な言い方になるんですが、
見えているんだけど見えていないものがあらわれてくるようなことをしたいなと
思っています。



次回は明日、第2回を掲載いたします。
どうぞお楽しみに。