2019年8月7日水曜日

8月 渡辺 遼 & 須田 貴世子 展

8月1日より大黒屋サロンでは、長野県飯島町にて制作する金属造形作家による二人展
「渡辺 遼 & 須田 貴世子 展」が開催されております。


渡辺 遼さんは武蔵野美術大学、空間演出デザイン学科卒業。鉄や銅、真鍮などの金属を使い自然物のような気配をまとったオブジェを主に制作しています。厚さ1mmの鉄板を切り出し、木臼と木槌で叩いて形作り、溶接により立体にし仕上げた作品は、手にもつと石ころのような質感。中には3つの石粒が入っており、鉄と小石による優しい音が出ます。


どこにでもある石などの自然物(身近な造形)を具体化した空洞のオブジェ。作家になる前は工員だったという渡辺さんは同じような気配の工業製品を通してモノの価値観について考えるようになったといいます。石の造形を用いた理由として「価値がなかったものをモチーフに作ったらどうなるか」という価値観の見直し、そして新しい価値の発見を試みようとしたそうです。


毎年制作するという代表的な黒のオブジェ、手に取ってみると石粒が中をコロコロ転がって爽やかな音色が鳴り、持つ箇所によって共鳴具合が異なり音の響き方も変わります。人がモノに対してアピールを変えることでどの様にでも応えてくれるこの作品は、手に取った人が繊細な感覚で質感や音などの機微を楽しめるようになっています。

真鍮で制作した作品は大黒屋前を流れる那珂川付近で拾った石を使用しているそうです。


須田 貴世子さんは東京芸術大学大学院鋳金専攻卒業。金属鋳造による、ブロンズ作品、オブジェや日用品を制作しています。作品は自身の生活の身近にある、植物や山、空の風景などをモチーフにしたオブジェや、花器や敷板などの日用品、ペンダント、帯留など身に付けられるものなどがあります。鋳造は金属を溶かし、鋳型に流し込んで成型するとても手間のかかる手法ですが、経年変化として徐々に変わっていく色合いを楽しむことができます。

銅・亜鉛・錫の合金でできているブロンズを用いる理由として須田さんは、形の再現性が高く作りたい形になってくれる、流しやすく流れやすい、緑青は色の幅が出しやすいなど様々な利点を挙げてくださいました。蝋を原型とした石膏型の鋳物でつくられる作品は「日常生活の中から生まれた疑問」を掘り下げて形にしたものだそうです。


真鍮・針金・麻紐でできた線材を用いた作品は大黒屋の場に合うようにと軽やかなイメージで制作されたそうで、ベルの作品は手に取ると涼しげな心鎮まる癒しの音色が響きます。シャンパンのコルクを型取りした作品では中央アルプス、南アルプスなどの山をモチーフに制作、夜更けの山に神秘的な月が浮いている情景を物語として楽しんでほしいとお話されていました。

現在の長野の住まいは周囲に自然が溶け込んでいる環境で、消失原型の作品は自宅の敷地にある畑から実際に採った植物(柿のへた、空豆、トマト、夏椿、胡桃など)を用いているそうです。作品になるものは「形として残しておきたいもの」と語る須田さんならではの視点で捉えた日常の小さな発見が作品を味わい深く魅力的に引き立てています。


渡辺さんと須田さん共に作品素材と自らのバックボーンをリンクさせて、日常に隠れた価値や発見を大事にして制作されていることがとても印象的でした。ぜひお二人の作品を会場で手に取ってご覧になり楽しんでいただければ幸いです。


本展示ではお二人の作品およそ150点がご覧いただけます。
展示は8月30日(金)まで開催、この機会にぜひご高覧ください。

2019年7月28日日曜日

第196回 音を楽しむ会

7月の音を楽しむ会はピアニスト伊東晶子さんによる演奏会が行われました。フランスでピアノを研鑽された伊東さんは今回で音を楽しむ会出演5回目、ナレーションでの出演は朗読ミュージカルでおなじみの森田克子さんでした。


曲の内容を詩にまとめたナレーションの後、演奏が始まる《ピアノと朗読によるドビュッシーの世界》。伊東さんの原点となるフランス音楽の魅力を凝縮したこの曲群は演奏会の大切な導入部分で、楽しく聴いてもらうことを意識して構成された演目からは伊東さんの温かみある人柄を感じました。

「水の反映」
”めくるめく光の中で音が躍る。水面を舞台に軽やかに、しなやかに、時には弾け、時には眠りを誘いつつ、華麗に舞う音の群れ。その煌めきは水に跳ね返りつつ、やがて静寂の中に溶けてゆく…”


「雨の庭」
”ドビュッシーの時代に活躍した印象派の画家、マネやモネの描いた絵画からは、光や影の揺らぎとともに、音楽が聴こえてくると言う人がいます。ではドビュッシーの音楽からは、どんな風景がみえてくるのでしょう。ピアノ曲集「版画」より「雨の庭」…。子供たちが楽しく遊んでいる庭に、アラ、大変!雨が…!”

「月の光」
”静けさが世界を包む。夜の帳の中で宝石のように煌めくのは、月から降り注ぐ、光の音符! 舞い降りる、光の天使!”


ノスタルジックなメロディーが六花の形を象りながら涼しげに会場に響き渡ったババジャニアン作曲「エレジー ”ハチャトゥリアンの思い出”」。
超絶技巧の速さでリズミカルに奏でられたモンサルバーチェ作曲「イヴェットのためのソナタ 第3楽章」にはきらきら星のテーマが編み込まれており音楽が層を成して心地よく聴き入ることができました。
「いろんな音楽に挑戦したい!」という伊東さんのアグレッシブで新しい一面を感じられたこの2曲は演奏会の中でも特に象徴的でした。



伊東さんが曲の物語を読んでから演奏したショパン「バラード第1番」は一音一音が演奏会に余韻を残していくように広がっていき、アンコールのショパン「ノクターン 遺作」では有名なメロディーを織り交ぜた静謐な音楽が伝わってきました。

伊東さんの想いがぎゅっと込められた演奏会は気づけばあっという間で、まだまだ聴いていたいと思わせる素晴らしい音を楽しむ会となりました。



次回の音を楽しむ会は8月26日(月)、笛 福原寛さんです。
どうぞお楽しみに!

2019年7月18日木曜日

7月 古橋まどか 展 「ナンセンス、無体物、スト的状況」Madoka Furuhashi 「Nonsense, Intagible, Striking situations」

7月1日より大黒屋サロンにて、古橋まどか 展「ナンセンス、無体物、スト的状況」が開催されております。
古橋さんはロンドンのAAスクールオブアーキテクチャー インターメディエートスクール、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート美術修士課程を修了後、現在は同大学院芸術学科博士課程に在籍(休学中)、極めて日常に近い物に関するリサーチを基軸としたサイトスペシフィックな制作活動を展開しています。

2015年にイタリア北部、ブレーシャの街外れにある広大な採石場を訪れたことを契機に、原料が製品となる製造の過程とその過程を生み出す労働の力、目に見えないエネルギーに対しての興味、ものが成り立つ過程自体を空間に表出する試みを通して深化させてきました。
大黒屋での初個展となる本展では、イギリスのロンドン、イタリアのブレーシャ、インドネシアのジョグジャカルタ、メキシコのオアハカ、日本の瀬戸など、世界各地で制作された作品を展示しています。

素材に真鍮を用いた労働についての初期作品「Ⅱ quarto stato」は工場から原料でも製品でもないものを取り出すことによって無形のエネルギー(身体存在)を表現、「素材から人を感じられる」ようにと制作されました。

無形のエネルギーの源は身体。石灰を採石場で働く人が実際に着ている作業着に入れて、石膏にして取り出したモノと、岩の一部を組み合わせることで仕事をする人の定義を見出そうとした作品「Raw material, goods and human body」はインドネシアのジョグジャカルタの採石場で岩を採掘する人と石のタイルを製造する人達の仕事を一旦止めてもらった状況下で制作されました。科学的に分析した時、成分に汗が入っていることが必要だと考える古橋さん、「見た目と中身と内容が合うことが大事」と話しておられました。

瀬戸市の鉱山にて、陶土になる前の原土に雑木の灰釉をかけて制作された最新作「陶片」シリーズ。トラックの轍が付いた土をそのまま取り出したものもあり、土の部分によって水分が含まれる量が違っていたりと通常の焼き物より難易度が高いこの作品、リサーチの段階で「これだ」と感じたそうです。
メキシコの美術館で展示した際のインスタレーション
今年の4月まで1年間滞在していたメキシコで制作されたインスタレーション作品を舞台にメキシコのパフォーマンスアーティストのMotos Ninjaが行ったパフォーマンスの映像も公開しています。

考古学が好きだと語る古橋さん、過去の出来事を分析することが面白いのと同様に、今現在私達が生きている状況が未来の人達から見たらどう理解されるのかが気になるといいます。「モノから自分達がどう理解できるか、どう知識を得られるか、何を捉えるか」モノが示すメッセージを常に考え、達観した視点から現在の世界を見据え、自分と繋がった人達の人生(必ずしも記述されないそれぞれの匿名でパーソナルな歴史)を掘り下げた作品制作を続ける古橋さんの今後の展開がとても楽しみです。

本展は古橋さんのこれまでの実践をタイムラインにご覧いただける貴重な機会となります。展示は7月30日(火)まで開催、ぜひこの機会にご高覧ください。

2019年6月29日土曜日

第195回 音を楽しむ会

6月の音を楽しむ会はピアノ中橋健太郎左衛門さん、ソプラノ鷲尾麻衣さん(アディーナ役)、テノール宮里直樹さん(ネモリーノ役)、バス三戸大久さん(ドゥルカマーラ役)、バリトン月野進さん(ベルコーレ役)による第11回大黒屋オペラ公演が行われました。曲目は大黒屋のためにアレンジされたドニゼッティ作曲「愛の妙薬」です。


第1幕、舞台は18世紀末スペインののどかな村。村の農場管理人にして聡明な美人アディーナは、好青年ネモリーノの求愛を断り続けているが、心の底では惹かれている。そこにカッコいい軍曹ベルコーレが来村、早速アディーナに求愛するがアディーナはこれもあしらう。ライバル登場に焦るネモリーノ。
♪ベルコーレの小アリアに続き3人の賑やかなアンサンブル。
♪続いてアディーナとネモリーノによる二重唱、二人の気持ちは違う方向を向いている。



曲間の演技シーンではセリフに日本語が使われており、物語が分かりやすく楽しく進行していきました。曲は基本的に原語ですが時々日本語が織り交ぜられたユーモア溢れる歌唱にお客様から歓声がドッと湧き上がって会場はとても微笑ましい雰囲気でした。


そこに、インチキ薬売りのドゥルカマーラが賑々しく登場。秘伝の惚れ薬(実はただの酒)をもっともらしく大宣伝。
♪喜劇的バスによる大アリア。素直なネモリーノはすっかり信じ込み大枚叩いて購入、
♪感謝するネモリーノとしてやったりのドゥルカマーラによる二重唱。
惚れ薬を早速飲み干すネモリーノ。ただし効果が現れるのは明日、とクギを刺されている。ネモリーノは普段と違い自信たっぷり。それを訝しがるアディーナ。
♪二人による二重唱に続けて軍曹ベルコーレが登場してアディーナに求婚、ネモリーノに対する当て付けでアディーナは承諾してしまう。結婚式は六日後の予定、しかし軍曹は急遽明日出発に変更となり結婚式は今日行うことになった!明日にならないと惚れ薬の効果は出ないので今日結婚されたら間に合わない、慌てるネモリーノ。今日だけは結婚をやめてくれと懇願するがムダである。
♪三者三様の重唱に続き、華麗なアンサンブルで第1幕フィナーレを飾る。


大黒屋サロンの空間を最大限に活用した歌い手達の演技は鑑賞者を物語の世界にどんどん引き込んでいくようでとても魅力的でした。また登場人物の心情を歌い方にきめ細かく反映されていて、これはすごい!と感激しました。


第2幕、アディーナと軍曹ベルコーレの結婚式。薬売りのドゥルカマーラはインチキくさい歌を披露。
♪即興で参加するアディーナとの二重唱。
今日中の結婚に大弱りのネモリーノはドゥルカマーラに相談するが更に一瓶飲めば効果は明日ではなく今すぐ現れると又もや騙されるが・・・もう金がない。悩んだ末に即金が得られるベルコーレの軍隊に入ることを決意する。
♪ネモリーノとベルコーレの二重唱。
かねてから重い病気だったネモリーノの伯父が死去。莫大な遺産が相続されるウワサが広がり、急にモテるようになる。惚れ薬が効いてきたと喜ぶネモリーノ。
♪イライラするアディーナ、インチキ薬が本当に効果を発揮して驚くドゥルカマーラによる三重唱。


場面はアディーナとドゥルカマーラに入れ替わる。ネモリーノは彼女の心を得る為に軍隊に入る決心をしたと真実を聞かされ感動する。
♪感動するアディーナとドゥルカマーラの二重唱。
ネモリーノただ一人、ひと雫の涙、アディーナを想って切々と歌う。
♪テノール屈指の名アリア。
アディーナ、はネモリーノを愛している本心に従って入隊契約書を取り戻した。喜び合い気持ちを確認する二人。
♪アディーナの本心であるネモリーノへの愛が歌われる名アリア。


終盤のネモリーノとアディーナの思い合う心情を深く表現したアリア、感動しました。序盤に披露したユーモア溢れる歌やセリフがより一層鮮やかに引き立てているようで、全体の構成についてもすごい!と感激しました。


ドゥルカマーラ、幸せな事の顛末は全て自分の薬の効用とまた口八丁手八丁で薬は売れる売れる。
♪大儲けで満足のドゥルカマーラは次の地へと旅立つ。幸せなアディーナとネモリーノ、結婚がウヤムヤになって立腹のベルコーレ、それぞれの思いを歌い全曲の幕となる。

日本語のセリフやアドリブが随所に鏤められたオペラの世界、物語の内容を深く理解できると共に登場人物の心情を感じながらオペラを楽しむことができた音を楽しむ会となりました。中橋さん率いる大黒屋オペラならではの魅力が満載でした!



次回の音を楽しむ会は7月26日(金)、ピアノ 伊東晶子さんです。
どうぞお楽しみに!

2019年6月4日火曜日

6月 拝宮和紙 中村功 展

6月1日より大黒屋サロンにて「拝宮和紙 中村功 展」が開催されております。


中村功さんは徳島県那賀町拝宮という標高600m、四国の南東部を流れる那賀川の支流に沿った自然豊かな山間地で拝宮和紙の伝統を守りながら制作を続けておられます。


中村さんは楮の繊維質な表情が出たパリッ、ピリッと破れる「寒(かん)」とした紙質にこだわりを持って制作されており、紙漉きをする時期は冬の間、上質な谷水と、原料は自身で栽培している楮【成長が遅く繊維が短いため紙にした時に密度が高い赤楮(アカソ)】を100%使用しています。拝宮の村の高齢化と過疎化問題、暖冬によって楮の成長が早まり赤楮本来の特徴が出ない、動物による自然被害など様々な障害を乗り越えて制作を続けてきたそうです。



江戸時代末期に最盛を迎え、先祖代々受け継いできた拝宮の紙漉き文化。村の小学校が廃校になると決まり、村の未来に危機感を感じた中村さんは27歳の時に紙漉きを始めました。未来への活路があると信じて村のため今日まで活動を続け、今や全国、海外にまで活動範囲を広げておられます。



自然に出た紙の曲がりや楮の繊維に接着力があるため紙がもつれた表情など「自分が全てに手をかけるのではなく紙から自然を引き出して拝宮和紙をどう表現できるか、ということを常々考えながら制作してきた」風土の変化により昔と同じ作り方はできない中で拝宮和紙の文化と実直に向き合い取り組み続けてきた中村さんの和紙からは心地よい手触りと温かみを感じることができます。


本展では伝統的な和紙、原紙、障子紙、紙布、大紙や、桜や柿渋などの草木染め、普段の生活にも使いやすい、便箋、封筒、懐紙、一閑張の花器、敷板、ライトスタンドなどを展示販売いたします。また、楮の皮など素材自体を大胆に活用したり紙を300枚重ねた平面作品など、手漉き和紙ならではのダイナミックな作品群もご覧いただけます。この機会にぜひお越しください。
展示は6月29日(土)まで開催、作家在廊日は6月29日です。
会期中の休館日:6月5,6, 18,19,20日

2019年5月31日金曜日

re:planter 村瀬 貴昭 展 公開植栽「Live-planting」

「re:planter 村瀬貴昭展」は昨日終了しました。会期中は多くの方にご来館いただきありがとうございました。
昨夜は、展覧会のクロージングイベントとして、特別に村瀬さんによる公開植栽「Live-planting」を開催いたしました。アンビエントな音楽が流れる中、道具を巧みに美しく扱い植栽する姿は茶道のお点前を見ているような。美しい時間が流れました。





今回、大黒屋では初めてとなる植物の展覧会、新緑の季節でもありスペースコロニーの中の植物たちも元気に育ち、水やり、剪定などお手入れしながら楽しい一月間となりました。