2023年5月26日金曜日

第232回 音を楽しむ会

5月の音を楽しむ会は三味線 佐藤通弘さん、佐藤通芳さん、箏 海寶幸子さんによる演奏会を野外で開催しました。


今回の演目は...


綺羅

津軽三下り

津軽じょんから節 即興かけ合い

ロンドンの夜の雨

アパラチアン三味線

カチカチ山

嘉瀬の奴踊り

夏 宵祭り

三味線ポルカ


8回目のご出演となる今回は、音による織物の様を表現した、琴独奏「綺羅」で開幕。川の流れや鳥のさえずりと相まって、とても優雅な時間となりました。

「アパラチアン三味線」の物凄く早い指の動きから奏でられる音色は、通芳さんの荒々しくも、真っ直ぐで熱い想いが伝わります。

「カチカチ山」の後半ではお互いの限界を突き詰めるかのような演奏に、曲中にも関わらず、大きな拍手が鳴り響きました。

「ヤーヤドー!」「ラッセラー!」と一緒に声を合わせ、会場全体で盛り上がった「夏 宵祭り」は、コロナ終息への兆しも感じられる1曲でした。

あふれる緑の中、心地良い風と共に三味線の力強い音色と箏の雅な音色を楽しむことができた、音を楽しむ会となりました。




次回の音を楽しむ会は6月26日(月)、能 川口晃平さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!


2023年4月28日金曜日

2023年5月 古橋まどか展

 板室温泉大黒屋では、4月28日より古橋まどか展「草枕」を開催いたします。 

 イギリス、ロンドンで建築と美術を学んだ古橋さんは、極めて日常に近い物に関するリサーチを基軸としたサイトスペシフィックな制作活動を展開してきました。およそ4年ぶりとなる大黒屋での個展。近年取り組んでいた作品に含め本展にむけて制作された新作17点を展示いたします。


 展覧会タイトルである「草枕」とは和歌にとっての枕詞であり旅と同義語です。古橋にとってこれまでは旅が日常で制作の糧にもなっていたなか、コロナ期を同じ土地で過ごすことで改めて四季がめぐることを意識し身近な生、自然、季節、身体、循環などについて考察する時間が増え、今展覧会へと繋がりました。


以下作家による展示に向けて、

「四年前の梅雨、ここ板室にて展覧会が無事、開催に至ったのを見届けると、その後は一夏をインドネシア、ジョグジャカルタですごした。本展「草枕」を構成する風、あるいはカーテンの映像はそのとき撮影したもので、当時は旅をしながら着想を得たり構想したりするのが日常だったように思う。

  一転してコロナ期、あらたに得た日課がある。最後に帰国の途についたとき、空き家となっていた母の生家に住まうことにして、その風体からいえば原野のような敷地、かつての庭の手入れをすることにしたのだ。 

 庭仕事なのか、開墾なのか、自主隔離と社会的距離間の求められるところで人知れず着手して、 ふりかえれば二年が、草木が萌し、花を咲かせ、葉を吹き、古葉を落とし、枝を枯らせ、また萌すのを、ひたすらに定点観測しつづけることですぎていた。 

 あるとき、土の中から、白けた貝殻が出てきた。割れた植木鉢のかけらも。それらは、かつての生活の名残で、土に分解されずに残存するものたちだ。また本展に一部分を含めた焼き物の制作は、それらを出発点にしている。私の体重に等しいだけ掘り出し、造形していた庭の土を焼成したものだ。 

 薪にしたのは剪定するたびにとっておいた枝や自然に枯れた木で、冬日にふきつける雪もかまわず、圧倒的な熱を発した。土を硬く焼き締め、小さな軽いかけらにして、燃え去った後はわずかな灰だけが残った。(このとき、意図せずして、体が消失する=いのちが滅するのをみとどけるような経験をした。)昨年のことだ。生き物、人は、生まれて、滅して、つぎに生じる子孫、いのちに、みずからの断片を託す。つぎに、というよりは、つぎつぎに生じるいのちにかもしれない。季節に似て、とめどない。実際、めまぐるしいほどに庭は変化する。仕事は想像していたよりもずっと多忙だった。雑草はあっという間に茂るし、樹々もきがつけば鬱蒼としている。 それが、落葉がおわり、寒さを極める頃になると、一斉に休眠しはじめる。それで私も一息つくことができるのだが、ただそのようなときも、土の中、あるいは、幹の中では、変化がゆるやかに進行しているのを感じている。虫も、幼体をまるめて地下に潜んでいるのだ。冬は、「殖(ふ)ゆ」が語源と知ったとき、腑に落ちて頷いた。

  今年、菜虫が舞い始める頃、本展に先立って大黒屋を再訪した。記憶のとおり、前庭の炉は四六時中湯を沸かしていて、くべられた木材から立ち上る煙は川辺や、外湯まで運ばれていた。焚き火も長湯も眠りを誘う。あるいは風か。湯を沸かすのは火で、火を燃やすのは風だ。無論、そよ風ならば心地よい。染み付いた煙の匂いですら、清々しく思えた。」



 板室の 5 月は日々変わりゆく新緑がみずみずしい季節です。 ぜひ展覧会と合わせてご来館いただけたら幸いです。 


会期 : 2023 年 4月 28日 (金) - 5 月 29 日 (月) 9:00 - 17:00
会期中の休館日:5月9日10日11日



2023年3月31日金曜日

2023年4月 渡辺遼、須田貴世子 展

331日より大黒屋サロンにて金属造形作家、「渡辺遼、須田貴世子展」を開催いたします。


 渡辺さんは埼玉県生まれ。武蔵野美術大学、空間演出デザイン学科卒業後、鉄工所勤務を経て鉄を使ったオブジェの制作を始める。鉄や銅、真鍮、アルミニウムなどの金属を使い自然物のような気配をまとったオブジェを主に制作しています。石ころのような造形物を目指して作られる作品は、金属でありながら自然体な表情という矛盾するような不思議な魅力を纏っています。 


 須田さんは東京芸術大学大学院鋳金専攻卒業。金属鋳造によるブロンズ作品、オブジェや日用品を制作しています。自身の生活の身近にある植物や山、空の風景などをモチーフにしたオブジェや花器などの日用品とアクセサリーなど身に付けられるものなどがあります。鋳造は金属を溶かし、鋳型に流し込んで成型するとても手間のかかる手法ですが、経年変化として徐々に変わっていく色合いを楽しむことができます。


 お二人の住まう長野県飯島町の土地は周囲に自然が溶け込んでいる環境で、日常の小さな発見が制作をするベースのインスピレーションになっており、作品を味わい深く魅力的に引き立てています。

 約3年半ぶりとなる大黒屋での二人展。渡辺さんは近年新たに取り組んでいる大きなオブジェから小ぶりのもの、またアルミニウムの大小さまざまな器やお香たてなど日用品も出品。須田さんお皿、折敷、壺、掛け花、香炉、香合、アクセサリーなどオブジェの延長線上にあるさまざまな日用品が並びます。是非この機会にご高覧いただけたら幸いです。



会期 : 2023 年 3 月 31 日 (金) - 4月 24日 (月) 9:00 - 17:00               
※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。



2023年3月26日日曜日

第231回 音を楽しむ会

 3月の音を楽しむ会はテノール 上原正敏さん、ピアノ 山崎浩さんによる演奏会でした。今回は「学生時代」をテーマにアンコール含め、全13曲を披露して頂きました。

高音が魅力的な「女心の歌」では上原さんの伸びやかな歌声に聞き入りました。

5曲目以降には日本語の曲も演奏。「宵待草」では日本語ならではの雅で曖昧な感情を、上原さんの甘い歌声と山崎さんの流麗な音色で表現して頂きました。

ご学友であり、同郷でもある二人の掛け合いは、演奏だけではなく、曲間のMCでも楽しむことができました。

アンコールには金子みすゞさんの「私と小鳥と鈴と」に山崎さんが作曲した曲と「オー・ソレ・ミオ」を演奏。観客も前のめりになるほど、心躍る2曲でした。

上原さんの甘く、心に語り掛けてくるような歌声と、山崎さんの大胆かつ丁寧な演奏を楽しめた音を楽しむ会となりました。




次回の音を楽しむ会は5月26日(金)、三味線 佐藤通弘さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

※4月の音を楽しむ会は「休演」です。

2023年3月3日金曜日

2023年3月 門田訓和展

 3月3日より大黒屋サロンにて、門田訓和さんの個展「Sculptures 」を開催しております。


 大黒屋では初めての個展となる本展は近年発表してきた作品群に新作を加えた全19点で構成されています。

 門田は1985年岐阜県生まれ、武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業後、2012年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了。現在は東京を拠点に活動しています。彫刻を専攻した門田は、常々「彫刻とは何か」・「彫刻を見る経験とはどのような経験か」そんな美術の歴史でも根源的な疑問のひとつに真摯に取り組んで作品制作を続けています。


 本展「Sculptures」では、写真作品と立体作品で構成されていますが、彫刻を意識しながらも長年、写真による作品制作を通して 彫刻を見る’ 視点 を意識的に抽出しています。門田の代表的な作品として多重露出撮影により制作された一群の写真作品は、紙という日常的で可変的でありながら形や状態を保つのに一時的である特性を用い彫刻を成り立たせるプロセスを多重露出で撮影することで明示します。

 形態と時間を記録することで写真という二次元的な平面のなかに紙の彫刻ともいえる三次元の作品を現しているとも言えます。写真の作品のプロセスの延長戦上にある、鉄や合成樹脂でつくられた立体作品はカメラの技術を使うことで生まれた彫刻をみるという視座をダイレクトに表現した作品とも言えるかもしれません。


 門田は「作品制作における手法と技術に焦点を当てることで、プロセスの回復とそこに生じる、ものを見るという眼差しの不確かさを導き出すこと」にあると言います。本展のタイトルにもなっている「Sculptures」は彫刻がもつ複雑な要素とさまざまな見方があることをご覧いただけたら幸いです。 

会期 : 2022 年 3 月 3 日 (金) - 3 月 27 日 (土) 9:00 - 17:00
作家在廊予定日 :  3 月 3 日