2025年6月26日木曜日

第251回 音を楽しむ会

 6月の音を楽しむ会は謡・舞 川口晃平さん、笛 熊本俊太郎さん、太鼓 姥浦理紗さん、地謡 小田切亮磨さん、鷹尾雄紀さんによる能の公演でした。今回は地謡2名も加わり、これまでの公演よりもさらにスケールアップ。5人が作り上げる能の世界はより一層厳かな空気感を作り上げておりました。



今回の演目は...

高砂

敦盛(長良川薪能版)

船弁慶

羽衣



梅雨時期の音を楽しむ会ということもあり、外は雨模様。雨に濡れた緑が美しく輝く中、「高砂」で開演。

平知盛の怨霊が義経一行を海底に沈めようと薙刀を荒々しく振るう場面が特徴的な「船弁慶」。覇気のある川口さんの舞と緊迫感を与えるお囃子の音色と地謡の歌声は、想像力を掻き立てます。

幕間には、熊本さん、姥浦さんによるお囃子の説明も。曲の雰囲気作りや拍子を意味する掛け声の解説は、会場にいるお客様も「ヤ」「ハ」「ヨーイ」「イヤー」と声を出し、発声後は笑い声とともに感嘆の声も聞こえてきました。

お囃子の解説後は装束着けを実演。普段なかなか見ることのできない裏側のこと、音を楽しむ会だからこその機会に、お客様も興味津々でした。ただ、着るだけではなく、装束の年代や意味、お手入れ方法など、詳しい説明もあり、わかりやすく、能の世界により興味を持つことができました。

最後の演目は天女の装束をつけ「羽衣」を。装束のきらびやかさだけではなく、舞の美しさも相まって、神々しく、心身が清まる感覚さえありました。

650年以上もの長い歴史を持ち、世界最古の演劇の一つとしても知られる「能」。物語に込められた深い人間模様は、現代に生きる私たちにも共感と感動を与えてくれました。




次回は7月26日(土) ヴァイオリン 青木高志さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!


2025年6月6日金曜日

 2025年6月 生形由香展

 板室温泉大黒屋では6月6日より大黒屋サロンにて「生形由香展」を開催いたします。


当館での展覧会は、2020年以来5年ぶり、2回目の開催となります。生形さんは、陶芸の地、益子にて自身の窯を構え日々土と向き合いながら、手作業によってひとつひとつの器を生み出しています。ろくろの上でかたちづくられる器は、やがて彫りの文様が施され、そこに釉薬が流しがけで重ねられることで、彫刻的でありながら柔らかな表情を持つ作品へと昇華していきます。その工程には、一切の妥協も無駄もなく、ひとつひとつの作業に対する深い集中と誠実なまなざしが込められています。彼女の作品に見られる陰刻や陽刻の技法は、東南アジアの更紗模様や仏教美術に通じる静謐さを内包しています。単なる模倣や装飾ではなく、土という素材と真摯に向き合う中で、自身の美意識を通じて昇華された造形美であり、それはまるで古代の遺物を前にしたときのような、時間の層や祈りの気配を感じさせます。



また、作品には「使うための器」としての機能性だけでなく、「そこに在ること」の美しさが込められています。花器や蓋物といった多様な形の器たちは、いずれも用のための造形にとどまらず、空間に静かに立ち現れる存在としての美しさを備えています。決して華美ではないけれど、そこにあることで空間の空気が少し変わる。控えめながらも確かな強さを持つその佇まいは、暮らしの中に深い余白や静けさをもたらしてくれる存在でもあります。



生形さんは制作の中で「偶然」と「必然」が交差する瞬間に深く心を動かされると語ります。彫りによって生まれる陰影に釉薬が自然に流れ込み、焼成の過程で生まれる微細なゆらぎによって、器の表情はひとつとして同じものがありません。作家の意図と、素材が導く偶然の美が折り重なりながら、器の中にその都度異なる風景がそっと立ち現れます。

本展では、食卓で日常的に使われる器に加え、より彫刻的な魅力をもつ花器や蓋物、オブジェなど、多様な作品群を展示いたします。それぞれの作品に宿る、土と釉薬と手の交感が織りなす景色をご堪能いただけましたら幸いです。

 


会期 : 2025年6月6日(金) - 6月30日 (月) 10:00 - 17:00

※6月6日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。