今回が最終回です。第10回大黒屋現代アート公募展で大賞を受賞し
作家としての活動が本格化するまでのお話、そしてこれからのお話を
お聞きしました。
―アーティストになりたいと思ったのはいつでしょう?
子供のころから目指していたんですか?
実は、そういったことはぜんぜんないんです。高校生くらいまでは大工さんに
なりたかったですかね。実家を継ぐんだろうなと漠然と思っていました。
中学生、高校生の時美術部だったんです。ぜんぜん運動はできないけどもともと
描いているのは好きだったので。高校の美術部の先生は版画の先生だったんですが、
毎年ひとりずつ結構大きな作品を作ったんですがそれが全国高校生美術祭で賞を
とって。なんかそれで気をよくしたんでしょうかね、美術をやってみようかなと
思って附属の大学の美術学科に進学しちゃったんです。
第6回全国高校生美術祭に出品した「カミ」 会長賞受賞
だから、その段階でいうと、美大とか芸大とかの存在自体を知らなかった。
そういうものがあるというのを知らなくて、受験したいというのもなかった。
予備校は行っていたんですけど、みんなどこにいくんだろうかな?と。だから
大学に入ってからそういう学校があるということを知りました。
―異色の経歴ですね
そうなんですよ。そもそも知らなかったから、そのころ作家になるつもりは
なかったんですよね。美術館に行くのも、すごくたまに。
―では10年前の自分が今の自分をみたらびっくりするのでは?
びっくりすると思いますよ。大学1、2年の時とかは普通の大学生でした。
普通に作品を授業の間だけ作って、帰ってまた次の日学校にきて授業を受けて。
そういう普通の大学生活をしていたので、その時の先生と話したりすると、
あの時の君がこんなにやるとは思わなかったみたいなことを言われます。
でもそこでの出会いとか経験があったから、すごく楽しかったんです。彫刻
やることとか美術にかかわることが。で、続けたいというよりは、まだやめたく
ないみたいなかんじで。大学を出た後もやっていたいなあという感じではいました。
大学在学時の作品 「おきかけのあいまで」(2012)
―大学に入ってからあえて彫刻を選んだのはなぜでしょう?
高校生の時は立体の作品を何にもやってこなかったので、すごく興味があったんです。
石を彫ったり木を彫ったり、粘土で作ったりとかいろいろできるので。その中で木彫が
とても楽しかったので一番合うかな、と。大学の時は普通に首像や動物などを彫ったり
などいろいろなことをやっていたんですが、卒業制作はその時の先生の影響で抽象の
作品になりました。
―なぜ大黒屋の公募展に応募されたんですか?
第10回大黒屋現代アート公募展 展示風景
ずっと学生の時から公募展の存在はコンペの検索サイトを見て知っていました。
それから大黒屋のHPとかをみて、過去の作品とかを見ていいなあと。でもまずその
既定のサイズのものがつくれなかった。初期の作品はとても大きい作品でできていた
ので、小さいものがつくれないなあ、応募できないなあと。そのあと時がたって
だんだん小さい作品が作れるようになり、今回は出せると思って出しました。
大学時代は一回くらいしか出していないんですが、作家活動の1つとして公募展と
いうのも挑戦したいとは思っていました。他のコンペにも出していましたが、良い
結果は出ていないときで。
―では大賞をとったときはびっくりしたのでは?
びっくりしました。電話がかかってきたとき、叫びましたよ。大賞です、って
言われて「わーーーーっ!」みたいな。仕事中だったので、え?っていう顔を周りに
されましたね。
―大黒屋の公募展に応募してみて、大賞をとって。実際の大黒屋の印象はどうでしたか?
第10回大黒屋現代アート公募展 授賞式
緊張しました。宿なんですけど、すごい変わっているなあ、こんな場所があるのかと。
イメージは全然違いました。作品を置いてあったりとかしてあるので、やはり公募展を
しているということは芸術家のような人たちが来るのかなあと思いました。
あと、審査員の方に会ったときは感動しました。大賞をとったときに批評を書いて
いただくんですが、作品をみて僕の頭の中で思っているだけで文章にできないことを
文章にしてくれる。作品を見るだけでわかってくださる人がいらっしゃるということ
自体がすごくうれしかったんです。そして、大賞という評価をしてくれたということが。
―大黒屋の前に2回個展をされていますが、展示方法などは変わりましたか?
変わりました。やりたい内容も少し変わってきてはいます。
壁にかけるということを今回の展覧会の僕の中のテーマとしていて。平面の部分も
あり、立体のようにもみえ、そういうあるようでないものを表現するのと同じように、
手前にもあるし奥にもそういうものが見えるということ。今までだったらそういった
空間みたいなものを見えればいいという感じだったんですが、今回は少し具体的に
なれたのではと思っています。平面・立体の両方の間にいるような、ちょっと錯視
みたいなことをしたかったのかなというか。
ギャラリーとは違った空間なので、人が行き来したり机とかイスとかがあったり
する。床に置いて見せてもよかったんですけど、せっかくきれいな壁があったので壁に
かけたいというもともとやりたいことにそれにうまく合わせることができたのかなと
思っています。
―大賞作品はもともとuntitledでしたが、今回から全作品にタイトルをつけたのは
なぜでしょう?在学中など途中の作品までタイトルがありましたが、途中からなくした
のには言葉で説明したくないといった理由があったのでしょうか
タイトルをつけたのは、1回ちょっと整理しようかなと思ったからです。
もともと僕はタイトルをつけるのがすごく苦手なんです。「これです!」みたいな
タイトルしかつけられないので学生の時の作品は主張のタイトルになってしまった。
だったら無題に見る人にゆだねる、考える、という感じにしたくてタイトルをなくして
いたんですが、一度作品のことや思っていることを改めて考え直してみて、タイトルを
つけようと。
Abstract frameというタイトルは直訳すると「抽象」「枠組」という感じです。複数の
組み合わさってできた枠の形が変化していくことによって変わる空間のようなものを
表現している作品ということでまとめました。数字は、たとえば「12-1」だと12個の
枠がつながっている作品のうち1つめということになります。
―今後、アーティストとしてどのようなことをしてみたいですか?
1回留学したい、外国に行ってみたいですね。すごく漠然としていますが、海外の
美術なんかも見てみたいし、ちょっと作品を見てもらいたいなということもありますし。
一番行きたいのはメキシコでしょうか。僕は右に行けっていわれたら左に行くタイプ
で、ヨーロッパはみなさんたくさん行っているので別にヨーロッパはいいかなと。
メキシコは国の文化とかが好きで、絶対面白い。メキシコの有名な建築家でルイス・
バラガンという方がいるんですが、僕はとても好きなんです。首都メキシコシティの
郊外にある、サテライトタワーという建築の写真を本でたまたま見て、とても気になり
ました。大きな幹線道路の中央分離帯にドカーンと5つの塔が建っているんですが、
すごくかっこいい。さらにそのタワーはマティアス・ゲーリッツという彫刻家とその
ルイス・バラガンが共同で考えてつくった作品で、僕は全然知らなかったんですが、
調べたらとても作品がおもしろい。
これはぜったいメキシコに何かあるでしょうと。
発表はずっとしていきたいです。制作と同じように続けていると見えてくる新たな
視点や感動があると思います。僕の場合はわりとなりゆきで今に至る感じですが自分を
信じて作品を作り続けていきたい。今はまだ始まったばかりでなにもない状態なので、
作家としてはこれからだなと思っています。
青木さんは毎週末会場にお越しいただいています。
お忙しい中貴重なお話ありがとうございました。
もっと詳しいお話を聞きたい方、本日18日(火)20:00〜アーティストトークが
ございます。ぜひ御運び下さいませ。