2025年4月26日土曜日

第249回 音を楽しむ会

4月の音を楽しむ会はソプラノ 西田真以さん、ピアノ 吉本有佑さんによる演奏会を行いました。今回は自由で劇的な感情表現が特徴的であるバロック音楽を中心にプログラムを構成していただきました。



〜プログラム〜

すみれ Le violette  (Aスカルラッティ作曲)

アマリッリ Amarilli ( G. カッチーニ作曲)

「マニフィカト」BWV243 より Quia respexit (J. S. バッハ)

「奥様になったら女中」より Stizzoso, mio stizzoso (G. B. ペルゴレージ作曲)

「グリゼルダ」RV718より Agitata da due venti (A.ヴィヴァルディ)

主よ、人の望みの喜びよ BWV174  (J. S. バッハ)

「セルセ」より Ombra mai fu(G. F. ヘンデル作曲)

「リナルド」より Lascia ch’io pianga(G. F. ヘンデル作曲)

「ジュリアス・シーザー」より Piangerò la sorte mia(G. F. ヘンデル作曲)

「メサイヤ」より Rejoice greatly(G. F. ヘンデル作曲)

さくら横丁 (中田喜直) 

素敵な春に (小林秀雄)



開会の挨拶後、お二人で入場し、A.スカルラッティ作曲「すみれ Le violette」を演奏。すみれの花を恋人に見立てた可憐なアリアは、会場の雰囲気を一気に明るくさせます。

歌唱前に「人間の限界に挑む曲」と仰っていたA.ヴィヴァルディ作曲「“グリゼルダ”RV718より Agitata da due venti 」。高音で、曲調も早く、技巧的な音の連続は聞く人を魅了しました。

公演の中盤には、J. S. バッハ作曲「主よ、人の望みの喜びよ BWV174」を吉本さんのピアノソロで。美しい旋律と吉本さんの時折笑みを浮かべながらの人情味ある演奏は、心温まるものがありました。

会の後半は、オペラやオラトリオなど劇作品を中心に、多くの音楽を創作したことから「音楽の母」とも呼ばれているG. F. ヘンデルが作曲した4曲を演奏。運命の過酷さを表現したオペラ「“リナルド”より Lascia ch’io pianga」、キリストの生涯を描いたオラトリオ「“メサイヤ”より Rejoice greatly」など、登場人物の感情表現が豊かな曲目を西田さんの清潭な歌声で楽しむことができました。

アンコールの小林秀雄作曲「素敵な春に」は日本歌曲には珍しい、素直な愛を表現した曲。西田さんの歌声だけではなく、吉本さんのピアノの音色が、より曲の雰囲気を作り上げ、演奏後には大きな拍手が起こりました。

これまでは冬時期の「音を楽しむ会」という印象が強かった西田さん。新緑の美しい景色の中、西田さん、吉本さんの素敵な演奏を堪能できた音を楽しむ会となりました。




次回は5月26日(月)落語 三遊亭兼好さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

2025年4月4日金曜日

2025年4月 杉田明彦展

 板室温泉大黒屋では4月4日より大黒屋サロンにて「杉田明彦展」を開催いたします。


杉田明彦は1978年、東京都に生まれました。手打ち蕎麦店での修業を経て、『茶の箱』という本に出会い、漆の世界に強く惹かれるようになります。その後、2007年より『茶の箱』の著者の一人でもある塗師・赤木明登氏に師事し、4年間の修行と2年間の御礼奉公を経て独立。2014年に金沢に工房を構え、現在に至ります。日本における漆の歴史は古く、縄文時代の遺跡からも漆器が発掘されており、1万年以上にわたって日本人の生活と密接に関わってきました。漆は防水性・耐久性に優れ、食器や家具、建築装飾に広く用いられてきました。特に茶道や漆塗りの器は、日本の食文化や美意識と深く結びついています。しかし、近代化が進む中で漆器を日常的に使う機会は減少しつつあります。杉田は、こうした状況の中で漆の価値を改めて見直し、現代の暮らしに寄り添う形でその魅力を生かす方法を探求しています。



杉田の作品は、伝統的な漆芸技法を受け継ぎながらも、現代のライフスタイルに調和する洗練されたデザインが特徴です。「道具としての美しさ」を大切にし、手に馴染むフォルムと独特のマットな質感を持つ漆器を生み出しています。特に、黒と朱の間にある深みのある独自の「朱色」を追求し、古典的な色合いに現代的な感覚を加えた表現が高く評価されています。さらに、漆の塗りと研ぎの工程を丁寧に重ねることで、手触りの良さと深い陰影を生み出し、日常の器に特別な質感をもたらしています。シンプルでありながらも奥深い魅力を持ち、使い手の手によって完成される「道具」としての美学を体現しています。師である赤木明登氏の影響を受けたマットな質感の漆は、現代の明るい生活環境に適した漆作りのスタイルとして確立されています。かつて漆器は、蝋燭や行灯のやわらかな灯りに照らされることで、しっとりとした艶やかな光を放ち、その美しさが際立っていました。杉田の作品は、そうした漆の本来の魅力を受け継ぎつつ、現代の住空間の明るい光の中で調和する漆を目指し、静かで奥行きのある仕上がりを追求しています。伝統を継承しつつ、それを超える新たな漆の表現を生み出し続けています。また、杉田は、伝統的な漆の食器であるお椀や汁椀にとどまらず、リム皿など西洋の文化でも使われる器にも挑戦し、フォルムの追求を続けています。器の形状に対するこだわりは強く、美しい造形を追求すると同時に、実用性を兼ね備えたデザインを心がけています。さらに、日頃から古いものや骨董への関心が深く、それらから受けた影響が彼の作品に独特の風合いをもたらしています。




近年では、生活の道具としての漆器にとどまらず、漆の素材そのものを活かした平面や乾漆(かんしつ/麻布などに漆を塗り重ねてかたちを作る、古くから伝わる技法)の技術による立体作品の制作にも取り組んでいます。また内装材としての漆の可能性を探るなど、新たな領域への挑戦を通じて、漆の可能性を広げる試みにも力を注いでいます。こうした取り組みを通じて、伝統を継承しつつ、それを超える新たな漆の表現を生み出し続けています。

本展では、お椀、鉢、盛り皿、リム皿、カップ、折敷、お盆など、さまざまな普段使いの器と、漆の可能性を追求した平面作品、乾漆によるオブジェ作品を中心に展示いたします。多様な表現を通じて広がる、杉田明彦の漆の世界をどうぞお楽しみください。

 

会期 : 2025年4月4日(金) - 5月6日 (日) 10:00 - 17:00

※4月4日、25日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。