2025年10月26日日曜日

第254回 音を楽しむ会

今月の音を楽しむ会はフルート 森川道代さん、ピアノ 安宅薫さんによる演奏会でした。



今回の演目は...

                                       ♪ R.ギオー マリオン組曲より第一楽章

                                       ♪ A.F.ドップラー 「 3つの小品」より
                                          ・子守唄
                                          ・ マズルカ

                                       ♪ C.A.ドビュッシー
                                          ・小舟にて
                                             ・小さな羊飼い
                                             ・亜麻色の髪の乙女

                                       ♪ ジュナン ヴェニスの謝肉祭(Picc.)

                                       ♪ ダマーズ 演奏会用ソナタ




今回は森川さんの恩師でもあるレイモン・ギオー氏作曲の「マリオン組曲より第一楽章」で開演しました。


音楽の「抽象主義」とも呼ばれているC.A.ドビュッシー。彼の作る曲は「色」を連想させるものがあり、光や水面のきらめきといった視覚的な印象や雰囲気を「音」で表現しています。森川さん、安宅さんの奏でる「亜麻色の髪の乙女」はフルートの音色も相まり、より音が、空間が澄み切って感じられ、木漏れ日が差し込む森林の中に佇む女性を想起させます。中盤以降の曲調は女性の姿をどこか懐かしむような哀愁も感じられました。


曲間のMCでは作曲者や時代背景、楽器の説明など、森川さんの楽しいMCもありました。ジュナン作曲「ヴェニスの謝肉祭」で使用したピッコロは161年前のものなのだとか。歴史好きの森川さんは池田屋事件に触れながら、長い間大切に保管され音を紡いできたことを嬉しそうに説明しておりました。フルートよりも甲高い音色のピッコロ。細かい音の粒が連なる圧巻の演奏に会場からは大きな拍手が起こりました。


アンコールには「カラスなぜ泣くの」でおなじみの童謡「七つの子」を演奏。テレビ番組「8時だョ!全員集合」で志村けんさんが「カラスの勝手でしょ」と替え歌したことにより、幅広い世代に認知されている曲です。替え歌による明るく元気な印象でしたが、フルートとピアノの清らかな音色により、清澄さも感じられ、曲に対する印象が大きく変わった一曲となりました。





次回は11月26日(水)ピアノ 石田多朗さん、笙 中村華子さんによる演奏会です。

どうぞお楽しみに!

2025年10月3日金曜日

2025年10月 浜野まゆみ・矢野直人展

室温泉大黒屋では10月3日より大黒屋サロンにて「浜野まゆみ・矢野直人展」を開催いたします。


古唐津と古伊万里―400年前の陶工たちが生み出した伝統に挑み、古陶を糸口に現代を見つめる二人の展覧会です。

浜野まゆみは、大学で日本画を専攻し卒業後、焼き物の里・有田の窯業大学校にて陶芸を学びました。江戸前期に生まれながら石膏型の普及によって途絶えた「糸切り成形」の研究・再現に取り組みつつ制作しており、粘土板を糸で薄くスライスして型に当てるこの成形法によって、複雑な形状の磁器を生み出しています。高台も別途成形した紐状の土を貼り付けて作るため、成形には非常な手間を要しますが、そこに日本画で培った緻密な絵付けの技術を生かすことで、凛とした気品と繊細さを湛えた美しいうつわを完成させています。浜野の作風には江戸前期の古伊万里への憧憬が色濃く漂い、伝統文様や染付の意匠を現代の器に静かに息づかせているのも特徴です。初期伊万里の古格を纏いながらも、同時に新鮮な瑞々しさを感じさせる作品は、見る者の記憶の奥底にある郷愁を呼び覚まし、日々の暮らしに優雅な彩りを添えてくれます。



矢野直人は、古唐津を石器質の焼き物と捉え、あえて粘土ではなく唐津の砂岩を用いて作陶しています。自ら唐津の山中で砂岩を掘り出し、土や釉薬など原料の調合から薪窯での焼成まで、すべての工程を一人で手がける数少ない陶芸家です。砂岩は採取する地層によって粒子や性質が異なり、その特性に応じて黒唐津・朝鮮唐津・斑唐津・絵唐津・山瀬・皮鯨・刷毛目・粉引・白瓷など、多彩な作風を展開しています。桃山時代以来の古唐津の流れを汲みつつも、素材の個性を最大限に引き出した器からは、荒々しさと静けさが同居する存在感が立ち上ります。焼き物の原点ともいえる土と火に真正面から向き合い、伝統を現在に更新する力強い制作姿勢が感じられます。



お二人とも古唐津や古伊万里といった古陶磁に強く魅了されていますが、決して過去の作品をそのまま写すのではありません。400年以上前の陶工たちがどのように素材と向き合い、どのような手法で器を作り上げてきたのか、その原料・技術・方法を自らの手で体現し、現代の暮らしに通じる新たな器を生み出そうとする姿勢に、お二人の特徴がよく表れています。 長い時を経た技法や素材を現代に生かし、過去と現在を融和させるその仕事からは、年月を超えた深みと温もりが伝わってきます。本展では、浜野は糸切り成形で作られた器や、白土の粘土を塗ってから型紙を剥がす「型紙摺り」という技法による器、またろくろ成形による花器などを展示いたします。矢野は茶碗・花器・酒器・向付・碗皿など、多彩なうつわを出品予定です。伝統に裏打ちされた確かな造形と、季節の趣きを映す器の共演をぜひお楽しみください。爽やかな秋風がそよぐ板室温泉の地で、歴史を感じさせる二人の器の佇まいをご高覧ください。

 


会期 : 2025年10月3日(金) - 10月27日 (月) 10:00 - 17:00

※10月3日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。