板室温泉大黒屋では、2025年11月2日(日)から11月30日(日)まで、磯谷博史による個展「パンゲアの破片/Shards of Pangaea」を開催いたします。
本展では、新作《パンゲアの破片》シリーズ14点に、《着彩された額》シリーズから小作品7点を加え発表いたします。
磯谷は、写真や彫刻を用いたインスタレーションを通じて、認識の複層的な構造を探る制作を続けてきました。大黒屋での3年ぶり4回目となる今回の個展では、オーストリア・ニーダーエスターライヒ州(ウィーン北方)に位置するロースドルフ城(Schloss Loosdorf)で撮影された写真作品を中心に構成されます。中世に起源をもつこの城は、近世・近代の改修を経て現在に至り、1834年にフリードリヒ・アウグスト・ピアッティ伯爵の手に渡って以来、ピアッティ家の所有となりました。同家は北イタリアを起源とし、11世紀にまで文献上の言及を遡ることができる旧家です。ザクセン宮廷で要職を務めた時期もあり、かつては陶磁器の交易にも関わっていました。ドレスデンからロースドルフへ居を移す際、陶磁器コレクションもともに運び入れたと考えられています。
ロースドルフ城のコレクションは、17世紀以降にヨーロッパへ渡った東アジアの古伊万里や景徳鎮の陶磁、さらにはマイセンやウィーンなど欧州各地の名窯を含む多様な構成で知られ、「白い金」と呼ばれた陶磁をめぐる東西交流の象徴ともいえるものでした。しかし第二次世界大戦末期、城は旧ソ連軍に接収され、地下に隠された陶磁器の多くが破壊されます。戦後、砕かれた破片は「Scherbenzimmer(陶片の部屋)」に集められ、戦禍の記憶として静かに保管されました。
展示される写真作品は、この「陶片の部屋」に残された破片を、生命の象徴でもあるミルクに浮かべて撮影したものです。ミルクは破壊の痕跡を包み込み、再生を象徴する儀式の場として機能します。乳白の液体は陶片の鋭い輪郭をやわらげ、かつて器であった姿への想像を私たちに促します。
会期 : 2025 年11月2日(日) - 11月30日 (日) 10:00 - 17:00

