2026年2月26日木曜日

第256回 音を楽しむ会

2026年最初の音を楽しむ会はテノール 上原正敏さん、ピアノ 北村晶子さんによる演奏会でした。上原さんは2024年2月ぶり、北村さんは2019年5月ぶりのご出演です。
今回は「シェフの気まぐれコンサート 愛の喜び オペラからさだまさしまで」というテーマのもと心温まる名曲の数々を演奏していただきました。



演目は...

Plaisir d'Amour
Ave Maria
La Danza
Sempre libera
Fedora
Moon River
誰も寝てはならぬ
悲しい酒
'O sole mio

など...



幕が開け、最初に演奏されたのは「Plaisir d'Amour」。愛の喜びや儚さを表現した曲で、上原さんの甘い歌声に酔いしれました。


上原さんの「音を楽しむ会」といえば、曲間のMCも人気。会場一体となってブラボーの講習会も行われました。演奏後の「ブラボー!」という声は歌い手のテンションを上げる重要な要素だそうで、ブラボーに限らず、何かしらのお声を掛けていただけるだけでも嬉しいそうです。


ロッシーニ作曲「La Danza」。曲調の速さが特徴的なタランテラの中でも有名な1曲です。北村さんの流麗で正確な演奏から始まり、そこへ上原さんのドラマティックな歌声が重なることで、より曲に力強さを感じることができました。


アンコールで演奏された「悲しい酒」は、オペラアレンジが施されており、登場人物の心情が深く表現されていました。一つの物語を見ているような、新しい感覚に包まれる素晴らしい演奏でした。


幅広いジャンルを歌い上げる上原さん。甘く味わい深いテノールはもちろん、生歌ならではの「グッ」と迫ってくる音圧も体感でき、まさに音を楽しむ会となりました。





次回は3月26日(木)笛 福原寛さんによる演奏会です。
どうぞお楽しみに!

2026年2月6日金曜日

2026年2月 渡辺豊重 展

板室温泉大黒屋では、2026年2月6日(金)から3月2日(月)まで画家・彫刻家 渡辺豊重 の展覧会を開催いたします。渡辺豊重は1931年に生まれ、2023年に逝去するまで、絵画、版画、彫刻など多様な表現を通して、色彩やかたちが立ち上がる感覚そのものを探求し続けた作家です。

渡辺と大黒屋との関わりは古く、1995年、2000年の二度にわたり、ここ板室温泉大黒屋にて個展が開催されました。1995年の個展の際に制作された屋外彫刻《みんなそろってピーヒャラドン》は、現在も大黒屋の裏庭に設置され、毎日出勤するスタッフや宿へ訪れる人々を静かに迎え続けています。自然の中に置かれたその姿は、作品が鑑賞の対象であると同時に、風景の一部として時間を重ねてきたことを物語っています。

大黒屋の前代表・室井俊二(会長)にとって、「保養とアートの宿」として大黒屋が進んでいく過程で出会った作家たちは、単なる展示の対象ではなく、宿の在り方そのものを形づくる存在でした。なかでも、現在の大黒屋にも深くつながり、重要な作家として位置づけられているのが、菅木志雄、村井正誠、そして渡辺豊重です。

1980年代後半から90年代にかけて、現代美術はまだ一般的とは言えず、旅館という場で作品を展示し、作家と継続的に関わることは、決して当たり前の選択ではありませんでした。そのような時代に、室井はこの三者の美術活動に触れ、宿として作家と向き合い、交流を重ねるなかで、空間のつくり方や、時間の積み重ね方、そして「保養」という概念そのものを学んできました。
三人の作品は現在も大黒屋の館内外に点在し、風景や建築、日常の営みとともに静かに息づいています。それらは展示物というよりも、この場所の時間とともに育まれてきた存在であり、われわれの空間そのものを形づくる重要な要素となっています。

若い頃は都市を拠点に活動していた渡辺は、1990年代以降、栃木県那珂川町にアトリエを構え、自然とともにある生活へと身を移しました。都市と地方、社会の矛盾や違和感、日常のなかに生まれる感情の揺らぎは、次第に彼の作品の中で、より自由で、より率直な「色」と「かたち」として立ち上がっていきます。

一見すると明るく、ユーモラスに見える渡辺の作品ですが、その奥には、怒りや戸惑い、社会への問いといった複雑な感情が重なっています。代表的なモチーフである「鬼」の姿にも、恐ろしさよりも人間味が漂い、見る者に軽やかさと同時に、言葉にしがたい余韻を残します。

渡辺にとって制作とは、完成された意味を提示する行為ではなく、色を置き、線を引き、かたちを試すなかで、思考や感情が変化していくプロセスそのものだったのかもしれません。絵画と彫刻、平面と立体のあいだを自在に行き来する表現は、ジャンルの枠を越え、視覚そのものの歓びへとひらかれています。

現在、栃木県立美術館では回顧展が開催され、渡辺豊重の画業全体を見つめ直す機会が設けられています。
本展では、その回顧展の機会にあわせ、あらためて大黒屋と渡辺豊重との関係を見つめ直すことをひとつの軸とし、これまで大黒屋でコレクションされてきた作品を中心に展示いたします。あわせて、1995年に制作された《みんなそろってピーヒャラドン》の版画作品なども紹介します。本展では、版画を中心に、絵画など計14点を展示いたします。2月の板室の静かな時間の中で、渡辺豊重が生涯を通して探し続けた、色とかたちが立ち上がるその気配を、ゆっくりと感じていただければ幸いです。


会期 : 2026年2月6日(金) - 3月2日 (月) 10:00 - 17:00

※2月6日、20日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。