現在サロンで開催されている「木城圭美展」に際して、
3回のシリーズで作家のインタビューを掲載いたします。
木城さんは第1回大黒屋現代アート公募展に入選。
その後大黒屋で「作家志望スタッフ」として3年間働いた後、
2009年に作家として独立しました。
今回の個展は作家として独立した後、大黒屋で3回目の展示となります。
大田原にアトリエと生活を移し、気持ちも新たに制作を行う木城さん宅を訪ねました。
那須のお隣、大田原の田園地帯の中にあるアトリエ
―「絵描き」になるきっかけについて教えてください
出身は三重県の菰野町で、小学校のころからずっと絵描きになりたいといっていました。
絵を描くとほめられたんでしょうね、運動は苦手だったので。
小学校5年生くらいの時、自分から行きたいと言ってお絵かき教室に行かせてもらっていました。
それからは中学、高校と美術部に入って、彫刻や他のメディアに手を出すこともなく、
ずっと絵を描いていました。
木城さんの生まれ育った菰野町
―大学時代はどんな学生でしたか?
愛知県立芸術大学に進学したんですが、画家では生きていくのが大変だったので母は本当は
ほかの道にもいってほしかったみたいでした。でも当時は家から片道2時間半かけて、
まじめだったので、だれよりもアトリエに早く行っていました。
研究室では、議論をたくさんするということはあまり好きではありませんでした。
作家というのは基本的に個人戦であって、他人と激論したとしても、
それは共感を得たいだけなんじゃないかと。
それは共感を得たいだけなんじゃないかと。
「やっぱそうだよね」「君もそう思うのね」ということはあまり好きではないので。
大学在学中は公募展とかはあんまり出したことはなく、大学の最後の年になって
名古屋の「名古屋の美術~今までとこれから~」(※1)という展示と、大黒屋の
「第1回現代アート公募展」(※2)に同時に出品して作家活動を始めました。
―ずっと絵だけを描いているということは、木城さんにとって
絵を描くということは「当たり前」「好き」という感覚ですか?
絵を描くということが「好き」なのかと聞かれるとよくわかりません。
ただ、一生続けられるのは何かを聞かれると、「絵を描くこと」だと。
生きていくというためにはお金がいるけれど、お金を稼ぐために何かを
一生やらなければいけないかと考えると、絵を描くことだと。
書いているときは8割苦しいです(笑)。9割かな。
至福のときはできた!というときの一瞬だけ。
アトリエ全景 製作中の作品が並ぶ
―絵を描き始めた頃から時代から画風は変わりましたか?
高校時代は、具象も描いていたんですが、かなりデフォルメしていました。
細部を全部なくしてしまって、平面の構成のような。
ただ、色はかなり昔から派手だったと思います。
そのときから色の感覚は変わっていない。
―影響を受けた作家はいますか?
好きな作家はただ一人です。
エミリー・ウングワレー。(※3)
私もこういう道で行くんだ!と自信をもったのが彼女の展示です。
初めて展示を見て泣きました。
彼女の描いているものこそ「宇宙でしょ!」と。
エミリーさん自身が意識しているかどうかわからないけれど、彼女の絵には宇宙がある。
あそこまで簡潔にはかけないけれど、描いているものは同じだと思います。
―1人だけですか?他の抽象画家は?
彼女だけですね。それまでは目指す作家もいなかったです。
美術館に行って感動したのは、エミリーただ一人ですね。
やっていることはわかるし、すごいと思う人もいますが。
私がやりたいことをやっているのは彼女だし、目指すものは彼女だなと。
また、エミリーから、絵描きの本質というのも考え出しました。
そもそも絵描きってなんだろうと。
エミリーは自分の信仰に基づいて描いていて(※4)、食べ物に感謝したり作物に
感謝したり、雨に感謝したり、そういうシャーマン的な役割が絵描きにはあったんだと
思います。
そういうアンテナを持っている人が絵描きになるべきだし、その「見えないもの」を
ほかの人に提示するのが絵描きの役割だろうなと思っています。
(※1)「名古屋の美術~今までとこれから~」名古屋市立美術館 (愛知)2006 入選
『coll on』油彩 2006
(※2)「第1回大黒屋現代アート公募展」板室温泉大黒屋(栃木/那須)2006 入選
『turn up』 綿布にアクリル 2006
(※3)エミリー・カーメ・ウングワレー(1910 − 1996)
オーストラリア、アボリジニのアマンチャリー族の画家。
70歳を過ぎてからカンヴァスに絵を描き始め、故郷のアルハルクラやヤムイモをモチーフにしたものなど
豊かな色彩、ダイナミズムを感じさせる作品を多く残した。2008年、大回顧展
「エミリー・ウングワレー展―アボリジニが生んだ天才画家―」が国立新美術館で行われた。
(国立新美術館ニュースNo.7 2008)
第2回は「大黒屋と木城圭美」をお送りします