2019年9月30日月曜日

第198回 音を楽しむ会

9月の音を楽しむ会はソプラノ 西田真以さんとピアノ 中ノ森めぐみさんによる演奏会が行われました。今回で3回目の出演、西田さんがイタリア留学時代によく歌っていたオペラ作曲家ドニゼッティとイタリア歌曲の作曲家トスティの2人に焦点を当てて1800年代のイタリアロマン派音楽の世界を披露していただきました。



ドニゼッティは「ドン・パスクアーレ」や「愛の妙薬」など、喜劇オペラをいくつか書いた一方で当時有名だった小説や歴史的な出来事を題材とした悲劇的なオペラも多く作曲して、あまりの悲しさにヒロインの精神が錯乱する様子を技巧的に表現した狂乱の場は彼の得意とするもののひとつでした。


「ドン・パスクアーレ」より “あの眼差しに騎士は”
陽気なオペラ「ドン・パスクアーレ」の第1幕で若い未亡人のヒロイン ノリーナが、恋愛小説を読みながら、自分もその物語の女性のようにどんな男性の心も操れるのよ、といたずらっぽく歌う独唱。西田さんの歌声が作る世界は迫真的で美しいもので表現力の素晴らしさを感じました。


「アンナ・ボレーナ」より“私の生まれたあのお城....邪悪な夫婦よ”
イギリスのヘンリー8世に着せられ、死刑を待つロンドン塔から最終幕のこの場面が始まり、この独唱は語りのレチタティーヴォ、心情を語ったアリア、怒りの最終節のカヴァレッタと三部構成になっています。雷鳴のように甲高く切り裂くような悲しみを帯びた歌声から物語の場面が頭の中に連想されて、会場の雰囲気も物語の世界に入っていくようでした。


中ノ森さんのピアノソロはレスピーギ作曲「6つの小品」より 第3曲  “ノクターン”。ピアノの旋律が月の弧を描くように、綺羅星が鏤められた夜空の美しさを語っているようで、夜想曲の煌びやかな世界が繰り広げられました、感動しました。


後半は近代イタリア歌曲の創始者と言われる作曲家トスティの歌曲カンツォーネを披露。トスティは歌詞となる詩をとても大切にしていて、イタリア語の語感はもちろん曲のメロディ自体がまるで詩を読み上げるかのようにとても自然に作られています。

「夢」あなたが愛に溢れた眼差しで私を見つめ跪く夢を見た。固い決意も虚しく心は奪われ、手を伸ばしたその時、貴方は夢とともに消えてしまった、というロマンチックな歌。

「薔薇」本に挟まった野ばらの押し花を見つけ遠い昔のあっという間に去ってしまったひと時の恋を懐かしく、愛おしく思い出すそんな甘酸っぱい歌。


「アナタをもう愛さない」別れたばかりの恋人にまだあふれんばかりの愛情とそして憎しみを激しく伝えていて、歌詞の中で繰り返される、まだ君は覚えている?というフレーズにまだ癒えない心の傷と冷めない思いを感じます。ひしひしと伝わってくる感情が鮮明に響いてきました。

「理想の人」もう2度と会えないであろう愛する人との楽しかった日々を思い出し、その人を讃え、もう一度会いたいと強く願うとても温かい曲。

「暁は 光と闇とを分かつ」イタリアの最も有名な詩人の1人である、ダンヌンツィオの詩によるもので夜が明ける瞬間を詩的に描いた一曲です。闇にとどまりたい思いと、永遠の太陽を待ち望んでいた気持ちの両方が見事に描かれていて、演奏会の終曲として壮大に会場に響き渡りました。


アンコールは「落葉松」。お二人の歌声と音色が心にじーんと沁みてくるようで、言葉一つ一つ、メロディの一音一音が心地よく伝わってきた素晴らしい演奏でした、感動しました。
秋の雰囲気に包まれた板室にてお二人の美しい音楽の世界を披露していただいた音を楽しむ会となりました、お越しいただいた皆様ありがとうございました。




次回の音を楽しむ会は10月26日(土)、チェロの黒川正三さんです。
どうぞお楽しみに!