2025年11月26日水曜日

第255回 音を楽しむ会

2025年最後の音を楽しむ会はピアノ 石田多朗さん、笙 中村華子さんによる演奏会でした。おふたりは今回が初めてのご出演です。



今回の演目...

盤渉調調子
陪臚
平調調子
常世

                                                                   etc...



会のはじめ、石田さんより「雅楽は人から人に向けて演奏されるものではなく、人から自然に向けて演奏されるもの」「音楽から何かメッセージを受け取ろうとするのではなく、余白から自由に感じ取ってほしい」とお話がありました。


静寂の空間の中、ピアノの音色が一音一音鳴り響きます。


会場後方から笙の神秘的で優婉な音色がゆっくりと近づき、雅楽の世界へと引き込まれていきます。


所感や印象といったものを形のない「温度感」でイメージする笙と経験や思い出といったものを形ある「記憶」としてイメージするピアノ。雅楽とクラッシクという、東洋と西洋の和洋折衷の音楽は聴くものを魅了します。


【 陪臚 】
この曲は1300年前からある曲で、戦勝祈願の曲として知られております。様々説はありますが、聖徳太子が戦の前の景気づけに演奏した曲とも言われており、心なしか力漲る曲でした。


【 常世 】
「日本の風景は天国みたいなもの」と仰った折口信夫さん。常世を理想の世界とみなしつつ、人々が現実世界(現世)に留まることの「愚かさ」を論じています。常世という曲は息子さんが幼い頃に書いたメモの文字をそのまま歌詞にした曲で、言葉ではないけれども、ただの音でもなく、心地よく耳に入ってくるその音色は、世の中にある物事の境界をあいまいにさせる感覚さえありました。理想と現実、事実と解釈。現代の言葉の価値や意味を考えさせられる一曲でした。


時代が進めど、変わらず受け継がれていくもの、そこに新たな解釈を組み合わせることにより、独自の世界観が生まれる。お二人が織り成す雅楽の世界観を通して、音楽の温故知新を体感することができた音を楽しむ会となりました。





次回の音を楽しむ会は2026年2月26日(木)テノール 上原正敏さんによる演奏会です。
どうぞお楽しみに!
※2025年12月26日(金)、2026年1月26日(月)は休演です。

2025年11月2日日曜日

2025年11月 磯谷博史 展

板室温泉大黒屋では、2025112日(日)から1130日(日)まで、磯谷博史による個展「パンゲアの破片/Shards of Pangaea」を開催いたします。

本展では、新作《パンゲアの破片》シリーズ14点に、《着彩された額》シリーズから小作品7点を加え発表いたします。




磯谷は、写真や彫刻を用いたインスタレーションを通じて、認識の複層的な構造を探る制作を続けてきました。大黒屋で3年ぶり4回目となる今回の個展では、オーストリア・ニーダーエスターライヒ州(ウィーン北方)に位置するロースドルフ城(Schloss Loosdorf)で撮影された写真作品を中心に構成されます。中世に起源をもつこの城は、近世・近代の改修を経て現在に至り、1834年にフリードリヒ・アウグスト・ピアッティ伯爵の手に渡って以来、ピアッティ家の所有となりました。同家は北イタリアを起源とし、11世紀にまで文献上の言及を遡ることができる旧家です。ザクセン宮廷で要職を務めた時期もあり、かつては陶磁器の交易にも関わっていました。ドレスデンからロースドルフへ居を移す際、陶磁器コレクションもともに運び入れたと考えられています。



ロースドルフ城のコレクションは、17世紀以降にヨーロッパへ渡った東アジアの古伊万里や景徳鎮の陶磁、さらにはマイセンやウィーンなど欧州各地の名窯を含む多様な構成で知られ、「白い金」と呼ばれた陶磁をめぐる東西交流の象徴ともいえるものでした。しかし第二次世界大戦末期、城は旧ソ連軍に接収され、地下に隠された陶磁器の多くが破壊されます。戦後、砕かれた破片は「Scherbenzimmer(陶片の部屋)」に集められ、戦禍の記憶として静かに保管されました。

展示される写真作品は、この「陶片の部屋」に残された破片を、生命の象徴でもあるミルクに浮かべて撮影したものです。ミルクは破壊の痕跡を包み込み、再生を象徴する儀式の場として機能します。乳白の液体は陶片の鋭い輪郭をやわらげ、かつて器であった姿への想像を私たちに促します。



磯谷は、失われた形を物理的に修復するのではなく、分かたれたものの間に新たな関係を見いだし、精神的な側面からの修復を試みます。断絶を抱えながらも、「いま、ここ」において
陶片の歴史と記憶を再び結び合わせようとしています。タイトルの「パンゲア(Pangaea)」は、かつて地球上の大陸が一つであったとされる超大陸を指します。やがて分かたれた大陸を再び結んだ航海や交易の歴史は、東アジアの陶磁がヨーロッパへ渡った道のりとも重なります。ロースドルフ城に残る日本・中国・欧州の陶片は、交流と伝播、そして分断の記憶を静かに語りかけます。砕かれた断片を結び直す本展の試みは、歴史と物質の層を横断し、観る者の想像力を通して「再生」を促すひとつの回復の旅でもあるのです。  
本プロジェクトは、ロースドルフ城を所有するピアッティ家と磯谷によるコラボレーションから始まりました。何世代にもわたって日本を含む東アジアの陶磁器を収集してきたピアッティ家は、「陶片の部屋」に保管されてきた文化遺産(戦争遺産)と、現代美術を交差させる試みを構想しました。陶磁器コレクションの理念に共鳴した磯谷は、時間の層や破片の記憶、再生といった主題を軸に、陶片をめぐる歴史的な物語を現代へと接続することを試みます。彼にとってこの出会いは、異なる時代と場所を媒介する創造の契機でもあったといえるでしょう。
秋の紅葉深まる那須・板室温泉にて、ぜひご高覧いただけましたら幸いです。



会期 : 2025 年11月2日(日) - 11月30日 (日) 10:00 - 17:00

※11月2日のみ13時から開館いたします。

※展示は宿泊以外の方もご覧いただけます。