5月18日、加藤委さんによるアートを語る会が行われました。
大黒屋では、委(つぶさ)さんの器は酒器をはじめ館内でも使わせていただいております。また去年12月に行われた酒器展にも出品していただいており、関わりの深い委さんの器ですが、大黒屋での個展は今回が初めてです。
岐阜県多治見市出身の委さん。多治見は、美濃焼でも知られる窯業地です。しかし、委さんの作品はそういった伝統的な作風とは違い、青白磁を用いた独自の表現をされている方です。日本だけでなく海外でも高く評価されている委さん、どんなことを語られるのでしょうか。
委さんが生まれ育ったのは、志野、織部、黄瀬戸、引き出し黒など、いわゆる茶道具にもよく見られる美濃焼の産地、多治見。
物心ついた時には傍にやきものがあり、自然と陶芸の道に進んでいった委さん。家系は17代続く窯元の分家で生まれ育ちました。ただ、それらを自己の表現としてそのまま引き継ぐことに疑問を抱いた委さんは、独自の表現を模索するようになります。
陶芸の技術を製陶所で学び、大きさが決められた湯のみを1日に500個、日々作り続けていたそうです。そんな仕事の合間、バイク好きの委さんは多治見を離れよく旅に出かけ、様々な人と出会いの中である不安を抱きます。
「この生活を続けて自分が自分になれるのか?」
「陶芸」という型にとらわれない自己の表現とはなんだろうか?「陶芸家」と言われることに違和感を持ち、伝統としてのやきものではなく、ひとりの表現者としてのやきものを考えるようになります。新しい自分を見出すために5年間の製陶所勤務をやめ、個人作家として活動がはじまります。
自己の表現を模索している中、ある土との出会いが転機となります。
21歳の時、たまたま友人の手伝いで訪れた粘土工場、そこで触れた真っ白な磁土。それは、今もなお使い続けている、ニュージーランド産の土との出会いでした。磁土は知っていたけれども、磁器にはあまり興味がなく、民芸や伝統的なものに触れてきた委さんにとって冷たいというマイナスな印象しかなかったそうです。
その出会いを機に、それまで持っていた陶芸に対しての概念が払拭され、目の前のそのものを、その素材を扱ってみたいという気持ちに掻き立てられ、後にその土を扱うようになります。
しかし、その土では、できていた湯のみや壺など、ほとんど思うように形にならなかったそうです。ねばりがなく、いままでのろくろが通じない、土ではあるものの、全くの別物で試行錯誤の連続でした。
それでもあきらめずにその土を使い続け、自身の思う形ではなく、素材と対話しながら、そのものが自分に浸透していくような感覚、ものと自分が一体になった時に初めて作品になったとお話しされました。
その土との出会いから、現在もなお使い続け、型にとらわれない加藤委さん独自の表現、世界観が今回の大黒屋での展示でも展開されています。
最後に委さんに普段考えていることを◯△⬜︎に言葉を入れていただきました。
◯感 △創 ⬜︎堀
大黒屋での個展は5月30日までです。ぜひご来館ください。